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4 ラクタス王宮にて
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ラクタスに到着したとき、サリーナはアレクサンドルの腕の中で眠りに落ちていた。王宮の庭でサリーナを抱えたまま飛竜から飛び降りても、全く起きる気配がない。閉じられたまぶたは長いまつげに縁取られ、柔らかな唇は薄く開いて艶めかしい。
「本当に、美しいな……」
アレクサンドルは、寝ているサリーナの唇にツッと指先を滑らせると、そのまま頬をスルリと撫でる。外気に晒されていたせいか、少し冷たい。少しはマシだろうと身に付けていたマントでくるんで横抱きにすると、そのまま王宮に向かった。
「アレクサンドル様!急にお姿が見えなくなったので探しましたよ!いったいどこに行ってたんですかっ!」
アレクサンドルを見つけた侍従達が慌てて駆けつけてくる。
「うるさい。サリーナが起きるだろ。静かにしろ」
「……は?」
「ダルメール王国が我が国の傘下に入った。今後はダルメール地方として治めるように手配しろ。元王族は王宮に待機させている。騎士団隊長とともに飛竜部隊を向かわせ、速やかに拘束するように。後は任せる。」
「は、はいっ!」
侍従たちが指示受け、慌ただしく立ち去っていくと、
「ゲインはいるか!」
アレクサンドルは乳兄弟であり、腹心の部下でもある侍従長を呼んだ。
「はい、こちらに」
「任せる」
アレクサンドルは腕の中で眠るサリーナをずいっと差し出した。
「はっ……はあっ!?」
「サリーナだ」
「へ?ちょっと待ってください。サリーナ?ダルメール王国のサリーナ王女ですか?」
「元王女だ。ダルメールは今日我が国の領土となった」
「は、はぁ?何やってんですかアレクサンドル様……」
ゲインが頭を抱えると、アレクサンドルは拗ねたようにプイッと顔を背けた。
「ま、まあ、詳しい話は後で聞くとして、取りあえずサリーナ様を客室にお通ししましょう。メイドを呼んで部屋を整えさせますから」
「必要ない。サリーナはこのまま後宮に入れる」
「は、はぁ!?いきなり何いってんですか!サリーナ様は王妃としてお迎えするんでしょう!?ものには順序というものが…」
「サリーナは後宮で俺の奴隷にする」
「我が国には奴隷制度はありませんが?」
「本人にそう言って連れてきた」
「……馬鹿なんですか?ああもう!あなたって人は!どうせ後先考えずに勢いで行動したんでしょう!」
「……俺は悪くない」
「取りあえず後宮に部屋をお作りしますけど、後できっちり説明してもらいますからねっ!」
「……分かった」
ゲインの剣幕に渋々頷き、サリーナを渡そうとするが、サリーナが軽く身じろぎをするのを見ると、またしっかり抱き直す。
「いい。やっぱり俺が連れて行く」
そうして後宮に向かうアレクサンドルを、ゲインは呆れた顔で見送った。
「まったく……そんなに花嫁にするのが待ちきれなかったのかな」
ゲインはメイド達に後宮の部屋を整えるように指示を出すと、慌ててアレクサンドルの後を追った。
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