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事件の結末

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 幼子の体から流れる血を見たレンヌは激昂していた。
「アルテミス1。コイツらから黒幕を吐かせろ」
 アストロンが自白剤を注射すると、二人の黒ずくめは全てを白状した。
「トリニスタン、許さん」
 レンヌはアイシスに顔を向けた。

「アイシス!」
 アイシスは頷いた。
「すぐに法務院で拘束する」
  走り出したアイシスは、 あっという間に小さくなった。レンヌは大型ドローンのマニピュレータに抱えられて空高く上がった。そのままアイシスの後を追う。
 アルテミス1は自白した二人に麻酔薬を注射して、大型ドローンで宙吊りにしてからレンヌに追従させた。

 トリニスタンはアイシスに捕らえられ拘束される。笛を拭いた男は総首領だった。総首領の自白画面を見せられ、トリニスタンは観念した。自白する状況をアストロンが記録する。

 王都にある闇組織の元締めにレンヌの暗殺を頼んだ。闇組織はトリニスタンに向かったが、王都に来るレンヌとは行き違いになったようだ。王都に戻ってきた『総首領』と名乗る闇組織の元締めと再度接触した時に、話が違うと言われて契約破棄を言われた。
「1級冒険者とは聞いてない。しかも、スタンピードを終息させるような化け物を相手できない」と断られた。
 結局、腕利きの手下を五十名以上集めるので、それなりの金が必要だと言われ金貨1万枚で手を打った。闇組織には何百人という配下がいるようで、アイシス伯爵家にレンヌが宿泊している事に気づいた。それから、毎日見張りをつけてレンヌたちの動きを調べていたようだ。

 レンヌが録画した自白場面の映像と生き残りの証言により、トリニスタンの犯罪は明らかになった。現在、王国軍の牢屋で国王の裁可待ちである。

 トリニスタンを法の下で裁くと言うが、レンヌは納得できなかった。なぜなら、死人が出なかったというふざけた理由で、重い処罰は見込めないと言うのだ。
 辺境伯爵という高位の貴族を重い処分にする時は、その理由を明らかにする必要がある。
   結局、暗殺は未遂で終わったのだから、重い処分にするには理由が軽いというのが法務院の見解だ。
 アイシス伯爵は法務院で主席審議官をしている。彼がそう予測するのだから、多分そういう結果が出るのだろう。

 数日後、トリニスタン辺境伯爵は伯爵に降格され、山間部に領地替えになった。基本的に貴族の爵位は下がることが無い。だから、今回の降格処分は重いと言える。更に、トリニスタンからレンヌに、賠償金として金貨一万枚が支払われることになった。
 初め、レンヌは賠償金を断った。しかし、ブロッケン宰相が出した条件を聞いて、一旦保留にして持ち帰った。
「トリニスタン辺境伯爵の伯爵への降格と賠償金の支払いで手打ちにしてくれれば、白壁山脈から南のリール王国の国境までの一部を新たにレンヌの領地に加える」
 これは実質的な、辺境伯爵への布石である。ブロッケン宰相がエイベル侯爵を牽制する為に、国王に進言した案だった。
   相談したルーベンスとアイシス夫妻、そしてゴランが同じ事を言うのでレンヌは諦めた。
「貴族である以上は国王や宰相の言う事は命令と同じだ。どうせ、押しきられるのだから抵抗するだけ無駄だ」
   しかし、これによりエルフの里はレンヌの領地の中に入った。

 だが、子供たちを酷く傷つけられたレンヌは、気持ちが収まらなかった。腹いせに、王都の闇組織を片っ端から見つけ出しては捕縛した。小型ドローンを王都に放って一月になるので、闇組織の情報は全て集まっていた。

 いきなり五百人もの悪人を押し付けられて警務院は牢屋が足りずに王国軍の牢屋と法務院の牢屋を借りた。それでも足りないので、冒険者ギルドの屋根付きの訓練場の方に押し込み、見張りの兵士をつけた。

 一方、王城ではブロッケン宰相が、トリニスタン辺境伯爵を警務院の審議官に推した件で、エイベル公爵と王太子の責任を追求していた。トリニスタンは前回の責任を取っていないにも拘らず審議官に就任しており、国王も納得していなかった。とうぜん、トリニスタンを強く推した二人に疑問を持っている。

 国王には、男児が王太子しかいない。現在の王位継承権二位は国王の叔父であるブロッケン公爵だ。
 ロワール王国は過去に女性が国王になった事が無いので、男子優先ではあるが重臣たち全員が同意すれば可能性はある。そういう意味では第一王女が王位継承権の二番目で第二王女は三番目ということになる。

 王太子であっても失敗が続けば廃嫡される恐れがあった。そのため、二度の失敗は大きな失策になった。しかし、今回の事で宰相から責められているので、先ずはこれを挽回しなくてはならない。汚名返上するほどの功績が必要だった。

 エイベル侯爵にしても王妃からの哀願で国王は今まで我慢してきたが、かなりの不信感が溜まっている。
  エイベル本人もそれに気づいているので、今後は目立った事はできない。両名にどんな沙汰が下るかは国王の胸先三寸である。



   暗殺未遂事件が片付いたので、レンヌはトリニスタンに帰ってきた。
  拠点に帰って子供たちに会ったレンヌは、みんなの元気な姿を見て安心する。幸いにも誰一人もトラウマを抱えていなかった。レンヌは、アルテミス1の完璧なフォローに感謝した。
「アルテミス1、子供たちのケアーをありがとう。みんなが元気で安心したよ」
「艦長、子供たちが健やかで何よりです。私も嬉しく思います」
「ところで、あのホログラムは、いつ作ったんだ?」
「艦長が、最初に王都に行かれた時です。子供たちに頼まれて作りました」
「そうか。でも、触れることが出来ないので子供たちに不満はないか?」
「はい、子供たちは懐いてくれています」

『だけど、子供たちには生身の母親が必要だ』
   とレンヌは思った。
   しかし、二十五年間も恋人の一人もできなかったヘタレ男に、そんな甲斐性は無かった。

   翌日、アイシスから連絡が入った。
「国土院と領地管理院の調査官が、領地を決める選定作業に入りたいので立ち会って欲しいと言っている」

「それならば、飛空艇で王都まで迎えに行くので、そのまま領地候補の場所まで送ります」 と伝えてもらった。その後、王都で待ち合わせる日時と場所を決めた。

   当日、待ち合わせ場所のアイシス伯爵邸に行くと、なぜか国王と宰相もいた。たくさんの護衛騎士に紛れていたアイシスを見つけ出す。レンヌは理由を聞いた。

「空を飛ぶという貴重な体験に儂を呼ばないとは、レンヌ伯爵は国王に対する敬意が足りぬのではないか?」
   と、駄々をこねたので、呆れたブロッケン宰相がお供をしてきたらしい。
「どうやら調査官から情報が漏れたらしい」とアイシスは言う。
   レンヌは国王に拝謁をして飛空艇に案内した。馬と国王を同じ場所に乗せる訳にもいかないので、馬はアイシス伯爵邸に置いていく。

    国王と宰相を窓際の席に座らせ、護衛騎士たちを適当に座らせる。飲み物を配りレンヌは説明をした。
「領地候補の場所を上から見て、大まかな選定をします。そのあと、下に降りてから細かい部分を決めます」

   皆は静かに頷いた。
「では、出発します」
   飛空艇は振動も音も無く浮上する。窓から外を眺めていた国王は子供のようにはしゃぎ威厳も何も無い。
 ブロッケン宰相は冷静に見えたが、その目は大きく見開かれていた。只でさえ大きな目が溢れそうだった。

「前進するので椅子にしっかり掴まってください」
   離着陸時にも振動が起こらない飛空艇に、シートベルトは必要無い。ただ、前進する時は椅子に圧迫される。

   飛空艇は艇内調圧装置があるので高度を上げても艇内の圧力に変化は無い。 初体験の者ばかりなので、飛空艇は徐々に速度を上げた。全員が下に見える雲に驚いたり、遥か下にある景色にびっくりしていた。

    白壁山脈とエルフの里の間にできた、広大な更地の上空に飛空艇は停泊した。レンヌは、飲み物や軽食を用意して、国王たちの世話をアイシスに頼んだ。
   そのあと、調査官と一緒に操縦席に移動し、モニターに映る詳細な現場の地図と実際の映像を見比べながら場所を選定していく。モニターの地図で大まかな選定をして、調査官が持参した地図に書き移した。大まかな選定が終わった後、飛空艇を境界上まで移動して細かい場所を決定した。一時間ほどで全てが終わったので、着陸して国王たちを地上に降ろした。



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