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Data0
talk& 色んな属性
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学校前の交差点でこげ茶の揺れるポニーテール。
それはさっきまで見ていた路月さんの物……のハズ。
………恐らくは。
「さ、さっきぶり」
後ろから声をかける。
これで、人違いであればすっごい恥ずかしいが、そんな事は杞憂に終わった。
「あぁ、奈倉さん」
路月さんだった。
俺の過ぎた杞憂なんて知りもせず、口を開く。
「あのー、一つお願いがあるんですけど……いいですか?」
「あぁ、うん俺でよければ聞くよ」
路月さんは重々しく口を開ける。
「もし良かったらでいいですけど、学校の事を教えてくれますか?」
「俺で良ければ」
「それじゃ、明日お願いします」
路月さんは、さりげなく歩幅を合わせて、隣に来る。
気にせず家に向かって歩く。
何か引っかかるけど、何が引っかかってるのか分からない。
「奈倉さんがお隣で良かったです」
「どして?」
「優しそうな人なので」
その一言に、何故か引っかかりを違和感を感じながら、話を続ける。
「どこも優しくないよ」
「そうですか?席を開けてくれてたじゃないですか」
「そう言うのにあんまり興味がないだけだよ」
そこで、ハッと気づく。
「どうかしました?」
やっと分かった。
引っかかりと違和感の正体。
「俺、路月さんに自己紹介したっけ?」
「あぁ、うちの親が言ってましたので」
「言ってた?なんて?」
「『奈倉さんのとこの子供だと安心して預けれる』って」
ん?どういう事?預ける?
まぁ、親父と似たような思考回路だって事は分かった。
「類は友を呼ぶってやつですね」
「ホントですよぉー」
路月さんは苦笑を浮かべる。
「お互い、色々とこれから親には苦労しそうですね」
路月さんも、何かしら親にちょっとした不満を感じてるらしい。
これも、類は友を呼ぶってやつかも知れない。
「友達って結構簡単にできる物なんですね」
「らしいな」
「これからよろしくお願いしますね、奈倉さん」
これを友達と呼んでい物かは分からんが、悪い気はしない。
懐かしい気もする。こう言う事は最近なかったから。
「改めて言う事でもないと思うけど?」
そんな事を話していると、家に着いた。
「また明日学校で」
そう言って路月さんは、玄関を閉める。
その光景を横目に見ながら、俺も家の玄関を開ける。
「ただいまー」
←REAL←
「おかえりー」
俺の声に、おふくろの声が返ってきた。
靴を脱ぎ、リビングに行く。
「おう、おかえり」
親父がいた。
いつもなら、まだ帰ってきてない時間帯のハズなのに。
「何で居んの?」
「お?たまたまだよ、たまたま」
ネクタイを取りながら言う。
「ふーん」
キッチンに空の弁当を置いて、部屋に行く。
部屋のドアを閉めて、パソコンを立ち上げる。
ブォォォォと排気音を鳴らしながら、立ち上がる。
すかさず、HEBMDSUをつけて、データをロードする。
「よっし!やりますか!」
→HEBMDSU→
ロードしたら喫茶店に居た。
そういやここで、セーブしたんだっけ。
目の前には、見たことのないアバターが居た。
「お!これが結杜か?」
取り合えず、目の前にいる"これ"とか言って来た恐らく雪街であろう"セウス"とか言う人間族に、無言で蹴りをいれる。
「うぉっぷ、っぶねぇ!」
蹴りは当たらなかったが、避け方で雪街だと分かった。
良かった、他の人じゃなくて。
「あ、雪街」
「『あ、雪街』じゃねぇよ!なんだよいきなり!」
「何だよその恰好……」
頭に羽付きの帽子を被って、ファンタジーの弓使いみたいな恰好をしている。
その見た目に反して、武器を持ってる感じはしない。
「弓無いのに、弓使いのつもり?」
「ざーんねん!銃使いです!」
服を広げる。
中には右側と左側、3個ずつのホルスターには全部銃が入っていた。
その中には、ショットガンやスナイパーライフルとか言う長い銃、他にもナイフが軽く10本程収納されていた。
「そんなに持ってどうするんだ?」
「全部使うんだよ」
そう言って、一つの拳銃を取り出す。
それをこっちに投げる。
「うわ、危なっ」
そう言いながらも、ちゃんとキャッチする。
「おぉ!ナイスキャッチ」
「どういう事?」
「カッコイイっしょ」
「はいはい、カッコいい」
受け取った銃を投げ返す。
雪街は綺麗に左手でキャッチし、その流れのまま元の場所に戻す。
右手でメニューを開き、なにやら操作をしている。
「ほれ、受け取れ」
そう言って、雪街のフレンドの申請が来る。
「はいはい受け取りますよ」
申請を承諾したところで、雪街が聞いてくる。
「なぁ結杜、そのアバターって人間族?」
「いや、違うよ、結杜君は僕と同じ未知族だよ」
店長の声がした。
後ろを見ると、喫茶店の玄関が音を鳴らして開く。
「あんまり人のギルドで危ない事しないでね、ただいま」
「創君は人間族だったけ?」
「そうですよ!創だけに!なんちって!」
雪街は寒い事を言いながら、にこやかに答える。
「あ、おかえりであってますか?」
「うん、あってる」
店長はキッチンに入って、なんとも喫茶店で出てきそうなケーキを二つカウンターに置く。
「はい、どうぞ」
俺と雪街は、ケーキに釣られてカウンターに座る。
それを確認した、店長はコーヒーを淹れながら、雪街に聞く。
「創君は榛也君待ちかい?」
「ん!まだ来てないっぽいですけどねぇ……、あ、店長コーヒーおかわり!」
そんなのどかなやり取りをしていると、荒々しく喫茶店の玄関が開けられる。
店長は玄関の方を見ずに、荒々しく開けた人物を言い当てる。
「もうちょっと大人しく開けてくれると嬉しいんだけど……鬼梗君?」
「すまん、まーるさん!ちょっと急いでた!」
急いできて、"店長"ではなく"まーるさん"と、呼んでいる。
多分、HEBMDSU内での、店長の愛称だろう。
普段店長に使っている敬語も付いてない。
店長はそんな事も気にせずに、「気を付けてねー」と軽く返す。
「いや、そんな急がなくても、まだ菊乃さん来てないよ」
雪街がコーヒーを飲みながら落ち着かせようとしていると、キッチンの方から菊乃さんの声がした。
「来てますがー?」
菊乃さんは、この喫茶店の雰囲気に合ったトレーを持って、キッチンから出てきた。
その上には小さな透明な石みたいな何かが丁寧に一つだけ置いてあった。
「あー、久しぶりに見たこれ」
雪街が触ろうとすると、トレーを投げてものすごい勢いで雪街の右手を止める。
反射的になのか、雪街も瞬時に銃を取り、菊乃さんに突き付ける。
トレーは綺麗に榛也の方に飛んでいく。
「これは結杜君のやつだよ」
雪街、菊乃さん共に拮抗した状態で、話をする。
トレーは無事に榛也がキャッチした。
「ちょっと手が出そうになっただけじゃないですか」
「ここでの戦闘は避けてくれると嬉しいんだが?」
店長が二人の肩を掴んで強引に割って入る。
店長の力と気迫にやられたのか二人共引き下がる。
そんなことは全く気にもしてない榛也が俺にトレーを渡してくる。
「ほいこれ、”属性の宝玉”」
「ほう…ぎょく?なにそれ?」
榛也の後ろから、菊乃さんがひょこと出て来て付け足す。
「それ、結杜君の為にお姉さん達がとってきたのだ!」
フフンと鼻を鳴らし、自信満々に胸を張っているが、結局何なのか分からない。
「あぁ、それ、属性調べるやつ」
榛也がこれでもかと言わんばかりに簡単に補足してくれる。
「ありがと……ん?確かある程度、物語を進めないと属性って調べられないんじゃなかったっけ?」
そんな事を言ってたから、物語を手伝ってもらってた気がするんがけど。
不思議そうに石を眺めていると、店長が教えてくれた。
「あぁ、出回ってたから買い取ったんだ、伊達に商業ギルドなんてしてないよ」
今度は困惑する。それもそうだ。
え?これって物語で重要な物じゃないの?出回ってるものなの?
てっきり、物語を頑張ってやっとの事で手に入れる物だと思っていた。
やっぱりこの人達、規格外じゃない?昨日の何だったの?めっちゃ頑張ったよ?
これが噂の"ご都合主義"ってやつなんじゃ………?
「あぁー、どうしても結杜君の属性が気になって……」
恥ずかしがりながら言うが、この人は今現在、物凄い事をしている事を自覚しているのか?
かなり不安である。しかしまぁ、自分でも属性は気になる。
「これどうやって使うんだ?」
雪街が触ろうとしたら菊乃さんが止めてたから、下手に触れたらいけないって事位しか分からない。
榛也は「あ、そっか」と言って説明を始める。
「これが自分の属性を確認する、まぁ、簡単に言うと"水見式"ってやつだ、いや……一応、石だから"石見式"なのか?」
「じゃ、手をかざせばいいの?」
「いや、もう、こうがっつりと」
そう言いながら、右手を握る。
自分の属性か………。
トレーに置いてある石を手に取る。
『属性を測定しますか?』
と言う一文がメニュー画面に表示されている。
「はい」
小さく自分にだけ聞こえるように呟く。
その声に応えるように、石が光り出す。
眩しすぎて、目を瞑ってしまう。
気付けば、石の光は消えて、透明だった石は黒く濁っていた。
『属性:特異(風)を確認しました』
メニュー画面にその一文が表示された物の、あまり変わった気はしない。
まぁ、ゲームの中に入っている訳でもないから、体感的に変わるなんて事はないだろうが。
「へぇー、風なんて珍しい属性だねぇー」
榛也が俺のメニュー画面を覗いてくる。
「ちなみに、僕の属性は特異の"浸食"って言うんだ」
聞いても無いが、店長が言って来た。
にしても、同じ特異属性って言うのに聞いた感じ似ても似つかない位の違いがありそう。
「"浸食"ってどんなのなんですか?」
「んー、幻狼を倒したやつって言ったらわかるかい?」
頭に思い浮かべるのは幻狼を包んだ、いや、飲み込んだ謎の黒い粒子の集合体。
確かに、どんどん身動きを取れなくして蝕んでいく様は"浸食"の名前に相応しかったと思う。
「あれが"浸食"ってやつなんですか……、結構恐ろしいですね」
「でしょ?慣れるまで物凄く苦労したんだよ」
「……苦労するもんなんですか?」
俺の問いに対して店長は、不気味に口を歪ませ、強キャラ感マシマシで答える。
「まぁ、扱いとか手加減とか……ね」
榛也も続けて言う。聞いてもないのに。
「俺は双属性で"雷"8割、"炎"2割って所かな」
「双属性?」
また聞いた事ない単語が出てきた。
今日は覚えるのが大変そうな日だ。
「2つ属性を持ってるって事だよ」
基本的に1人1つだと思ってたから、かなり驚いた。
しかも割合まであるなんて……。
「そんな事ってあるの?」
「ある、しかも先天的と後天的の2つがな、俺の場合は後天的だな」
「後天的?後から追加でもしたって事?」
属性を追加?どういう事だ?
もう既に頭がパンクしそうである。と言うか若干パンクしてる。
覚えるのが大変どころではない気がしてきた。
「かなりレアなアイテムで属性を追加する事が出来るんだ、馬鹿にならない程大変だけどな」
「じ、じゃ先天的って言うのは?」
まさかとは思うが、さすがにそんな事は……と思っていると、榛也が話す。
「かなり稀にだけど最初に属性を見た時に、2つ付いてる事があるんだ」
そのまさかだった。
最初から、属性2つ持ちなんて絶対強いじゃん。
そんな考えを見抜いたのか、榛也が肩に手を置いて言う。
「初期から双属性でも結局"レベル"があるから、未知族よりは弱いよ」
「……慰めのつもりか、それ?」
横で聞いてた雪街が呆れ気味で言い放つ。
まぁ俺も思ったケド、それは。
「雪街は?」
そう端的に聞くと、俺の意図を読み取ってくれたのか的確に答えてくれた。
「"流"って言って"水"の上位版の属性なのだよ」
属性にランクがあるのか。
……俺の頭がパンクして無くならないか心配になってきた…。
それ程ここの人達が強いって証拠なんだろうけど、初心者には優しくないよね……。
そう思えてならない属性を持った皆さんだった。
「そういや、菊乃さんの属性知らない」
雪街が呟く。
その呟きを聞き取った菊乃さんが答えた。
「私は"無"だよ、無属性」
「へぇ~、無属性なんだ、ずっと何かしらの特異属性だと思ってた」
雪街の言葉にムーっとふてくされて返す。
が、まぁ技を見たら、そう思える程強かった。
なんせ、居合切りで森がなくなるんだから。
「どーせ周りがめっちゃ強くて、目立たなくてよわっちいですよーだ」
「まぁ、無属性でそこまでできるのはすごいよ」
自分で言っときながら、フォローも自分でする雪街。
落としてあげる作戦なのか?
「そんなに落ち込む事ないよ、無属性って結構良いでしょ?」
皆の属性発表会に興味がなくなったのか、いつの間にかコーヒーを淹れていた。
本当に思うけど、いっつもコーヒー淹れてない?この人。
「結構良いってどういう事ですか?」
いつもの事だからか店長を気にせず、話を続ける雪街。
俺も若干この空気に慣れてきた。
慣れって怖いね。
「属性での弱点がない代わりに、全属性の被ダメージが3%UPするんだよ」
「それが"良い事"なんですか?」
ダメージが3%UPするんだったら、どっちかと言うと悪いんじゃ?
その考えにも、答えてくれる。
「"良い事"なんだよ、属性が付いてると弱点属性のダメージは30%UP、こっちの与えるダメージは半減するんだけど、無属性はそこまで大きく出ないからね。まぁ、その代わりに技一つ一つの攻撃力が結構低いんだ」
「デメリットよりメリットの方がちょっとだけ大きいって感じですか?」
「んー、属性を持ってる人達からするとそんな感じかな。どのみち僕達は"特異属性"であって、属性のくくりが違うし、弱点属性がどうとかは特にないから気にする事でもないけどね」
取り敢えず確実に分かった事は、"属性考えた人すげぇなぁ"って事と、ここの人達は本当に初心者に優しくない人達の集合体って事だけだった。
それを顔を見て読み取ったのか、榛也が言う。
「強くなると大体そんなもんだよ。お前は現時点で意味分からん程強いけどな」
それを言われて、ハッとする。
「そうじゃん、俺も特異属性だったわ」
「なんで自分の属性忘れんの?」
雪街は呆れ気味に言う。
「お前も化け物の仲間だぁー」
「だぞぉー」
榛也はニヤァと笑って冗談交じりに言う。
菊乃さんも乗っかって、「がおー」っと爪を立てる。
本当に結構鋭利な爪が伸びる。
耳がうさ耳じゃなかったら、完璧に猫だわ、これ。
「化け物かぁー、全く嬉しくねぇなぁー」
いつの間にか席についていた雪街は、コーヒーを飲みながら言う。
「あっつ!」と騒いでいる雪街に、軽口をたたく程度に答える。
「そりゃぁ、淹れ立てだからね」
そのやり取りを見て、ふと言葉が零れる。
「……属性の話はどこ行った?」
勝手に始まった属性の話は、俺を置いて勝手に終わった。
本当自由だな、ここの人達。
それはさっきまで見ていた路月さんの物……のハズ。
………恐らくは。
「さ、さっきぶり」
後ろから声をかける。
これで、人違いであればすっごい恥ずかしいが、そんな事は杞憂に終わった。
「あぁ、奈倉さん」
路月さんだった。
俺の過ぎた杞憂なんて知りもせず、口を開く。
「あのー、一つお願いがあるんですけど……いいですか?」
「あぁ、うん俺でよければ聞くよ」
路月さんは重々しく口を開ける。
「もし良かったらでいいですけど、学校の事を教えてくれますか?」
「俺で良ければ」
「それじゃ、明日お願いします」
路月さんは、さりげなく歩幅を合わせて、隣に来る。
気にせず家に向かって歩く。
何か引っかかるけど、何が引っかかってるのか分からない。
「奈倉さんがお隣で良かったです」
「どして?」
「優しそうな人なので」
その一言に、何故か引っかかりを違和感を感じながら、話を続ける。
「どこも優しくないよ」
「そうですか?席を開けてくれてたじゃないですか」
「そう言うのにあんまり興味がないだけだよ」
そこで、ハッと気づく。
「どうかしました?」
やっと分かった。
引っかかりと違和感の正体。
「俺、路月さんに自己紹介したっけ?」
「あぁ、うちの親が言ってましたので」
「言ってた?なんて?」
「『奈倉さんのとこの子供だと安心して預けれる』って」
ん?どういう事?預ける?
まぁ、親父と似たような思考回路だって事は分かった。
「類は友を呼ぶってやつですね」
「ホントですよぉー」
路月さんは苦笑を浮かべる。
「お互い、色々とこれから親には苦労しそうですね」
路月さんも、何かしら親にちょっとした不満を感じてるらしい。
これも、類は友を呼ぶってやつかも知れない。
「友達って結構簡単にできる物なんですね」
「らしいな」
「これからよろしくお願いしますね、奈倉さん」
これを友達と呼んでい物かは分からんが、悪い気はしない。
懐かしい気もする。こう言う事は最近なかったから。
「改めて言う事でもないと思うけど?」
そんな事を話していると、家に着いた。
「また明日学校で」
そう言って路月さんは、玄関を閉める。
その光景を横目に見ながら、俺も家の玄関を開ける。
「ただいまー」
←REAL←
「おかえりー」
俺の声に、おふくろの声が返ってきた。
靴を脱ぎ、リビングに行く。
「おう、おかえり」
親父がいた。
いつもなら、まだ帰ってきてない時間帯のハズなのに。
「何で居んの?」
「お?たまたまだよ、たまたま」
ネクタイを取りながら言う。
「ふーん」
キッチンに空の弁当を置いて、部屋に行く。
部屋のドアを閉めて、パソコンを立ち上げる。
ブォォォォと排気音を鳴らしながら、立ち上がる。
すかさず、HEBMDSUをつけて、データをロードする。
「よっし!やりますか!」
→HEBMDSU→
ロードしたら喫茶店に居た。
そういやここで、セーブしたんだっけ。
目の前には、見たことのないアバターが居た。
「お!これが結杜か?」
取り合えず、目の前にいる"これ"とか言って来た恐らく雪街であろう"セウス"とか言う人間族に、無言で蹴りをいれる。
「うぉっぷ、っぶねぇ!」
蹴りは当たらなかったが、避け方で雪街だと分かった。
良かった、他の人じゃなくて。
「あ、雪街」
「『あ、雪街』じゃねぇよ!なんだよいきなり!」
「何だよその恰好……」
頭に羽付きの帽子を被って、ファンタジーの弓使いみたいな恰好をしている。
その見た目に反して、武器を持ってる感じはしない。
「弓無いのに、弓使いのつもり?」
「ざーんねん!銃使いです!」
服を広げる。
中には右側と左側、3個ずつのホルスターには全部銃が入っていた。
その中には、ショットガンやスナイパーライフルとか言う長い銃、他にもナイフが軽く10本程収納されていた。
「そんなに持ってどうするんだ?」
「全部使うんだよ」
そう言って、一つの拳銃を取り出す。
それをこっちに投げる。
「うわ、危なっ」
そう言いながらも、ちゃんとキャッチする。
「おぉ!ナイスキャッチ」
「どういう事?」
「カッコイイっしょ」
「はいはい、カッコいい」
受け取った銃を投げ返す。
雪街は綺麗に左手でキャッチし、その流れのまま元の場所に戻す。
右手でメニューを開き、なにやら操作をしている。
「ほれ、受け取れ」
そう言って、雪街のフレンドの申請が来る。
「はいはい受け取りますよ」
申請を承諾したところで、雪街が聞いてくる。
「なぁ結杜、そのアバターって人間族?」
「いや、違うよ、結杜君は僕と同じ未知族だよ」
店長の声がした。
後ろを見ると、喫茶店の玄関が音を鳴らして開く。
「あんまり人のギルドで危ない事しないでね、ただいま」
「創君は人間族だったけ?」
「そうですよ!創だけに!なんちって!」
雪街は寒い事を言いながら、にこやかに答える。
「あ、おかえりであってますか?」
「うん、あってる」
店長はキッチンに入って、なんとも喫茶店で出てきそうなケーキを二つカウンターに置く。
「はい、どうぞ」
俺と雪街は、ケーキに釣られてカウンターに座る。
それを確認した、店長はコーヒーを淹れながら、雪街に聞く。
「創君は榛也君待ちかい?」
「ん!まだ来てないっぽいですけどねぇ……、あ、店長コーヒーおかわり!」
そんなのどかなやり取りをしていると、荒々しく喫茶店の玄関が開けられる。
店長は玄関の方を見ずに、荒々しく開けた人物を言い当てる。
「もうちょっと大人しく開けてくれると嬉しいんだけど……鬼梗君?」
「すまん、まーるさん!ちょっと急いでた!」
急いできて、"店長"ではなく"まーるさん"と、呼んでいる。
多分、HEBMDSU内での、店長の愛称だろう。
普段店長に使っている敬語も付いてない。
店長はそんな事も気にせずに、「気を付けてねー」と軽く返す。
「いや、そんな急がなくても、まだ菊乃さん来てないよ」
雪街がコーヒーを飲みながら落ち着かせようとしていると、キッチンの方から菊乃さんの声がした。
「来てますがー?」
菊乃さんは、この喫茶店の雰囲気に合ったトレーを持って、キッチンから出てきた。
その上には小さな透明な石みたいな何かが丁寧に一つだけ置いてあった。
「あー、久しぶりに見たこれ」
雪街が触ろうとすると、トレーを投げてものすごい勢いで雪街の右手を止める。
反射的になのか、雪街も瞬時に銃を取り、菊乃さんに突き付ける。
トレーは綺麗に榛也の方に飛んでいく。
「これは結杜君のやつだよ」
雪街、菊乃さん共に拮抗した状態で、話をする。
トレーは無事に榛也がキャッチした。
「ちょっと手が出そうになっただけじゃないですか」
「ここでの戦闘は避けてくれると嬉しいんだが?」
店長が二人の肩を掴んで強引に割って入る。
店長の力と気迫にやられたのか二人共引き下がる。
そんなことは全く気にもしてない榛也が俺にトレーを渡してくる。
「ほいこれ、”属性の宝玉”」
「ほう…ぎょく?なにそれ?」
榛也の後ろから、菊乃さんがひょこと出て来て付け足す。
「それ、結杜君の為にお姉さん達がとってきたのだ!」
フフンと鼻を鳴らし、自信満々に胸を張っているが、結局何なのか分からない。
「あぁ、それ、属性調べるやつ」
榛也がこれでもかと言わんばかりに簡単に補足してくれる。
「ありがと……ん?確かある程度、物語を進めないと属性って調べられないんじゃなかったっけ?」
そんな事を言ってたから、物語を手伝ってもらってた気がするんがけど。
不思議そうに石を眺めていると、店長が教えてくれた。
「あぁ、出回ってたから買い取ったんだ、伊達に商業ギルドなんてしてないよ」
今度は困惑する。それもそうだ。
え?これって物語で重要な物じゃないの?出回ってるものなの?
てっきり、物語を頑張ってやっとの事で手に入れる物だと思っていた。
やっぱりこの人達、規格外じゃない?昨日の何だったの?めっちゃ頑張ったよ?
これが噂の"ご都合主義"ってやつなんじゃ………?
「あぁー、どうしても結杜君の属性が気になって……」
恥ずかしがりながら言うが、この人は今現在、物凄い事をしている事を自覚しているのか?
かなり不安である。しかしまぁ、自分でも属性は気になる。
「これどうやって使うんだ?」
雪街が触ろうとしたら菊乃さんが止めてたから、下手に触れたらいけないって事位しか分からない。
榛也は「あ、そっか」と言って説明を始める。
「これが自分の属性を確認する、まぁ、簡単に言うと"水見式"ってやつだ、いや……一応、石だから"石見式"なのか?」
「じゃ、手をかざせばいいの?」
「いや、もう、こうがっつりと」
そう言いながら、右手を握る。
自分の属性か………。
トレーに置いてある石を手に取る。
『属性を測定しますか?』
と言う一文がメニュー画面に表示されている。
「はい」
小さく自分にだけ聞こえるように呟く。
その声に応えるように、石が光り出す。
眩しすぎて、目を瞑ってしまう。
気付けば、石の光は消えて、透明だった石は黒く濁っていた。
『属性:特異(風)を確認しました』
メニュー画面にその一文が表示された物の、あまり変わった気はしない。
まぁ、ゲームの中に入っている訳でもないから、体感的に変わるなんて事はないだろうが。
「へぇー、風なんて珍しい属性だねぇー」
榛也が俺のメニュー画面を覗いてくる。
「ちなみに、僕の属性は特異の"浸食"って言うんだ」
聞いても無いが、店長が言って来た。
にしても、同じ特異属性って言うのに聞いた感じ似ても似つかない位の違いがありそう。
「"浸食"ってどんなのなんですか?」
「んー、幻狼を倒したやつって言ったらわかるかい?」
頭に思い浮かべるのは幻狼を包んだ、いや、飲み込んだ謎の黒い粒子の集合体。
確かに、どんどん身動きを取れなくして蝕んでいく様は"浸食"の名前に相応しかったと思う。
「あれが"浸食"ってやつなんですか……、結構恐ろしいですね」
「でしょ?慣れるまで物凄く苦労したんだよ」
「……苦労するもんなんですか?」
俺の問いに対して店長は、不気味に口を歪ませ、強キャラ感マシマシで答える。
「まぁ、扱いとか手加減とか……ね」
榛也も続けて言う。聞いてもないのに。
「俺は双属性で"雷"8割、"炎"2割って所かな」
「双属性?」
また聞いた事ない単語が出てきた。
今日は覚えるのが大変そうな日だ。
「2つ属性を持ってるって事だよ」
基本的に1人1つだと思ってたから、かなり驚いた。
しかも割合まであるなんて……。
「そんな事ってあるの?」
「ある、しかも先天的と後天的の2つがな、俺の場合は後天的だな」
「後天的?後から追加でもしたって事?」
属性を追加?どういう事だ?
もう既に頭がパンクしそうである。と言うか若干パンクしてる。
覚えるのが大変どころではない気がしてきた。
「かなりレアなアイテムで属性を追加する事が出来るんだ、馬鹿にならない程大変だけどな」
「じ、じゃ先天的って言うのは?」
まさかとは思うが、さすがにそんな事は……と思っていると、榛也が話す。
「かなり稀にだけど最初に属性を見た時に、2つ付いてる事があるんだ」
そのまさかだった。
最初から、属性2つ持ちなんて絶対強いじゃん。
そんな考えを見抜いたのか、榛也が肩に手を置いて言う。
「初期から双属性でも結局"レベル"があるから、未知族よりは弱いよ」
「……慰めのつもりか、それ?」
横で聞いてた雪街が呆れ気味で言い放つ。
まぁ俺も思ったケド、それは。
「雪街は?」
そう端的に聞くと、俺の意図を読み取ってくれたのか的確に答えてくれた。
「"流"って言って"水"の上位版の属性なのだよ」
属性にランクがあるのか。
……俺の頭がパンクして無くならないか心配になってきた…。
それ程ここの人達が強いって証拠なんだろうけど、初心者には優しくないよね……。
そう思えてならない属性を持った皆さんだった。
「そういや、菊乃さんの属性知らない」
雪街が呟く。
その呟きを聞き取った菊乃さんが答えた。
「私は"無"だよ、無属性」
「へぇ~、無属性なんだ、ずっと何かしらの特異属性だと思ってた」
雪街の言葉にムーっとふてくされて返す。
が、まぁ技を見たら、そう思える程強かった。
なんせ、居合切りで森がなくなるんだから。
「どーせ周りがめっちゃ強くて、目立たなくてよわっちいですよーだ」
「まぁ、無属性でそこまでできるのはすごいよ」
自分で言っときながら、フォローも自分でする雪街。
落としてあげる作戦なのか?
「そんなに落ち込む事ないよ、無属性って結構良いでしょ?」
皆の属性発表会に興味がなくなったのか、いつの間にかコーヒーを淹れていた。
本当に思うけど、いっつもコーヒー淹れてない?この人。
「結構良いってどういう事ですか?」
いつもの事だからか店長を気にせず、話を続ける雪街。
俺も若干この空気に慣れてきた。
慣れって怖いね。
「属性での弱点がない代わりに、全属性の被ダメージが3%UPするんだよ」
「それが"良い事"なんですか?」
ダメージが3%UPするんだったら、どっちかと言うと悪いんじゃ?
その考えにも、答えてくれる。
「"良い事"なんだよ、属性が付いてると弱点属性のダメージは30%UP、こっちの与えるダメージは半減するんだけど、無属性はそこまで大きく出ないからね。まぁ、その代わりに技一つ一つの攻撃力が結構低いんだ」
「デメリットよりメリットの方がちょっとだけ大きいって感じですか?」
「んー、属性を持ってる人達からするとそんな感じかな。どのみち僕達は"特異属性"であって、属性のくくりが違うし、弱点属性がどうとかは特にないから気にする事でもないけどね」
取り敢えず確実に分かった事は、"属性考えた人すげぇなぁ"って事と、ここの人達は本当に初心者に優しくない人達の集合体って事だけだった。
それを顔を見て読み取ったのか、榛也が言う。
「強くなると大体そんなもんだよ。お前は現時点で意味分からん程強いけどな」
それを言われて、ハッとする。
「そうじゃん、俺も特異属性だったわ」
「なんで自分の属性忘れんの?」
雪街は呆れ気味に言う。
「お前も化け物の仲間だぁー」
「だぞぉー」
榛也はニヤァと笑って冗談交じりに言う。
菊乃さんも乗っかって、「がおー」っと爪を立てる。
本当に結構鋭利な爪が伸びる。
耳がうさ耳じゃなかったら、完璧に猫だわ、これ。
「化け物かぁー、全く嬉しくねぇなぁー」
いつの間にか席についていた雪街は、コーヒーを飲みながら言う。
「あっつ!」と騒いでいる雪街に、軽口をたたく程度に答える。
「そりゃぁ、淹れ立てだからね」
そのやり取りを見て、ふと言葉が零れる。
「……属性の話はどこ行った?」
勝手に始まった属性の話は、俺を置いて勝手に終わった。
本当自由だな、ここの人達。
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書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
3024年宇宙のスズキ
神谷モロ
SF
俺の名はイチロー・スズキ。
もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。
21世紀に生きていた普通の日本人。
ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。
今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。
※この作品はカクヨムでも掲載しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
Reboot ~AIに管理を任せたVRMMOが反旗を翻したので運営と力を合わせて攻略します~
霧氷こあ
SF
フルダイブMMORPGのクローズドβテストに参加した三人が、システム統括のAI『アイリス』によって閉じ込められた。
それを助けるためログインしたクロノスだったが、アイリスの妨害によりレベル1に……!?
見兼ねたシステム設計者で運営である『イヴ』がハイエルフの姿を借りて仮想空間に入り込む。だがそこはすでに、AIが統治する恐ろしくも残酷な世界だった。
「ここは現実であって、現実ではないの」
自我を持ち始めた混沌とした世界、乖離していく紅の世界。相反する二つを結ぶ少年と少女を描いたSFファンタジー。
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