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田中ライコフ

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おまけ

叶真の災難1

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 時刻は丑三つ時の午前二時。人々がすっかり寝静まり、辺りは静寂に包まれる中、江藤叶真は頼りない外灯が闇を照らす道を、ゆっくりした足取りで歩いていた。
 叶真はバイトの帰りだった。本当はもっと早い時間に終わっていたはずだったがトラブルに合い、こんな日に限って他の人間ともなかなか連絡がつかず、気付けばこんな時間まで残る羽目になってしまった。
 終電はとっくにない。しがない大学生である叶真にとってタクシーを使うことは贅沢だ。少し時間はかかるが歩いて帰れない距離ではないと、叶真は自宅まで歩くことにした。
「げっ、まじか……」
 スマホの画面に目を落とした叶真はそう呟く。ホーム画面にはある男からの連絡を知らせるメッセージが三つほど通知されていた。
 相手の名は成川恭介。紆余曲折あり今では叶真のセックスフレンドだが、元は反吐が出るほど憎らしく、大がつくほど嫌いな男だった。
 性に奔放で男女問わずに抱きまわっていた叶真は、恭介に会うまではバリタチを名乗っていた。だが恭介に無理やり犯され、タチとしてまるで機能しなくなってしまったのだ。
 恭介になんとか一泡吹かせたいと、恭介の挑発に乗ってしまった結果、二人は何度も身体を重ね合い、気付けばそういう関係になってしまった。
 はっきりいって身体の相性はすこぶる良い。だがタチに戻ることを諦めきれていない叶真にとって、抱かれる行為はまだ少し抵抗がある。恭介に対して苦い気持ちがあることも確かだ。恭介も自分に対してなにやら執着があるらしいが、それがなんなのかは叶真にも、そして恭介本人すら分かっていないらしい。
 そんな恭介からの連絡といえば一つしかなく、それは十中八九セックスの誘いだろう。
 バイト終わりの時間を把握している恭介は、叶真が自分の連絡を無視しているとおもっているはずだ。間違いなく機嫌を損ねている。恭介は叶真より八つ年上だが、一度機嫌を損ねると身体は大人な分、子供よりも厄介だ。
 バイト中のトラブルに、故意ではないといえ恭介の連絡をスルー。今日は厄日かと叶真はスマホの画面を閉じながら深いため息を吐く。暗転したスマホの画面に人影が映ったことに気付いたのは、まさにため息を吐いたその時だった。
 背後から頭に突然強い衝撃を感じる。脳が揺れる感覚に思わず膝を地面につけると、今度は腹部に打撃が飛んできた。
 急なことに叶真はうめき声一つ上げることもできず、地面に倒れこむ。砂埃が口に入り込み、叶真はようやく自分の身に何が起きているのか、考えられるようになった。
「ごめんねー、誰だかしらないけど」
 聞いたことのない男の声だった。年齢は叶真と変わらないか、少し上かもしれない。謝っているわりに、少しも悪いと思っていない声音だった。
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