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田中ライコフ

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理解の出来ない優しさ1

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 どうして自分はここにいて、キョウスケは横にいるのだろうか。
 煙草の匂いが強く香るベッドに寝かされながら叶真はそう思っていた。
 無理やり叶真を犯したキョウスケは、一度達すると満足したのかすぐに叶真を解放した。だが暴力のような一方的なセックスに叶真は歩くどころか声を出すこともままならず、そこが便所だと分かっていても糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちるしかなかった。
 叶真の惨状にキョウスケが声を掛けた気がしたが、薄ぼんやりとした意識ではそれを上手く聞き取れない。もっとも聞き取れたとしても声を出せない叶真に返事は出来なかっただろう。
 てっきりその場に放置されると思っていた叶真だったが、キョウスケは叶真をおぶさるとタクシーに乗せた。行き先も上手く聞き取れなかったが、タクシーの中で叶真に肩を貸したキョウスケは、犯されたときと別人のように優しく感じた。
 一体この男はなんだというのだろうか。
 叶真はキョウスケに背を向けたまま考える。
 叶真が連れられてきた場所は単身者向けのマンションだ。叶真も一人暮らしをしていたが、部屋の様子から経済状況は叶真よりもよさそうだった。物は少なかったが一つ一つの物にこだわりを感じ、ベッドもスプリングが軋んだりはしない。部屋の雰囲気や漂う香りからキョウスケの自宅であるのは間違いないだろう。
「おい、水飲むか?」
 わざと背を向けて寝ていたというのに、キョウスケは叶真の顔を覗き込みながらそう尋ねる。その表情は心配そうに歪んでおり、それが叶真の調子を更に狂わせた。
「まだ声も出せないくらい痛むのか?」
 オロオロするキョウスケを見ているともうしばらくは黙っていようかと思ったが、悲鳴を上げていた喉はヒリヒリと痛み、水を欲していた。
「……もう話せる。水飲みたい」
 喉奥から絞り出した声はしゃがれていたが、ようやく話せるようになった叶真に、キョウスケはホッと一息をつく。
 キョウスケの力を借りて身体を起こした叶真はペットボトルに入った水を身体に流し込む。身体を滑り落ちる冷たい水が心地よかった。
 叶真はほとんど飲み干したペットボトルをキョウスケに手渡しながら、改めてこの男はなんなのかと考える。
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