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繋がる心
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「あっ……」
あまりの情熱に、アダマスの膝ががくがくと震える。
子供のような疎い口付けだけで満足していたアダマスにとって、その口付けはあまりにも刺激的だった。
「フォル、ティス……!」
小さく名を呼ぶと、それに応えるように口付けの雨が、アダマスに降り注ぐ。
フォルティスはアダマスの唇を何度も求めた。息が絡み合うような濃厚な口付けを、角度を変え、浅く、ときに深く交わす。
アダマスがフォルティスから解放されたのは、自分の足では立てなくなってからだった。
「……すまない。我を忘れた」
口付けの余韻で痺れる頭の中に、フォルティスの熱を帯びた声が響き渡る。
「俺は……俺は我慢しようとしたんだ。どんなに愛しく思っても、俺たちの身分は違う。お前のために命を使えるだけで俺は幸せなのだと思おうとした。なのにお前が……」
恨み言のように、フォルティスが言う。だがフォルティスの目に、非難の色はない。あるのは愛おしい者へ向ける、情熱的な眼差しだけだ。
アダマスは力の入らぬ身体を、そっとフォルティスに預ける。
「私のために、命を使うことが幸せなどと思うな。私と共に生きることが幸せなのだと……そう思って欲しい」
「共に、生きる……。そんなことが、許されるのか? 貴族の位もない、この俺が」
「許される。私が許そう。分かったのだ。お前が、どれだけ大切な存在なのか。お前が側にいなければ、私はもう、生きてはいけない」
「アダマス……」
「私はきっと……お前がフォルティスと名乗らなくても、フォルカのままだったとしても、お前を好きになっていただろう。理屈ではなく、私の魂がお前を求めているのだ。……世の理など気にもならないくらい、お前を愛している」
素直に心を告げると、ふいにフォルティスの身体が震えだす。アダマスはそれを慰めるように、そっとフォルティスを抱きしめた。
どんなに言葉で愛を示したとて、フォルティスの葛藤がなくなるわけではない。だからこそ、一人で背負い込む必要はないと、アダマスは言いたかった。
「私と共に生きろ、フォルティス」
アダマスはもう一度、自ら口付けをする。フォルティスのようには出来ず、触れるだけのものだが、今度はフォルティスも返事をするように、口付けを返してきた。
「子供の頃からずっと……あなたをお慕いしておりました。あなたが共にあれと言うのなら、私は喜んで従いましょう。……愛しております、アダマス様」
「フォルティス……!」
ようやく聞けたフォルティスの本当の気持ちに、アダマスは胸がいっぱいになる。今日という幸せのために、今まで辛いときを過ごしてきたのだと思った。
互いの気持ちは分かっていたはずなのに、言葉に表すだけで、こんなにも幸せが膨れ上がることを、アダマスは今まで知らなかった。
幸せを伝えるように、アダマスはフォルティスを強く抱きしめる。フォルティスも同じように強く抱きしめ返した。
二つの身体が一つに溶け込むのではないかと思うほど重ねあっていると、アダマスは身体の芯に火がつくような感覚が湧き出てくる。
「フォルティス……その……」
アダマスは身を捩らせようとする。だがフォルティスに強く抱きしめられているせいで、身体はぴくりとも動かない。
身体に疼く、火の正体を、フォルティスに知られたくなかった。知られれば羞恥で顔が見れなくなってしまう。
どうしていいか分からず、アダマスはわずかに身悶えた。そんなアダマスに、フォルティスは熱い吐息の交じる声を、吹きかける。
「なあ、アダマス……。俺もお前にしてみたいことがあるんだが……」
「なん、だろう?」
聞かなくても、本当は分かっていた。
フォルティスの声も、瞳も、身体も、自分と同じように熱いのだ。
「俺は、お前に触れたい」
心臓が大きく音をたて、フォルティスの言葉にきゅっとなる。今で充分に幸せなのに、これ以上の幸せなど、あっていいのだろうか。
互いを求め合うことも、計り知れない幸せも、アダマスにはどちらも未知のことだ。怖くないと言えば嘘になる。だがそんな思い以上に、アダマスもフォルティスの熱を求めていた。
「奇遇だな。……私も、お前に触れてみたい」
アダマスがそう言うと、フォルティスが雄の匂いを色濃く漂わせた。そして再び、噛み付くように唇をふせがれる。それが、二人の熱い夜の始まりだった。
あまりの情熱に、アダマスの膝ががくがくと震える。
子供のような疎い口付けだけで満足していたアダマスにとって、その口付けはあまりにも刺激的だった。
「フォル、ティス……!」
小さく名を呼ぶと、それに応えるように口付けの雨が、アダマスに降り注ぐ。
フォルティスはアダマスの唇を何度も求めた。息が絡み合うような濃厚な口付けを、角度を変え、浅く、ときに深く交わす。
アダマスがフォルティスから解放されたのは、自分の足では立てなくなってからだった。
「……すまない。我を忘れた」
口付けの余韻で痺れる頭の中に、フォルティスの熱を帯びた声が響き渡る。
「俺は……俺は我慢しようとしたんだ。どんなに愛しく思っても、俺たちの身分は違う。お前のために命を使えるだけで俺は幸せなのだと思おうとした。なのにお前が……」
恨み言のように、フォルティスが言う。だがフォルティスの目に、非難の色はない。あるのは愛おしい者へ向ける、情熱的な眼差しだけだ。
アダマスは力の入らぬ身体を、そっとフォルティスに預ける。
「私のために、命を使うことが幸せなどと思うな。私と共に生きることが幸せなのだと……そう思って欲しい」
「共に、生きる……。そんなことが、許されるのか? 貴族の位もない、この俺が」
「許される。私が許そう。分かったのだ。お前が、どれだけ大切な存在なのか。お前が側にいなければ、私はもう、生きてはいけない」
「アダマス……」
「私はきっと……お前がフォルティスと名乗らなくても、フォルカのままだったとしても、お前を好きになっていただろう。理屈ではなく、私の魂がお前を求めているのだ。……世の理など気にもならないくらい、お前を愛している」
素直に心を告げると、ふいにフォルティスの身体が震えだす。アダマスはそれを慰めるように、そっとフォルティスを抱きしめた。
どんなに言葉で愛を示したとて、フォルティスの葛藤がなくなるわけではない。だからこそ、一人で背負い込む必要はないと、アダマスは言いたかった。
「私と共に生きろ、フォルティス」
アダマスはもう一度、自ら口付けをする。フォルティスのようには出来ず、触れるだけのものだが、今度はフォルティスも返事をするように、口付けを返してきた。
「子供の頃からずっと……あなたをお慕いしておりました。あなたが共にあれと言うのなら、私は喜んで従いましょう。……愛しております、アダマス様」
「フォルティス……!」
ようやく聞けたフォルティスの本当の気持ちに、アダマスは胸がいっぱいになる。今日という幸せのために、今まで辛いときを過ごしてきたのだと思った。
互いの気持ちは分かっていたはずなのに、言葉に表すだけで、こんなにも幸せが膨れ上がることを、アダマスは今まで知らなかった。
幸せを伝えるように、アダマスはフォルティスを強く抱きしめる。フォルティスも同じように強く抱きしめ返した。
二つの身体が一つに溶け込むのではないかと思うほど重ねあっていると、アダマスは身体の芯に火がつくような感覚が湧き出てくる。
「フォルティス……その……」
アダマスは身を捩らせようとする。だがフォルティスに強く抱きしめられているせいで、身体はぴくりとも動かない。
身体に疼く、火の正体を、フォルティスに知られたくなかった。知られれば羞恥で顔が見れなくなってしまう。
どうしていいか分からず、アダマスはわずかに身悶えた。そんなアダマスに、フォルティスは熱い吐息の交じる声を、吹きかける。
「なあ、アダマス……。俺もお前にしてみたいことがあるんだが……」
「なん、だろう?」
聞かなくても、本当は分かっていた。
フォルティスの声も、瞳も、身体も、自分と同じように熱いのだ。
「俺は、お前に触れたい」
心臓が大きく音をたて、フォルティスの言葉にきゅっとなる。今で充分に幸せなのに、これ以上の幸せなど、あっていいのだろうか。
互いを求め合うことも、計り知れない幸せも、アダマスにはどちらも未知のことだ。怖くないと言えば嘘になる。だがそんな思い以上に、アダマスもフォルティスの熱を求めていた。
「奇遇だな。……私も、お前に触れてみたい」
アダマスがそう言うと、フォルティスが雄の匂いを色濃く漂わせた。そして再び、噛み付くように唇をふせがれる。それが、二人の熱い夜の始まりだった。
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