白薔薇の誓い

田中ライコフ

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打ち明ける気持ち

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 涙が枯れるまで泣いたアダマスは、その後、フォルティスと二人で離宮へと戻った。
 時はすでに、深夜と呼ぶに相応しい時間帯だ。
デュークのためにも客室を用意しなければと思っていたアダマスだったが、デュークは二人を送り届けると、その足で領地へと帰ってしまった。
「本当に忙しい男なのだな」
 アダマスはそう言い、苦笑する。
だがデュークの真意は伝わっていた。
アダマスはフォルティスに尋ねたいことが沢山ある。それをよく話し合えるように、あえてフォルティスと二人きりにしてくれたのだ。その気遣いに、アダマスは心の中でそっと感謝を述べる。
 その思いを無駄にしないためにも、アダマスはフォルティスを自室へと招いた。さすがにフォルティスは躊躇っていたが、アダマスはその手を引き、部屋へと連れ込む。使用人に見られると咎められるだろうが、深夜の時間帯だ。見ている者は誰もいない。
 フォルティスが逃げ出さないよう、部屋に鍵をかけたアダマスは、黙りこくるフォルティスに声をかけた。
「本当に心配したのだぞ。殴られたような痕が見えるが、どんな酷い目に合わされた。大きな怪我はしていないのか」
 フォルティスの身体を確認しようと、アダマスは近づく。
「痛むところがあるのなら、遠慮なく言って欲しい。私にたいした治療は出来ないが、すぐに医者を呼ぶことは出来る。頬のあたりが少し腫れてしまっているように見えるが……」
 いたわるような優しい手で、アダマスは患部にそっと触れようとする。だがその手は患部に触れる前に、フォルティスの手によって止められてしまう。
「あ……すまない。不用意に触れては痛むだけだな。すぐに冷やすものを……」
「違う。俺が言いたいのはそんなことじゃない」
 アダマスの手首を掴んでいるフォルティスの手に、ぐっと力が入る。それは少し痛いほどだった。
「なぜ……なぜあんな危険なことをした! 王や貴族たちの中に飛び込んでくるなど、一歩間違えていればお前の身にも危険があったんだぞ!」
「フォルティス……」
「それになぜ『のばら』の主導者などと嘘を吐いたんだ! それがどんな危険を及ぼすか、分かっているのか!」
「……すべての危険は承知のこと。それに私は……嘘など吐いていない」
「なに……?」
「デューク公爵から『のばら』の主導者を譲り受けた。私が『のばら』の主導者に間違いない」
 謁見の間にのりこむさい、アダマスはデュークに『のばら』の主導者を譲るよう求めた。王に自分が主導者だと嘘を言うことは出来る。だが、それをせず、本当に主導者になることで、アダマスは自らの覚悟を示したかった。
「もちろん、私は主導者としては力不足。これからデュークやフォルティスの力を沢山借りることになるだろう。だが……」
 すべて言い切らぬうちに、フォルティスが呆れたように溜め息を吐く。
「お前は王子なんだ。危険なことに身を投じる必要はない」
 突き放すような言い方だった。だがアダマスもそれに怯むわけにはいかない。
「もし私が安寧な場所でぬくぬくと暮らしていたとしても、お前は危険に身を投じるのだろう? 私にそれを黙って見ていろと言うのか?」
「お前と俺では身分が違う。俺が危険な行為に及んだとしても、心配するものなど誰もいない」
 その言葉にアダマスは大きな衝撃を受けた。悲しい気持ちと、腹立たしい気持ちが瞬時に湧き上がる。気付けばアダマスは叫んでいた。
「私は心配する! 今回も心配で堪らなかった! お前になにかあるくらいなら、この身を裂かれたほうがマシだと思うくらいに、お前が心配でたまらなかったのだ!」
「アダマス……」
「お前は私のために、王のもとへ行こうとしたのだろう! 私のために命を投げ出そうと……! だがな、フォルティス。お前が私に命を使うのも惜しくないと言ってくれたように、私もお前のためなら命など惜しくない! 私はお前が大切で仕方がないというのに、なぜそれが伝わらないのだ!」
 勢いのまま、アダマスはフォルティスを抱きしめる。体温や心臓の音がはっきりと感じられた。
 フォルティスが生きている。そのことがなによりもアダマスを安心させる。
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