白薔薇の誓い

田中ライコフ

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王の詰問

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「アダマスよ。この中に、悪事を働く貴族がいると言ったな。それは誰だ。誰がこの男に嘘の命を告げたのだ」
「それは……今ここで申し上げることは出来ません」
「それはなぜか」
「先ほども言ったとおり、まだ証拠を掴んでおりません。今の段階で陛下のお伝えすることは、いささか早急かと」
「私が教えろと言っているのだぞ」
「だからこそ。ここで陛下にその名を告げては、その者の罪は確定されてしまうでしょう。それではいけないのです。たとえ、どんなに疑わしい行為をしていたとしても、証拠がなくては黒と断定はできないもの」
「お前は『のばら』の主導者でありながら、部下の調べを信じられないというのか。本当に部下を信頼しているのなら、その名を私に告げることが出来るはずだ」
「私は、私を慕ってくれる者を信じております。ですが、慎重にならなければいけないこともあるのです。悲劇を起こさないためにも」
 アダマスはフォルティスに目を向ける。
「この男……今はフォルカと名乗っておりますが、本当の名はフォルティスと申します。今より十数年前、言われなき罪により裁かれた、ある貴族の嫡子……」
 一部の貴族が息を飲んだのを、アダマスは聞き逃さなかった。冤罪へ関与した貴族も、この中にいたらしい。
 フォルティスもそれに気付いたのだろう。固く握られた拳は、白くなっていた。
「冤罪により彼は位を剥奪され、厳しい生活を余儀なくされました。家族をも失くしたのです。このような悲劇を二度と起こさないためにも、証拠もなく罪人とすることは、私には出来ません」
 アダマスはまっすぐに王の瞳をみつめて言った。
 王はなにも言わなかった。沈黙が痛い。
 張り詰めた空気に耐えられなくなったのは、アダマスよりも、貴族たちが先だった。
「へ……陛下! これは王子による国への反逆ですぞ!」
「王族……しかも王子ともあろう者が、反乱軍の主導者など言語道断!」
「このことが世間に知られれば、王族への信頼にも関わります!」
 貴族たちの口からいっせいに、アダマスを糾弾する声が飛び交いはじめる。
 だがアダマスは涼しい顔をして見せた。これに関しては恐れることはなにもない。
「なぜ『のばら』が反逆になるのでしょう。我々の目的は悪に手を染めた権力者。国への反逆は権力を笠に悪事を働く者では? 王族が主導となってそれを取り締まるのは、むしろ民にとってアピールになります。その証拠に、『のばら』は虐げられる民の間で英雄と呼ばれております」
 貴族たちの紛糾のなか、黙り続ける王に、アダマスは言葉を続けた。
「陛下。どうかフォルティスをお許しください。王の私室に断りなく入るなど、確かに罪なこと。それを償えと言うのなら、『のばら』の働きによって償います。この国に潜む闇を、我々が振り払うことを誓いましょう」
「我々……?」
 王が眉をぴくりと上げた。
 たったそれだけの仕草で、アダマスは肝が冷えていくのを感じる。
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