34 / 43
王の詰問
しおりを挟む
「アダマスよ。この中に、悪事を働く貴族がいると言ったな。それは誰だ。誰がこの男に嘘の命を告げたのだ」
「それは……今ここで申し上げることは出来ません」
「それはなぜか」
「先ほども言ったとおり、まだ証拠を掴んでおりません。今の段階で陛下のお伝えすることは、いささか早急かと」
「私が教えろと言っているのだぞ」
「だからこそ。ここで陛下にその名を告げては、その者の罪は確定されてしまうでしょう。それではいけないのです。たとえ、どんなに疑わしい行為をしていたとしても、証拠がなくては黒と断定はできないもの」
「お前は『のばら』の主導者でありながら、部下の調べを信じられないというのか。本当に部下を信頼しているのなら、その名を私に告げることが出来るはずだ」
「私は、私を慕ってくれる者を信じております。ですが、慎重にならなければいけないこともあるのです。悲劇を起こさないためにも」
アダマスはフォルティスに目を向ける。
「この男……今はフォルカと名乗っておりますが、本当の名はフォルティスと申します。今より十数年前、言われなき罪により裁かれた、ある貴族の嫡子……」
一部の貴族が息を飲んだのを、アダマスは聞き逃さなかった。冤罪へ関与した貴族も、この中にいたらしい。
フォルティスもそれに気付いたのだろう。固く握られた拳は、白くなっていた。
「冤罪により彼は位を剥奪され、厳しい生活を余儀なくされました。家族をも失くしたのです。このような悲劇を二度と起こさないためにも、証拠もなく罪人とすることは、私には出来ません」
アダマスはまっすぐに王の瞳をみつめて言った。
王はなにも言わなかった。沈黙が痛い。
張り詰めた空気に耐えられなくなったのは、アダマスよりも、貴族たちが先だった。
「へ……陛下! これは王子による国への反逆ですぞ!」
「王族……しかも王子ともあろう者が、反乱軍の主導者など言語道断!」
「このことが世間に知られれば、王族への信頼にも関わります!」
貴族たちの口からいっせいに、アダマスを糾弾する声が飛び交いはじめる。
だがアダマスは涼しい顔をして見せた。これに関しては恐れることはなにもない。
「なぜ『のばら』が反逆になるのでしょう。我々の目的は悪に手を染めた権力者。国への反逆は権力を笠に悪事を働く者では? 王族が主導となってそれを取り締まるのは、むしろ民にとってアピールになります。その証拠に、『のばら』は虐げられる民の間で英雄と呼ばれております」
貴族たちの紛糾のなか、黙り続ける王に、アダマスは言葉を続けた。
「陛下。どうかフォルティスをお許しください。王の私室に断りなく入るなど、確かに罪なこと。それを償えと言うのなら、『のばら』の働きによって償います。この国に潜む闇を、我々が振り払うことを誓いましょう」
「我々……?」
王が眉をぴくりと上げた。
たったそれだけの仕草で、アダマスは肝が冷えていくのを感じる。
「それは……今ここで申し上げることは出来ません」
「それはなぜか」
「先ほども言ったとおり、まだ証拠を掴んでおりません。今の段階で陛下のお伝えすることは、いささか早急かと」
「私が教えろと言っているのだぞ」
「だからこそ。ここで陛下にその名を告げては、その者の罪は確定されてしまうでしょう。それではいけないのです。たとえ、どんなに疑わしい行為をしていたとしても、証拠がなくては黒と断定はできないもの」
「お前は『のばら』の主導者でありながら、部下の調べを信じられないというのか。本当に部下を信頼しているのなら、その名を私に告げることが出来るはずだ」
「私は、私を慕ってくれる者を信じております。ですが、慎重にならなければいけないこともあるのです。悲劇を起こさないためにも」
アダマスはフォルティスに目を向ける。
「この男……今はフォルカと名乗っておりますが、本当の名はフォルティスと申します。今より十数年前、言われなき罪により裁かれた、ある貴族の嫡子……」
一部の貴族が息を飲んだのを、アダマスは聞き逃さなかった。冤罪へ関与した貴族も、この中にいたらしい。
フォルティスもそれに気付いたのだろう。固く握られた拳は、白くなっていた。
「冤罪により彼は位を剥奪され、厳しい生活を余儀なくされました。家族をも失くしたのです。このような悲劇を二度と起こさないためにも、証拠もなく罪人とすることは、私には出来ません」
アダマスはまっすぐに王の瞳をみつめて言った。
王はなにも言わなかった。沈黙が痛い。
張り詰めた空気に耐えられなくなったのは、アダマスよりも、貴族たちが先だった。
「へ……陛下! これは王子による国への反逆ですぞ!」
「王族……しかも王子ともあろう者が、反乱軍の主導者など言語道断!」
「このことが世間に知られれば、王族への信頼にも関わります!」
貴族たちの口からいっせいに、アダマスを糾弾する声が飛び交いはじめる。
だがアダマスは涼しい顔をして見せた。これに関しては恐れることはなにもない。
「なぜ『のばら』が反逆になるのでしょう。我々の目的は悪に手を染めた権力者。国への反逆は権力を笠に悪事を働く者では? 王族が主導となってそれを取り締まるのは、むしろ民にとってアピールになります。その証拠に、『のばら』は虐げられる民の間で英雄と呼ばれております」
貴族たちの紛糾のなか、黙り続ける王に、アダマスは言葉を続けた。
「陛下。どうかフォルティスをお許しください。王の私室に断りなく入るなど、確かに罪なこと。それを償えと言うのなら、『のばら』の働きによって償います。この国に潜む闇を、我々が振り払うことを誓いましょう」
「我々……?」
王が眉をぴくりと上げた。
たったそれだけの仕草で、アダマスは肝が冷えていくのを感じる。
11
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
One Night Stand
楓
BL
「今日、デートしよ。中嶋瑛斗くん」
「……は?」
中嶋瑛斗(なかじまえいと)は都内の大学に通う4年生。就職も決まり、大学最後の思い出作りにと、貯めたお金で友人山本とハワイへ旅行に来ていた。ハワイでの滞在も残すところあと2日となった日。ひとり高級住宅街に迷い込んだ瑛斗は、長身の美男子、相良葵(さがらあおい)と出会う。我が儘で横暴な相良と強制的に1日デートすることになり、最初は嫌々付き合っていた瑛斗だが、相良を知る内に段々と惹かれていく自分を自覚して――。
スパダリ年上男子と可愛い系大学生の異国で繰り広げられる甘くて切ない一夜の恋の話。
★ハッピーエンドです。
★短い続きものです。
★後半に絡みがあります。苦手な方はご注意ください。
★別ジャンルで書いた物をオリジナルBLにリメイクした作品です。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
愛玩人形
誠奈
BL
そろそろ季節も春を迎えようとしていたある夜、僕の前に突然天使が現れた。
父様はその子を僕の妹だと言った。
僕は妹を……智子をとても可愛がり、智子も僕に懐いてくれた。
僕は智子に「兄ちゃま」と呼ばれることが、むず痒くもあり、また嬉しくもあった。
智子は僕の宝物だった。
でも思春期を迎える頃、智子に対する僕の感情は変化を始め……
やがて智子の身体と、そして両親の秘密を知ることになる。
※この作品は、過去に他サイトにて公開したものを、加筆修正及び、作者名を変更して公開しております。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる