白薔薇の誓い

戦いの時

よろめき、壁に手をついたアダマスに、デュークの叱責が飛んだ。
「王子。そろそろ目を覚ます時間です。すべてと向き合うときは今。ここでそれから逃げては、あなたは何もかもを失います」
人質として自由が無くなり、慰み者となって人間の尊厳が無くなる。
そしてなにより、フォルティスを無くしてしまう。
「……私には、力があるのだな？」
「はい。私よりも強い力をお持ちです。フォルティスを救えるのは、間違いなくあなただけ」
「私は、なんとしてもフォルティスを失うわけにはいかない……」
　壁についた手を、アダマスは固く握る。
　自分が行動することでフォルティスを救えるのなら、どんなことだってやろう。
　デュークの言葉を聞いても、王のことは恐ろしい。宰相に近づくのも嫌だった。だがどんな痛みを伴うことになっても、その痛みはフォルティスを失う痛みよりも弱い。
　己の命を懸けてもいいほど、アダマスはフォルティスが大切だった。
　それはきっと、友だからではない。友以上の存在だからだ。
　アダマスはようやく気が付いた。フォルティスへの想いは、愛なのだということを。
「デューク公爵」
　アダマスは凛と胸を張り、声を出す。そこには先ほどには無かった、威厳が満ち溢れていた。
「一つだけ教えてくれ。公爵はどうしてフォルティスを助けようとする」
　ときに組織というのは、非情な決断をしなくてはならない。なぜ、危険を顧みず、デュークはフォルティスを救おうとするのか、アダマスはその真意が知りたかった。
「フォルティスは『のばら』にとって……いえ、これからこの国にとって必要な存在です。それに、あなたの助けがあれば、救える可能性は十分にある。助けられる者を、ただ見捨てるのでは、我々の敵である貴族となんら変わりない。そうではありませんか？」
　デュークはアダマスに向かって、不敵な笑みを向ける。アダマスも同じように不敵に笑った。
「確かにその通りだ。それで、フォルティスを救うには……私はどうすれば良い」
　時刻はそろそろ夜にさしかかっている。アダマスの戦いは、これから始まろうとしていた。