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最大の欠点
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予想もしていなかった言葉に、アダマスはぽかんと口を開けた。
「敵には王族……それに近しい者がいます。それならばこちらも同じような者を味方に引き込むしかない」
「それが私だと?」
「はい。ですがフォルティスは王子に伝えなかった。革命運動には危険も伴います。王子を巻き込むまいとしたのでしょう。フォルティスは勇敢な男。どんな命でも恐れることなく実行しますが、王子のことだけは違うようだ」
デュークは困ったように息を吐いた。
「フォルティスが我を忘れるのは、王子のことだけ。そう考えると今回のことも王子が絡んでいるとしか思えないのです。王子、なにか心当たりは?」
「そんなもの……」
あるはずがなかった。
フォルティスと出会って、季節が一つ過ぎようとしているが、アダマスにはなんの変化もないのだ。
「いや、まさか……」
ある予感がふっと頭を掠める。まだなにも変わっていない。だが近々、アダマスの環境をがらりと変えてしまう出来事があった。
「隣国行きの件か……!」
「詳しくお伺いしても?」
しばらく王宮に近づいていないデュークは、人質の件を知らなかったらしい。アダマスがことの経緯を説明すると、デュークは納得したように頷いた。
「恐らくそれでしょう。王に直談判しに行ったとしか思えません」
「そのようなこと、あまりにも無謀だ」
「その無謀が出来てしまうのが、あの男なのです。フォルティスは勇敢な男ですが、それが欠点となるときもある。王子のことに関すると周りが見えなくなるのは、最大の弱点でしょう」
「そんな……」
アダマスは目の前が暗くなった。
絶対に失いたくない、大切なフォルティスが、自分のせいで危険な目にあっている。
王の私室に忍び込む罪の重さは計り知れない。恐らく、死を持って償うことになるだろう。
自分がきっかけでフォルティスが死ぬなど、あってはならないことだ。それこそ、自分が変わりに刑を受けても構わないとさえ思う。
呆然とたたずむアダマスの耳に、デュークの厳しい声が入る。
「放心している場合ではありません。王子はフォルティスを助けたいとは思わないのですか」
「もちろん助けたい……! だが……」
どうすれば助けられるというのだろう。
なにか策でもあるのかと、アダマスは懇願するようにデュークをみつめる。
「私の力だけではフォルティスを助けることはかないません。王子のお力添えがあってのこと」
「私……? 私にはなんの力もない」
生まれて十八年。アダマスは国にとっていらない王子だった。ようやく与えられた責務が他国への人質という、やるせないものだ。デュークの期待に応えられるはずがない。
「私の持つ力など、公爵以下。それこそ民と変わりない」
絶望を吐露するように、覇気のない声でアダマスは言う。それを一喝するようなデュークの声が、応接間に響き渡った。
「敵には王族……それに近しい者がいます。それならばこちらも同じような者を味方に引き込むしかない」
「それが私だと?」
「はい。ですがフォルティスは王子に伝えなかった。革命運動には危険も伴います。王子を巻き込むまいとしたのでしょう。フォルティスは勇敢な男。どんな命でも恐れることなく実行しますが、王子のことだけは違うようだ」
デュークは困ったように息を吐いた。
「フォルティスが我を忘れるのは、王子のことだけ。そう考えると今回のことも王子が絡んでいるとしか思えないのです。王子、なにか心当たりは?」
「そんなもの……」
あるはずがなかった。
フォルティスと出会って、季節が一つ過ぎようとしているが、アダマスにはなんの変化もないのだ。
「いや、まさか……」
ある予感がふっと頭を掠める。まだなにも変わっていない。だが近々、アダマスの環境をがらりと変えてしまう出来事があった。
「隣国行きの件か……!」
「詳しくお伺いしても?」
しばらく王宮に近づいていないデュークは、人質の件を知らなかったらしい。アダマスがことの経緯を説明すると、デュークは納得したように頷いた。
「恐らくそれでしょう。王に直談判しに行ったとしか思えません」
「そのようなこと、あまりにも無謀だ」
「その無謀が出来てしまうのが、あの男なのです。フォルティスは勇敢な男ですが、それが欠点となるときもある。王子のことに関すると周りが見えなくなるのは、最大の弱点でしょう」
「そんな……」
アダマスは目の前が暗くなった。
絶対に失いたくない、大切なフォルティスが、自分のせいで危険な目にあっている。
王の私室に忍び込む罪の重さは計り知れない。恐らく、死を持って償うことになるだろう。
自分がきっかけでフォルティスが死ぬなど、あってはならないことだ。それこそ、自分が変わりに刑を受けても構わないとさえ思う。
呆然とたたずむアダマスの耳に、デュークの厳しい声が入る。
「放心している場合ではありません。王子はフォルティスを助けたいとは思わないのですか」
「もちろん助けたい……! だが……」
どうすれば助けられるというのだろう。
なにか策でもあるのかと、アダマスは懇願するようにデュークをみつめる。
「私の力だけではフォルティスを助けることはかないません。王子のお力添えがあってのこと」
「私……? 私にはなんの力もない」
生まれて十八年。アダマスは国にとっていらない王子だった。ようやく与えられた責務が他国への人質という、やるせないものだ。デュークの期待に応えられるはずがない。
「私の持つ力など、公爵以下。それこそ民と変わりない」
絶望を吐露するように、覇気のない声でアダマスは言う。それを一喝するようなデュークの声が、応接間に響き渡った。
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