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再会
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濃藍色の瞳がアダマスを捉える。
記憶にない男だと思っていたが、穏やかな海を感じさせるこの瞳を、アダマスは知っていた。
「フォルカ……?」
アダマスはもう一度その名を口にする。そしてどうしようもない違和感を覚えた。本当にこの男はフォルカという名前なのだろうか。フォルカではなく、もっと相応しい名前があった気がする。
アダマスの様子がおかしいことに気が付いたのだろう。フォルカは怪訝な表情を浮かべている。
アダマスは己の中に渦巻く疑問を抑えることが出来ず、ある名前をフォルカへぶつけた。
「まさか……フォルティスなのか?」
それはアダマスにとって、もっとも大切な友の名だった。
記憶の中のフォルティスとフォルカは、容姿こそほとんど結びつかない。だが感じる心の温かさは通じるものがあった。
アダマスの問いに、フォルカはなにも言わない。だが驚きで見開かれた目が、はっきりと答えを知らせていた。
「やはりフォルティスなんだな。そうなんだろう……? はっきり言ってくれ……!」
アダマスの唇が、声が震えた。
フォルカは目を泳がせ、なにも答えようとしなかった。だがアダマスが縋るように見つめ続けると、やがて観念したように力の抜けた声を出した。
「私がフォルティスだったのは、遠い昔のことでございます」
やはりフォルティスだったのかと、アダマスは衝撃のあまり膝が震えた。立っていることが辛くなり、その場にへたりこむと、フォルティスはアダマスの身体を気遣うように肩を支える。その温かな手が、アダマスはどうしようもなく嬉しかった。
「よく……よく生きて……!」
身体の底から様々な感情が沸き起こる。今の今までフォルティスだと気付けなったことにたいする自分への怒り。再会できた喜び。だが一番大きかったのは、死んだかもしれないと思っていたフォルティスが、生きていたことへの強い安堵だった。
「もう二度と、会えないと思っていた」
幼い子供のような、甘えた声が自然と出る。フォルティスの側にいるとき、アダマスは王子ではなく、一人の人間として存在できるように感じていた。
「どうしてすぐにフォルティスだと言ってくれなかったんだ」
「それは……」
「私は幼い頃、フォルティスと共に過ごしていた時間だけが唯一の幸せだった。お前のことを忘れた日は、一日もない。フォルティスは私との思い出など、どうでもいいことだったのか……?」
笑い合い、語り合った幼い日々はなによりも大切な思い出だ。会えなくなってからも、毎日フォルティスに会いたいと思っていたが、そう思っていたのは自分だけだったのだろうか。
悲しみに熱いものがこみ上げる。
フォルティスはアダマスの悲しみを拭い去るように、力強い声で言った。
「私にとってもアダマス様との思い出は大切なものです。私にとってあなたは光り。忘れたことなど一度もございません」
「ならば、どうして」
フォルティスは少しためらいを見せたあと、静かに口を開いた。
「アダマス様。あなたの知っているフォルティスという友は、昔に死んだのです」
「なにを言っているんだ。フォルティスは今、目の前にいるじゃないか。まさかお前は亡霊だとでも言うつもりか」
肩を支えるフォルティスの手から、体温が伝わる。それは生きているとはっきり主張していた。亡霊だとは到底思えない。
記憶にない男だと思っていたが、穏やかな海を感じさせるこの瞳を、アダマスは知っていた。
「フォルカ……?」
アダマスはもう一度その名を口にする。そしてどうしようもない違和感を覚えた。本当にこの男はフォルカという名前なのだろうか。フォルカではなく、もっと相応しい名前があった気がする。
アダマスの様子がおかしいことに気が付いたのだろう。フォルカは怪訝な表情を浮かべている。
アダマスは己の中に渦巻く疑問を抑えることが出来ず、ある名前をフォルカへぶつけた。
「まさか……フォルティスなのか?」
それはアダマスにとって、もっとも大切な友の名だった。
記憶の中のフォルティスとフォルカは、容姿こそほとんど結びつかない。だが感じる心の温かさは通じるものがあった。
アダマスの問いに、フォルカはなにも言わない。だが驚きで見開かれた目が、はっきりと答えを知らせていた。
「やはりフォルティスなんだな。そうなんだろう……? はっきり言ってくれ……!」
アダマスの唇が、声が震えた。
フォルカは目を泳がせ、なにも答えようとしなかった。だがアダマスが縋るように見つめ続けると、やがて観念したように力の抜けた声を出した。
「私がフォルティスだったのは、遠い昔のことでございます」
やはりフォルティスだったのかと、アダマスは衝撃のあまり膝が震えた。立っていることが辛くなり、その場にへたりこむと、フォルティスはアダマスの身体を気遣うように肩を支える。その温かな手が、アダマスはどうしようもなく嬉しかった。
「よく……よく生きて……!」
身体の底から様々な感情が沸き起こる。今の今までフォルティスだと気付けなったことにたいする自分への怒り。再会できた喜び。だが一番大きかったのは、死んだかもしれないと思っていたフォルティスが、生きていたことへの強い安堵だった。
「もう二度と、会えないと思っていた」
幼い子供のような、甘えた声が自然と出る。フォルティスの側にいるとき、アダマスは王子ではなく、一人の人間として存在できるように感じていた。
「どうしてすぐにフォルティスだと言ってくれなかったんだ」
「それは……」
「私は幼い頃、フォルティスと共に過ごしていた時間だけが唯一の幸せだった。お前のことを忘れた日は、一日もない。フォルティスは私との思い出など、どうでもいいことだったのか……?」
笑い合い、語り合った幼い日々はなによりも大切な思い出だ。会えなくなってからも、毎日フォルティスに会いたいと思っていたが、そう思っていたのは自分だけだったのだろうか。
悲しみに熱いものがこみ上げる。
フォルティスはアダマスの悲しみを拭い去るように、力強い声で言った。
「私にとってもアダマス様との思い出は大切なものです。私にとってあなたは光り。忘れたことなど一度もございません」
「ならば、どうして」
フォルティスは少しためらいを見せたあと、静かに口を開いた。
「アダマス様。あなたの知っているフォルティスという友は、昔に死んだのです」
「なにを言っているんだ。フォルティスは今、目の前にいるじゃないか。まさかお前は亡霊だとでも言うつもりか」
肩を支えるフォルティスの手から、体温が伝わる。それは生きているとはっきり主張していた。亡霊だとは到底思えない。
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