白薔薇の誓い

田中ライコフ

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白薔薇

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「これは何色の薔薇が咲くんだ?」
 薔薇は香りも色も、非常に豊富だ。棘もなく無臭の薔薇もあれば、このように鋭い棘を持つ薔薇もある。赤、白、黄、桃色……フォルカがどんな薔薇を選んだのか、アダマスは知りたかった。
 だがフォルカはアダマスの問いに、少し怯んだように言葉を詰まらせる。
「フォルカ……? どうした?」
 奇妙にあいた間に、アダマスはフォルカの様子を伺い見る。
 フォルカは僅かに眉根を寄せ、唇を固く結んでいた。それはなにか、思いつめた表情にも見える。
 なにか悪いことでも聞いてしまっただろうか。
 アダマスが咄嗟に謝罪の言葉を口にしようとしたとき、フォルカは作業の手を止め、真っ直ぐにアダマスを見据えた。その目は力強く、なにかを訴えかけているように見えたが、それと同時に、秋の哀愁に似た色をのぞかせている。
「フォル、カ……?」
 蚊の鳴くようなか細い声で、アダマスは目の前の男を呼んでいた。フォルカはアダマスの声に反応し、哀愁の色を更に濃くさせる。
 なにがフォルカを悲しませているのか分からず、アダマスは申し訳のない気持ちを抱えながら、立ち尽くすしかなかった。
 やがて二人の間に秋風が通りぬけ、薔薇の葉が音を奏でる。
 居心地の悪かった空気が入れ替えられると、フォルカは何事もなかったようにアダマスに微笑み、作業の手を再開させた。
「これは『ビブ・ラ・マリエ』という薔薇の品種です。咲かせる花の色は……白」
「白薔薇なのか……」
「純白はアダマス様によく似合います。そして、この庭にとっても白薔薇は特別でしょう」
「そう、だな」
 フォルカの言葉を肯定しながらも、アダマスは奇妙な違和感を覚えていた。
 確かに白薔薇はアダマスにとっても、この庭園にとっても特別な存在だ。亡き母が好み、離宮の象徴として扱われていた過去もある。
 だがなぜ、フォルカがそれを知っているのだろう。
 象徴として扱われていたといっても、離宮には昔から人が寄り付かず、それを知る人間はほとんどいない。古くから勤める使用人なら耳にしている可能性はあるが、現在、離宮で働いている使用人は、薔薇庭園だった頃など誰一人知らない新参者だ。フォルカがここの使用人から話を聞いた可能性は限りなく低い。
 だとすれば、なぜ白薔薇がこの場所にとって特別だと知っているのか。
 それは過去に、フォルカがこの場所に来たことがあるとしか考えられない。
 脳裏を横切る仮説に、アダマスはまさか、と己を軽くあしらった。あまりにも荒唐無稽すぎる。
 だが一度浮かんだ疑念は、なかなかアダマスの中から消えようとはしなかった。アダマスはフォルカの作業を見るふりをしながら、フォルカ自身を注視する。
 過去に会った記憶はない。アダマスは、温室で育てられた花のような貴族を、これまで多く見てきた。フォルカのような、自然の中でも咲き続ける芯の強い花に出会ったなら、それは記憶に強く残るはずだ。
 だがもし、環境が変わったならどうだろう。温室で育った花を、自然の中に植えなおしたとしたら。花は環境に合わせるべく、変化していくのではないだろうか。
「フォルカ」
 アダマスは自然にその名を呼んでいた。フォルカは作業の手を止め、アダマスを振り返る。
「どうかなさいましたか」
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