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繋がる気持ち5
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じわり、と目が熱くなっていくのを感じた。若王子の本性を知ったときでも涙はこぼれなかったというのに、今は感情を抑える事が出来ず、とめどなく大粒の涙がポロポロと落ちた。
「……泣かないでくれ。俺はお前を泣かせたいわけじゃない」
「じゃあ、なんで友達としても無理なんて言うんだよ。俺は、たとえ友達でも兵藤さえそばに居てくれたら……!」
恋人になれないとしても、それだけで幸せなのだと思う事ができた。
「佐倉。俺はお前といると、時に言葉にできない感情が湧き上がることがあった。今までに感じたことのない、不思議な気持ちだ。だがそれもたまにのことだからと、深く追求しなかったんだ」
兵藤の無骨な指が、慶の涙をそっと拭う。
「だがお前の想い人……若王子とのことがあって、それを無視する事が出来なくなった。あれほど感情を露わにするなど、自分でも考えられないことだったんだ。だから俺は俺自身と向き合い、答えを見つけなくてはいけなかった」
兵藤が言葉を選び、不器用ながらも必死で何かを伝えようとしている。慶は涙を流しながら、それを受け止めるしかなかった。
「答えはなかなか見つけられなかった。いくら己に問いかけても、応えてくれることはなかった。鬱憤がたまって道場破りなど馬鹿なこともしたよ。お前が昔、荒れてた理由もなんとなく分かった気がした」
「……それで答えが、俺とは居られないってことなの……?」
自分で口にして傷付き、涙が止まらない。
そんな答えなど、知りたくなかった。どれだけ無視されても、いずれは元に戻れるだろうと兵藤を待っている方が幸せだった。
だがそれでも、こうして伝えるのが兵藤らしいなと、慶は思ってしまう。
「友人として元の関係ではいられない。俺は……俺はこういうことが不得手なんだ。うまく言葉にできる自信がない」
涙を掬い上げていた兵藤の指がそっと離れる。兵藤の体温を感じることも、もう終わりかと慶は打ちひしがれた。
「佐倉慶」
兵藤がフルネームで慶を呼ぶ。涙を流し、俯いていた慶がゆっくり顔を上げた。そして眼前に広がる光景に、慶は目を見開いた。
兵藤が片膝を折り、慶にかしづいている。それはまるで荘厳な騎士のようで、見る者の目を奪った。
「俺は王子なんて柄ではないかも知れないが、俺と一曲踊ってくれないか」
「踊るって……え、俺と?」
「そうだ。お前が以前教えてくれただろう。手を取り、見つめ合って踊ることで気持ちが通じ合うのだと」
王子様とお姫様の大切なダンスシーン。それを慶は兵藤に説明したのを思い出す。身を寄せ合い踊ることで、言葉がなくとも心を通わせることが出来るのだと、慶は確かに兵藤に言った。
「兵藤、それって……」
「言葉は不要なんだろう? 剣道と同じことならば、俺も言葉よりうまく伝えられると思う」
兵藤は慶に手を差し出す。兵藤の目は真っ直ぐで迷いがない。
その手をとってよいのか、慶は悩む。こんなシチュエーションは、どうしても期待してしまう。だがもし自分の勘違いだったら、今度こそ立ち直れる気がしなかった。友達ではいられないと言った兵藤の言葉を、都合の良いように解釈してしまっても良いのだろうか。
兵藤の手を取りかけて、やはり躊躇する。もう後戻りは出来ないと思うのに、先に進むことも怖い。
慶の背を押したのは、それまで傍観者に徹していたヒロの言葉だった。
「なにしてんのよっ。あんたの憧れる王子様から舞踏会に誘われるシーンでしょ!」
「ヒロちゃん、王子様って……」
「これがアンタの好きな男なんでしょ? 顔に書いてあるわよ。王子様ルックじゃなくても、好きになった相手がアンタの王子様なのよ」
「……泣かないでくれ。俺はお前を泣かせたいわけじゃない」
「じゃあ、なんで友達としても無理なんて言うんだよ。俺は、たとえ友達でも兵藤さえそばに居てくれたら……!」
恋人になれないとしても、それだけで幸せなのだと思う事ができた。
「佐倉。俺はお前といると、時に言葉にできない感情が湧き上がることがあった。今までに感じたことのない、不思議な気持ちだ。だがそれもたまにのことだからと、深く追求しなかったんだ」
兵藤の無骨な指が、慶の涙をそっと拭う。
「だがお前の想い人……若王子とのことがあって、それを無視する事が出来なくなった。あれほど感情を露わにするなど、自分でも考えられないことだったんだ。だから俺は俺自身と向き合い、答えを見つけなくてはいけなかった」
兵藤が言葉を選び、不器用ながらも必死で何かを伝えようとしている。慶は涙を流しながら、それを受け止めるしかなかった。
「答えはなかなか見つけられなかった。いくら己に問いかけても、応えてくれることはなかった。鬱憤がたまって道場破りなど馬鹿なこともしたよ。お前が昔、荒れてた理由もなんとなく分かった気がした」
「……それで答えが、俺とは居られないってことなの……?」
自分で口にして傷付き、涙が止まらない。
そんな答えなど、知りたくなかった。どれだけ無視されても、いずれは元に戻れるだろうと兵藤を待っている方が幸せだった。
だがそれでも、こうして伝えるのが兵藤らしいなと、慶は思ってしまう。
「友人として元の関係ではいられない。俺は……俺はこういうことが不得手なんだ。うまく言葉にできる自信がない」
涙を掬い上げていた兵藤の指がそっと離れる。兵藤の体温を感じることも、もう終わりかと慶は打ちひしがれた。
「佐倉慶」
兵藤がフルネームで慶を呼ぶ。涙を流し、俯いていた慶がゆっくり顔を上げた。そして眼前に広がる光景に、慶は目を見開いた。
兵藤が片膝を折り、慶にかしづいている。それはまるで荘厳な騎士のようで、見る者の目を奪った。
「俺は王子なんて柄ではないかも知れないが、俺と一曲踊ってくれないか」
「踊るって……え、俺と?」
「そうだ。お前が以前教えてくれただろう。手を取り、見つめ合って踊ることで気持ちが通じ合うのだと」
王子様とお姫様の大切なダンスシーン。それを慶は兵藤に説明したのを思い出す。身を寄せ合い踊ることで、言葉がなくとも心を通わせることが出来るのだと、慶は確かに兵藤に言った。
「兵藤、それって……」
「言葉は不要なんだろう? 剣道と同じことならば、俺も言葉よりうまく伝えられると思う」
兵藤は慶に手を差し出す。兵藤の目は真っ直ぐで迷いがない。
その手をとってよいのか、慶は悩む。こんなシチュエーションは、どうしても期待してしまう。だがもし自分の勘違いだったら、今度こそ立ち直れる気がしなかった。友達ではいられないと言った兵藤の言葉を、都合の良いように解釈してしまっても良いのだろうか。
兵藤の手を取りかけて、やはり躊躇する。もう後戻りは出来ないと思うのに、先に進むことも怖い。
慶の背を押したのは、それまで傍観者に徹していたヒロの言葉だった。
「なにしてんのよっ。あんたの憧れる王子様から舞踏会に誘われるシーンでしょ!」
「ヒロちゃん、王子様って……」
「これがアンタの好きな男なんでしょ? 顔に書いてあるわよ。王子様ルックじゃなくても、好きになった相手がアンタの王子様なのよ」
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