上 下
49 / 67

繋がる気持ち4

しおりを挟む
「ちょっとあんた、汚いわねー」
 服にかかったと愚痴をこぼすヒロの声が聞こえた。だが慶はそんなことより視線の先の人物の方がよほど大事だった。
 熱量を感じさせる体格にスッキリとした目鼻立ち。威風堂々とした立ち振る舞いはかつての大和男子を思い出させる。洋服よりも和服が似合いそうな、この場所が少々不釣り合いな侍じみた男。慶が会いたくて、誰よりもそばに居て欲しいと願った兵藤清正が、そこにいた。
「な、なん、なんで? なんでこんなとこに兵藤が来るわけ?」
 確かに一度連れては来た。だが兵藤が自ら進んでやってくるとは思えない。慶が連れ出すか、何か目的でもない限り、こんな所には来ないだろう。
 慶はスマホの電源を入れてみる。ほんの少しの起動時間が焦ったかった。ようやくついた画面には、兵藤からの着信をつげるメッセージが複数と、繋がらないことに業を煮やした兵藤からの、今から会いにいくという短文のメッセージが残されている。
 まさか返信があるとは思わず、電源を切っていた事が藪蛇になってしまった。
 戸惑う慶と、兵藤の視線が交わる。会いたいと願っていたが、兵藤への気持ちをようやく受け入れたばかりの慶は、まだなんの覚悟も出来ていない。会えて嬉しい気持ちと、逃げ出してしまいたい気持ちが激しくぶつかった。
 兵藤は迷いなく慶の元へやってくる。歩幅の大きな兵藤は、慶に深呼吸一つする時間も与えてくれない。
「良かった。いくら電話をしても繋がらないから、何かあったのかと思った」
 ああ、本物の兵藤の声だ、と慶は少し上の空で思う。
「ご、ごめん。電源入ってなかった」
「いや、何もないならいいんだ。お前はきっとここにいると思った。寂しさを忘れられると言っていたから」
 兵藤は一度口を開こうとし、なにか考えるように閉じる。少しの間の後、なにかを決心したような力ある眼差しで、慶を真っ直ぐに見つめた。
「すまなかった。ここ最近の、俺の非礼を詫びよう」
 兵藤が手本のごとく綺麗に頭を下げる。場にそぐわない光景に注目が集まり、慶は慌てて兵藤に頭を上げるよう声を掛けた。
「謝らなくっていいから。そりゃ、ちょっとムカついたけどさ、俺はお前が元に戻ってくれたらそれで……」
 兵藤が一番の友人としてそばに居てくれる関係。自分で口にして、チクリと胸が痛む。そばに居てくれるだけで良いと思っているのに、胸が苦しかった。
 慶の言葉に、兵藤の眉が切なく寄せられる。
「元に戻ることは、出来ない」
「……え」
 兵藤の言葉に、慶は殴られたような衝撃を受けた。
 恋心さえ知られずに居たら、これまで同様仲の良い友達としてやっていけると思っていた。自分さえ我慢すれば、兵藤は隣で笑ってくれるはずだと信じていた。
 だがそれも、兵藤の言葉によって打ち砕かれる。
「俺たち、もう友達として無理ってこと……?」
「ああ、無理だ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

チート魔王はつまらない。

碧月 晶
BL
お人好し真面目勇者×やる気皆無のチート魔王 ─────────── ~あらすじ~ 優秀過ぎて毎日をつまらなく生きてきた雨(アメ)は卒業を目前に控えた高校三年の冬、突然異世界に召喚された。 その世界は勇者、魔王、魔法、魔族に魔物やモンスターが普通に存在する異世界ファンタジーRPGっぽい要素が盛り沢山な世界だった。 そんな世界にやって来たアメは、実は自分は数十年前勇者に敗れた先代魔王の息子だと聞かされる。 しかし取りあえず魔王になってみたものの、アメのつまらない日常は変わらなかった。 そんな日々を送っていたある日、やって来た勇者がアメに言った言葉とは──? ─────────── 何だかんだで様々な事件(クエスト)をチートな魔王の力で(ちょいちょい腹黒もはさみながら)勇者と攻略していくお話(*´▽`*) 最終的にいちゃいちゃゴールデンコンビ?いやカップルにしたいなと思ってます( ´艸`) ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※感想、質問大歓迎です!!

TOKIO

めめくらげ
BL
柊家の厄介者・ダメダメ長男の時生。 ダメな兄でありながら、弟の優を世界でいちばん愛しているけれど、無職パラサイトなので当然ながらただ煙たがられるだけの不毛な毎日を過ごしていた。 しかし優の計らいにより運良く家事代行の仕事にありつき、不本意ながらも自立のために依頼主・灰枝家のお手伝いさんとなる。 しかし灰枝は時生に対してある気持ちを秘めており…。

禁断の寮生活〜真面目な大学生×体育会系大学生の秘密〜

藤咲レン
BL
■あらすじ 異性はもちろん同性との経験も無いユウスケは、寮の隣部屋に入居した年下サッカー部のシュンに一目惚れ。それ以降、自分の欲求が抑えきれずに、やってはイケナイコトを何度も重ねてしまう。しかし、ある時、それがシュンにバレてしまい、真面目一筋のユウスケの生活は一変する・・・。 ■登場人物 大城戸ユウスケ:20歳。日本でも学力が上位の大学の法学部に通う。2回生。ゲイで童貞。高校の頃にノンケのことを好きになり、それ以降は恋をしないように決めている。自身はスポーツが苦手、けどサカユニフェチ。奥手。 藤ヶ谷シュン:18歳。体育会サッカー部に所属する。ユウスケとは同じ寮で隣の部屋。ノンケ。家の事情で大学の寮に入ることができず、寮費の安い自治体の寮で生活している。

僕は肉便器 ~皮をめくってなかをさわって~ 【童貞新入社員はこうして開発されました】

ヤミイ
BL
新入社員として、とある企業に就職した僕。希望に胸を膨らませる僕だったが、あろうことか、教育係として目の前に現れたのは、1年前、野外で僕を襲い、官能の淵に引きずり込んだあの男だった。そして始まる、毎日のように夜のオフィスで淫獣に弄ばれる、僕の爛れた日々…。

敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

水瀬かずか
BL
ルカは、革命軍を支援していた父親が軍に捕まったせいで、軍から逃亡・潜伏中だった。 どうやって潜伏するかって? 女装である。 そしたら女装が美人過ぎて、イケオジの大佐にめちゃくちゃ口説かれるはめになった。 これってさぁ……、女装がバレたら、ヤバくない……? ムーンライトノベルズさまにて公開中の物の加筆修正版(ただし性行為抜き)です。 表紙にR18表記がされていますが、作品はR15です。 illustration 吉杜玖美さま

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

可愛い男の子が実はタチだった件について。

桜子あんこ
BL
イケメンで女にモテる男、裕也(ゆうや)と可愛くて男にモテる、凛(りん)が付き合い始め、裕也は自分が抱く側かと思っていた。 可愛いS攻め×快楽に弱い男前受け

処理中です...