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繋がる気持ち4
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「ちょっとあんた、汚いわねー」
服にかかったと愚痴をこぼすヒロの声が聞こえた。だが慶はそんなことより視線の先の人物の方がよほど大事だった。
熱量を感じさせる体格にスッキリとした目鼻立ち。威風堂々とした立ち振る舞いはかつての大和男子を思い出させる。洋服よりも和服が似合いそうな、この場所が少々不釣り合いな侍じみた男。慶が会いたくて、誰よりもそばに居て欲しいと願った兵藤清正が、そこにいた。
「な、なん、なんで? なんでこんなとこに兵藤が来るわけ?」
確かに一度連れては来た。だが兵藤が自ら進んでやってくるとは思えない。慶が連れ出すか、何か目的でもない限り、こんな所には来ないだろう。
慶はスマホの電源を入れてみる。ほんの少しの起動時間が焦ったかった。ようやくついた画面には、兵藤からの着信をつげるメッセージが複数と、繋がらないことに業を煮やした兵藤からの、今から会いにいくという短文のメッセージが残されている。
まさか返信があるとは思わず、電源を切っていた事が藪蛇になってしまった。
戸惑う慶と、兵藤の視線が交わる。会いたいと願っていたが、兵藤への気持ちをようやく受け入れたばかりの慶は、まだなんの覚悟も出来ていない。会えて嬉しい気持ちと、逃げ出してしまいたい気持ちが激しくぶつかった。
兵藤は迷いなく慶の元へやってくる。歩幅の大きな兵藤は、慶に深呼吸一つする時間も与えてくれない。
「良かった。いくら電話をしても繋がらないから、何かあったのかと思った」
ああ、本物の兵藤の声だ、と慶は少し上の空で思う。
「ご、ごめん。電源入ってなかった」
「いや、何もないならいいんだ。お前はきっとここにいると思った。寂しさを忘れられると言っていたから」
兵藤は一度口を開こうとし、なにか考えるように閉じる。少しの間の後、なにかを決心したような力ある眼差しで、慶を真っ直ぐに見つめた。
「すまなかった。ここ最近の、俺の非礼を詫びよう」
兵藤が手本のごとく綺麗に頭を下げる。場にそぐわない光景に注目が集まり、慶は慌てて兵藤に頭を上げるよう声を掛けた。
「謝らなくっていいから。そりゃ、ちょっとムカついたけどさ、俺はお前が元に戻ってくれたらそれで……」
兵藤が一番の友人としてそばに居てくれる関係。自分で口にして、チクリと胸が痛む。そばに居てくれるだけで良いと思っているのに、胸が苦しかった。
慶の言葉に、兵藤の眉が切なく寄せられる。
「元に戻ることは、出来ない」
「……え」
兵藤の言葉に、慶は殴られたような衝撃を受けた。
恋心さえ知られずに居たら、これまで同様仲の良い友達としてやっていけると思っていた。自分さえ我慢すれば、兵藤は隣で笑ってくれるはずだと信じていた。
だがそれも、兵藤の言葉によって打ち砕かれる。
「俺たち、もう友達として無理ってこと……?」
「ああ、無理だ」
服にかかったと愚痴をこぼすヒロの声が聞こえた。だが慶はそんなことより視線の先の人物の方がよほど大事だった。
熱量を感じさせる体格にスッキリとした目鼻立ち。威風堂々とした立ち振る舞いはかつての大和男子を思い出させる。洋服よりも和服が似合いそうな、この場所が少々不釣り合いな侍じみた男。慶が会いたくて、誰よりもそばに居て欲しいと願った兵藤清正が、そこにいた。
「な、なん、なんで? なんでこんなとこに兵藤が来るわけ?」
確かに一度連れては来た。だが兵藤が自ら進んでやってくるとは思えない。慶が連れ出すか、何か目的でもない限り、こんな所には来ないだろう。
慶はスマホの電源を入れてみる。ほんの少しの起動時間が焦ったかった。ようやくついた画面には、兵藤からの着信をつげるメッセージが複数と、繋がらないことに業を煮やした兵藤からの、今から会いにいくという短文のメッセージが残されている。
まさか返信があるとは思わず、電源を切っていた事が藪蛇になってしまった。
戸惑う慶と、兵藤の視線が交わる。会いたいと願っていたが、兵藤への気持ちをようやく受け入れたばかりの慶は、まだなんの覚悟も出来ていない。会えて嬉しい気持ちと、逃げ出してしまいたい気持ちが激しくぶつかった。
兵藤は迷いなく慶の元へやってくる。歩幅の大きな兵藤は、慶に深呼吸一つする時間も与えてくれない。
「良かった。いくら電話をしても繋がらないから、何かあったのかと思った」
ああ、本物の兵藤の声だ、と慶は少し上の空で思う。
「ご、ごめん。電源入ってなかった」
「いや、何もないならいいんだ。お前はきっとここにいると思った。寂しさを忘れられると言っていたから」
兵藤は一度口を開こうとし、なにか考えるように閉じる。少しの間の後、なにかを決心したような力ある眼差しで、慶を真っ直ぐに見つめた。
「すまなかった。ここ最近の、俺の非礼を詫びよう」
兵藤が手本のごとく綺麗に頭を下げる。場にそぐわない光景に注目が集まり、慶は慌てて兵藤に頭を上げるよう声を掛けた。
「謝らなくっていいから。そりゃ、ちょっとムカついたけどさ、俺はお前が元に戻ってくれたらそれで……」
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「元に戻ることは、出来ない」
「……え」
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恋心さえ知られずに居たら、これまで同様仲の良い友達としてやっていけると思っていた。自分さえ我慢すれば、兵藤は隣で笑ってくれるはずだと信じていた。
だがそれも、兵藤の言葉によって打ち砕かれる。
「俺たち、もう友達として無理ってこと……?」
「ああ、無理だ」
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