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初めての友達1
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慶が目が覚めたとき、兵藤は慶の隣で本を読んでいた。慶は時計を探し、時間を確認する。一時間半近く眠っていたらしい。
「起きたか?」
「んー……ごめん。ガッツリ寝てた」
座っていたはずなのに、知らぬ間に身体を横たえて眠っていた。薄手の毛布が掛けられており、その暖かさと薄ら香る兵藤の匂いが、慶をひたすら安眠に導いてくれていた。
「坐禅を始めてすぐに寝息が聞こえてきたな」
「腹いっぱいだったからなぁ。なんかここ落ち着くし、眠くなっちまって」
「落ち着く、か。そう言ってもらえるのは光栄だが……」
兵藤はなんと表現していいのか分からない、奇妙な表情を浮かべる。
慶はどうしたのかと問うが、兵藤自身も不思議そうにしていた。
「よく分からないが、何故か今まで感じたことのない気持ちがある。どう言葉に出していいか、俺にも分からない」
「なんだそれ」
兵藤に分からないものが慶に分かるはずもなく。
「それこそ坐禅の出番じゃね?」
「……そうだな。そうかもしれない」
「あ、でも今からは勘弁な。じゃないと俺、また寝ちゃいそう」
そう言って二人は顔を見合わせ、笑い合う。
二人はそこから穏やかな時を過ごした。兵藤の部屋にはこれといった娯楽物が何もない。かろうじてノートパソコンが一台置いてあったが、それ以外は殺風景そのものだった。
本棚の中は法律に関する本と、あまり読まれた形跡のない、恐らく両親が関わっているであろう考古学の本が規律良く並べられている。先程まで慶の隣で読んでいたのも法律に関するものだった。全く、休日にも勉強かと、慶は呆れたように感心する。
することがないので慶は兵藤のことをたくさん聞いた。普段、兵藤は口数が少なく、聞き役に回ることが多い。だからこそ、たまには兵藤の話を聞きたいと思った。
自分からはなかなか話そうとしないが、聞けば兵藤はなんでも淀みなく答えた。
子供時代の兵藤の話を聞いたときは、面白くて仕方がなかった。兵藤の生真面目さは子供の頃から健在で、小さな兵藤少年を想像すると、可愛くて仕方がない。
「兵藤って損してるよ、絶対。真面目で良いやつでさ、奇天烈で飽きないのに。今まで友達がいないとかマジで勿体無い」
奇天烈? と少し引っ掛かる様子を見せながらも、兵藤はいつもは厳しい目尻をほんの少し下げる。
「そうだろうか。初めて言われたが」
「そうだよ。まあ俺もさ、まだお前の行動にびっくりすることもあるし、正直最初はどうやって付き合っていくか戸惑ったこともあるけど……」
慶は兵藤に向き合い、真っ直ぐその目を見る。これだけは兵藤に、ずっと伝えたいと思っていたことがあった。
「兵藤って俺に対して責任が~とか言うじゃん? あれ、マジで止めろ」
「だが……」
「ストップ、最後まで聞けって。……お前とその……ああいうことになった原因、俺にもあるんだよ。ずっと黙ってたけどさ。責任なら俺にもあるわけ」
「初耳だ」
「なんか言い出せなくて、ごめん。だからさ、お前に責任なんてないんだよ。あったとしても俺と相殺。おあいこ」
「それでも」
「だから最後まで聞けってば。どうせお前のことだからそれでも責任~とか言い出すのは分かってるよ。分かってるけどさ、俺はお前との関係に責任うんぬん言ってほしくない」
言われるたびに、慶は少し寂しくなる。それがなくなれば兵藤との関係が途切れてしまう気がした。
「俺、兵藤とはちゃんと友達としてやっていきたいよ。責任とか関係ない、普通の友達」
その言葉に兵藤の表情が、驚いたように固まる。迷惑なことを言ったかもしれないと、慶は身構えたが、表情の変わらない兵藤の耳が、少しずつ赤く染まっていくのを見て、慶はホッと安心した。
「……嬉しいならそう言えよ。黙られると迷惑だったかなって不安になるじゃん」
「迷惑だなんて、そんな。まさか俺と普通の友達になりたいなんて聞く機会があると思わなくて。その、なんと言っていいか分からなかったんだ」
「起きたか?」
「んー……ごめん。ガッツリ寝てた」
座っていたはずなのに、知らぬ間に身体を横たえて眠っていた。薄手の毛布が掛けられており、その暖かさと薄ら香る兵藤の匂いが、慶をひたすら安眠に導いてくれていた。
「坐禅を始めてすぐに寝息が聞こえてきたな」
「腹いっぱいだったからなぁ。なんかここ落ち着くし、眠くなっちまって」
「落ち着く、か。そう言ってもらえるのは光栄だが……」
兵藤はなんと表現していいのか分からない、奇妙な表情を浮かべる。
慶はどうしたのかと問うが、兵藤自身も不思議そうにしていた。
「よく分からないが、何故か今まで感じたことのない気持ちがある。どう言葉に出していいか、俺にも分からない」
「なんだそれ」
兵藤に分からないものが慶に分かるはずもなく。
「それこそ坐禅の出番じゃね?」
「……そうだな。そうかもしれない」
「あ、でも今からは勘弁な。じゃないと俺、また寝ちゃいそう」
そう言って二人は顔を見合わせ、笑い合う。
二人はそこから穏やかな時を過ごした。兵藤の部屋にはこれといった娯楽物が何もない。かろうじてノートパソコンが一台置いてあったが、それ以外は殺風景そのものだった。
本棚の中は法律に関する本と、あまり読まれた形跡のない、恐らく両親が関わっているであろう考古学の本が規律良く並べられている。先程まで慶の隣で読んでいたのも法律に関するものだった。全く、休日にも勉強かと、慶は呆れたように感心する。
することがないので慶は兵藤のことをたくさん聞いた。普段、兵藤は口数が少なく、聞き役に回ることが多い。だからこそ、たまには兵藤の話を聞きたいと思った。
自分からはなかなか話そうとしないが、聞けば兵藤はなんでも淀みなく答えた。
子供時代の兵藤の話を聞いたときは、面白くて仕方がなかった。兵藤の生真面目さは子供の頃から健在で、小さな兵藤少年を想像すると、可愛くて仕方がない。
「兵藤って損してるよ、絶対。真面目で良いやつでさ、奇天烈で飽きないのに。今まで友達がいないとかマジで勿体無い」
奇天烈? と少し引っ掛かる様子を見せながらも、兵藤はいつもは厳しい目尻をほんの少し下げる。
「そうだろうか。初めて言われたが」
「そうだよ。まあ俺もさ、まだお前の行動にびっくりすることもあるし、正直最初はどうやって付き合っていくか戸惑ったこともあるけど……」
慶は兵藤に向き合い、真っ直ぐその目を見る。これだけは兵藤に、ずっと伝えたいと思っていたことがあった。
「兵藤って俺に対して責任が~とか言うじゃん? あれ、マジで止めろ」
「だが……」
「ストップ、最後まで聞けって。……お前とその……ああいうことになった原因、俺にもあるんだよ。ずっと黙ってたけどさ。責任なら俺にもあるわけ」
「初耳だ」
「なんか言い出せなくて、ごめん。だからさ、お前に責任なんてないんだよ。あったとしても俺と相殺。おあいこ」
「それでも」
「だから最後まで聞けってば。どうせお前のことだからそれでも責任~とか言い出すのは分かってるよ。分かってるけどさ、俺はお前との関係に責任うんぬん言ってほしくない」
言われるたびに、慶は少し寂しくなる。それがなくなれば兵藤との関係が途切れてしまう気がした。
「俺、兵藤とはちゃんと友達としてやっていきたいよ。責任とか関係ない、普通の友達」
その言葉に兵藤の表情が、驚いたように固まる。迷惑なことを言ったかもしれないと、慶は身構えたが、表情の変わらない兵藤の耳が、少しずつ赤く染まっていくのを見て、慶はホッと安心した。
「……嬉しいならそう言えよ。黙られると迷惑だったかなって不安になるじゃん」
「迷惑だなんて、そんな。まさか俺と普通の友達になりたいなんて聞く機会があると思わなくて。その、なんと言っていいか分からなかったんだ」
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