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出会い3
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「なるほど。基準は分からないが、お前の言うとおりなのだろう。俺が場に馴染めていないのが、それを証明しているとも言える。でも、そうか……」
男はぐるりと部屋を見回した。
「俺には雑談しているようにしか見えないが、皆にとっては将来に関する重大な話し合いなのだな。参加できないのは残念だが、こうして見ているだけでも得られるものがあるやもしれない」
「あんたってなんていうか……」
慶は浮かべた愛想笑いが、今度こそ引き攣るのを感じた。
真面目過ぎる。この男は真面目を通り越えて若干変人とすら思えた。本人にその自覚がなさそうなのがまた怖い。
慶は声をかけたことに、後悔しはじめていた。何事もゆるーく生きてきた慶にとって、この男はあまりにも真逆過ぎる。見るからに真面目そうなのは分かっていたが、度が過ぎていて面倒くさそうだ。ここは早々に立ち去ったほうがいいかもしれない。
慶がそう考え、置いたグラスを再び手にしたとき、それを見透かしたかのように男が口を開いた。
「俺は兵藤清正。法学を主に学んでいる」
「え……。あー……」
自己紹介されてしまった。これではこのタイミングで男から離れることは不可能だ。
上げかけていた腰を仕方なく下ろし、なんとかこの場を乗り切ろうとグラスを煽る。
それにしても名前までカチカチしていて本物の侍のみたいだ。名は体を表すとはよく言ったものだと、慶は妙に感心した。
「俺は……」
名乗られたからには返すのが筋だろう。慶が自分の名前を告げようとしたとき、それより先に兵藤が口を開いた。
「知っている。佐倉慶、だろう」
兵藤の口から自分の名前が出たことに、慶は驚きを隠せない。
「なんで俺のこと」
ただの生真面目ではなく、生真面目なエスパーなのか。それとも真面目さのあまり、同じ大学の生徒の名をすべて覚えている変人なのだろうか。そんなわけないだろうと思いつつ、この男ならなんだかありえそうだと思えてしまう。
「会合が始まる前に、皆で軽く自己紹介をしただろう」
確かに集まって早々に、自己紹介の時間があった。兵藤がエスパーでも、同じ大学の生徒の名前をすべて覚えている変人でもなくて、慶はホッとする。
「あ、ああ……そういや自己紹介とかしたな」
慶は兵藤の自己紹介をまったく覚えていなかったわけだが。
「名を間違っては失礼になるだろう。この場にいる全員の名は、自己紹介のとき帳面に記してある」
そうなんだ、と慶は無難に返事した。だが内心はすごく引いていた。エスパーではないが、変人には違いない。
男はぐるりと部屋を見回した。
「俺には雑談しているようにしか見えないが、皆にとっては将来に関する重大な話し合いなのだな。参加できないのは残念だが、こうして見ているだけでも得られるものがあるやもしれない」
「あんたってなんていうか……」
慶は浮かべた愛想笑いが、今度こそ引き攣るのを感じた。
真面目過ぎる。この男は真面目を通り越えて若干変人とすら思えた。本人にその自覚がなさそうなのがまた怖い。
慶は声をかけたことに、後悔しはじめていた。何事もゆるーく生きてきた慶にとって、この男はあまりにも真逆過ぎる。見るからに真面目そうなのは分かっていたが、度が過ぎていて面倒くさそうだ。ここは早々に立ち去ったほうがいいかもしれない。
慶がそう考え、置いたグラスを再び手にしたとき、それを見透かしたかのように男が口を開いた。
「俺は兵藤清正。法学を主に学んでいる」
「え……。あー……」
自己紹介されてしまった。これではこのタイミングで男から離れることは不可能だ。
上げかけていた腰を仕方なく下ろし、なんとかこの場を乗り切ろうとグラスを煽る。
それにしても名前までカチカチしていて本物の侍のみたいだ。名は体を表すとはよく言ったものだと、慶は妙に感心した。
「俺は……」
名乗られたからには返すのが筋だろう。慶が自分の名前を告げようとしたとき、それより先に兵藤が口を開いた。
「知っている。佐倉慶、だろう」
兵藤の口から自分の名前が出たことに、慶は驚きを隠せない。
「なんで俺のこと」
ただの生真面目ではなく、生真面目なエスパーなのか。それとも真面目さのあまり、同じ大学の生徒の名をすべて覚えている変人なのだろうか。そんなわけないだろうと思いつつ、この男ならなんだかありえそうだと思えてしまう。
「会合が始まる前に、皆で軽く自己紹介をしただろう」
確かに集まって早々に、自己紹介の時間があった。兵藤がエスパーでも、同じ大学の生徒の名前をすべて覚えている変人でもなくて、慶はホッとする。
「あ、ああ……そういや自己紹介とかしたな」
慶は兵藤の自己紹介をまったく覚えていなかったわけだが。
「名を間違っては失礼になるだろう。この場にいる全員の名は、自己紹介のとき帳面に記してある」
そうなんだ、と慶は無難に返事した。だが内心はすごく引いていた。エスパーではないが、変人には違いない。
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