真面目過ぎにも程があるっ!

田中ライコフ

文字の大きさ
上 下
4 / 67

出会い3

しおりを挟む
「なるほど。基準は分からないが、お前の言うとおりなのだろう。俺が場に馴染めていないのが、それを証明しているとも言える。でも、そうか……」
 男はぐるりと部屋を見回した。
「俺には雑談しているようにしか見えないが、皆にとっては将来に関する重大な話し合いなのだな。参加できないのは残念だが、こうして見ているだけでも得られるものがあるやもしれない」
「あんたってなんていうか……」
 慶は浮かべた愛想笑いが、今度こそ引き攣るのを感じた。
 真面目過ぎる。この男は真面目を通り越えて若干変人とすら思えた。本人にその自覚がなさそうなのがまた怖い。
 慶は声をかけたことに、後悔しはじめていた。何事もゆるーく生きてきた慶にとって、この男はあまりにも真逆過ぎる。見るからに真面目そうなのは分かっていたが、度が過ぎていて面倒くさそうだ。ここは早々に立ち去ったほうがいいかもしれない。
 慶がそう考え、置いたグラスを再び手にしたとき、それを見透かしたかのように男が口を開いた。
「俺は兵藤清正。法学を主に学んでいる」
「え……。あー……」
 自己紹介されてしまった。これではこのタイミングで男から離れることは不可能だ。
上げかけていた腰を仕方なく下ろし、なんとかこの場を乗り切ろうとグラスを煽る。
それにしても名前までカチカチしていて本物の侍のみたいだ。名は体を表すとはよく言ったものだと、慶は妙に感心した。
「俺は……」
 名乗られたからには返すのが筋だろう。慶が自分の名前を告げようとしたとき、それより先に兵藤が口を開いた。
「知っている。佐倉慶、だろう」
 兵藤の口から自分の名前が出たことに、慶は驚きを隠せない。
「なんで俺のこと」
 ただの生真面目ではなく、生真面目なエスパーなのか。それとも真面目さのあまり、同じ大学の生徒の名をすべて覚えている変人なのだろうか。そんなわけないだろうと思いつつ、この男ならなんだかありえそうだと思えてしまう。
「会合が始まる前に、皆で軽く自己紹介をしただろう」
 確かに集まって早々に、自己紹介の時間があった。兵藤がエスパーでも、同じ大学の生徒の名前をすべて覚えている変人でもなくて、慶はホッとする。
「あ、ああ……そういや自己紹介とかしたな」
 慶は兵藤の自己紹介をまったく覚えていなかったわけだが。
「名を間違っては失礼になるだろう。この場にいる全員の名は、自己紹介のとき帳面に記してある」
 そうなんだ、と慶は無難に返事した。だが内心はすごく引いていた。エスパーではないが、変人には違いない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

フルチン魔王と雄っぱい勇者

ミクリ21
BL
フルチンの魔王と、雄っぱいが素晴らしい勇者の話。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

どうして、こうなった?

yoyo
BL
新社会として入社した会社の上司に嫌がらせをされて、久しぶりに会った友達の家で、おねしょしてしまう話です。

処理中です...