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第一話

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その日……俺は童貞を捨てた……。

 学年一の美少女櫻井さくらい彩芽あやめとだ。

 彼女は顔だけでなくスタイルも良い。

 勉強だけでなく運動もできる。

 まさしくパーフェクトな女の子だ。

 もちろん、クラス全員の男子からの人気者。

 そんな彼女と俺はした。

「ほんとに俺として良いのかよ?」

 今は終わり、ベッドで横になっている。

 胸まで綺麗だとは……驚いたなぁ……。

「う、うん」と横髪を払いながら言うその姿は天使のようだった。

「そっか……」

「逆にしゅんくんは?」

「俺は最高です……」

「ふふ、なら良かったぁ……」

「なぁ、俺たちって付き合ったんだよな?」

「そうだよ……」

「だよな……」

 ゆ、夢じゃなかった……。

 ホッとする俺。

 そう、時間は遡ること2時間前……俺と櫻井さんは付き合った。



 2時間前……。

 親友のひろと帰ろうと靴箱を開けた時だった──。

 俺の靴箱には一枚の手紙が入っていた。

「ん?」と俺はその手紙を取ってすぐにわかった。

 その手紙はラブレターだと……。
 
「どうしたんだ?」と俺に話しかけて来た宏。

「い、いやぁ、なんでもない」と俺はすぐにラブレターをポッケにしまった。

 まじかよ……ラブレターだとぉ?

 いやいや……この時代にラブレターって……。 

「悪りぃ、忘れ物したみたいだわ……先に帰っててくれ……」と俺は急いでトイレに向かった。

「え、ちょっ」

 ほんとにラブレターか確認する為だ。

 そして、トイレの個室に入りラブレターを開いた。

『放課後、屋上で待ってます。櫻井彩芽より。』

 ラブレターには綺麗な字でそう書かれていた。

 う、うそだろ……。

 あの、櫻井さんか?

 いやいや、こんな冴えない俺に……なぁ……。

 でも本当なのか知りたかった。

 『イタズラ』そんなことを思いながら、結局俺は屋上へ向いドアを開けた。

 この学校は大きなバリケードが貼ってあり屋上を利用することができる。

 そのため、それ目当てにうちの高校に入る人もいるとか。

「やっと来た……遅いよ……」とそこには綺麗な美少女がいた。
 
 その美少女を見た瞬間、美しすぎて思考が止まった。

 全てがパーフェクトな彼女はどこかいつもと雰囲気が違った。

「ご、ごめんよ……」

 確かに学校が終わってから30分が経過している。

 仕方ないだろ……さっき見たんだから……。

 しかし、待ってくれていたことには感謝しなければ。

 告白されるという緊張のあまり、心臓の鼓動は増すばかり。

 こんなのチェリーには耐えられない。

「許して欲しいなら……」と櫻井さんは俺に近づき背伸びをした。

 唯一俺が勝ててんのは身長ぐらいか……。

 そして、櫻井さんは自分の唇を指して「キスしてくれたら良いよ」とニコッと言った。

「え?」

 困惑する俺。

 無理もない。

 そんな謝り方聞いたこともないからだ。

 ましてや、学年一の美少女が「キスしたら許す」? 

 もしかして、こいつ……ビッチか?

 しかし、俺のファーストキスが美少女……するしかない。

「いいよ……」と俺は櫻井さんにキスをした。

 頭がボッーとする……。

 なんだ……最初のキスの味はいちごとか言ってるけど歯磨き粉じゃん……。

 そのまま、時間が止まって欲しい。

 そんなことを思うほど気持ちが良かった。

「ちょ、長い……」

「あ、ごめん……」

 し、仕方ないだろぉ? ファーストキスなんだから……。

「後、舌入れないでよ……」

「そ、それは……ごめん」

 言えない。

 少しでも櫻井さんの唾液が舐めたかったなんて……。

「まぁ、いいよ……それでね。わたしが君をここに呼んだ理由なんだけど……」

 櫻井さんは後ろで手を組んで可愛らしく後ろに後ずさる。

 この雰囲気から一瞬でわかった。

 "告白"だと。

「貴方のことが好きです……エッチするから付き合ってください」

 そう櫻井さんは恥ずかしいのか顔を赤くしながら言った。

 ほ、ほんとに告白だった……。

 俺は「はい」と即答した。

 理由なんてひとつしかない。

 学年一の美少女と付き合える。

 ただそれだけだ。

 でも、ひとつ怖いことがある……それは、嘘告ということだ……。

 『嘘告』とは好きでもない相手に告白するという行為だ。

 もしそれだったら、許せない。

 あれ?

「待って……今『エッチするから』って……」

「言ったけど……」

 その瞬間、わかった。

 彼女は本気だと。

「エッチってあの?」

「そうだけど……わたし、どうしても俊くんと付き合いたくて……」

 そして、俺と櫻井さんは俺の家でした。



 次の日。

「おっはよぉ? お前、機嫌いいなぁ?」と俺の背中を叩く宏。

「そ、そうかぁ? ってなんでわかった?」

「ははは、顔に出てるよ。なぁ、俊?」

「どうしたんだ?」

「俺さずっとお前に隠してたことがあるんだわ……」

「な、なんだ?」

「俺さ、一ヶ月前からと付き合ってる……」

「え?」

 その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった──。
 
 そして、俺は気づく。

『あいつに遊ばれたんだ』と。



俺は櫻井さんのいる隣のクラスに早歩きで向かった。

 わかっていた。

 遊びだったなんて……。

 でも、信じてしまった自分が悪い。

 それでも……許せなかった。

 俺の初めてをたくさん奪っていったことに。

 何よりも親友の彼女を寝取りかけたことに。

 櫻井さんのいる2年B組に着くと俺は勢いよく櫻井さんの机を叩いた。

 ドンと音を立てて教室中に響いた。

 周りにいる人たちはビクリと驚く。

 櫻井さんの席の周りには女子友達が数人いるがそんなの関係ない。

「あの……櫻井さん……」

 しかし、俺の行動に動じずに細い目をして「誰ですか……?」と困ったように言う櫻井さん。

 なんなんだ……なんでそんな目で俺を見る……。

 その様子に周りは俺に注目をする。

「おいおい、櫻井さん困ってんぞ」

「何あいつ」

 ひそひそと周りはそんな話をし出した。

 は? なんで俺がこんな目に会わなきゃならないんだよ……悪いのは俺でなくこいつだろ……。

「は? ……俺だよ……昨日……」

 すると、櫻井さんは「ね……」と意味深な発言をした。

 あ、あの子……お前だろ……?

「………今日の放課後にまた来て……」
  
 そう彼女は言って席を立ち上がった──。

「は、ちょっ──」と俺は手を伸ばす。

「何?」

「どこに行くんだよ?」

 櫻井さんはりんごのように顔を赤くして「トイレ」と言った。

 あ……ちょっと聞かなかった方が良かった系かな?

 一体、『あの子』とは誰のことなんだ……。

 謎が深まる時は過ぎて行った──。



 そして放課後。

「約束の時間になったぞ……」と俺は再度2年B組に行き櫻井さんの机の前に立つ。

「また来た……」などと周りはざわざわしているが関係ない。

 俺はこいつと話がしたい。

「宏くんにバレるのもあれだから場所を変えよ」

 どうやらほんとに宏と付き合っているのか……。

 なら、ならなんで俺に告白を……。

「なぁ……なんで俺に告白を──」

 すると、櫻井さんは俺を睨んだ。

 それはまるで、「それ以上は言うな」と言わんばかりに。

「それを話すために来たんでしょ? 着いてきて……」

 そう言うと、櫻井さんは席を立ち上がり教室を出て行く。

 俺はそれに続いて歩いて行った。

 どこに向かってるか……そんなのはすぐにわかった。

 屋上だ。

 そして、俺たちは屋上に着くと櫻井さんは足を組んでベンチに座った。

 その姿はまるで天使だった。

 しかし、どこか昨日と違って見えた。

 あ……。

 そう違和感を感じたのは、櫻井さんが足を組んで座っていたからだった。

 昨日も一度、櫻井さんはベンチに座っていた。

 でも、足を組んではいなかったのだ。

「それで、話なんだけど……」

 どこか、彼女の雰囲気は先ほどまでの教室での雰囲気、そして昨日までの雰囲気とは違った。

 俺はゴクリと唾を飲む。

「あれは……の私ね……」

 そう発言した瞬間に俺の思考は完全に停止した。

 言ってる意味がまったくわからなかった……。

 「もう1人の私」? 何ふざけたこと言ってやがる……。

「お前、自分が何言ってんのかわかって言ってんのか? 『もう1人の私』だぁ……? ふざけたこと言ってんじゃねぇ。このクソビッチが!!」

「はぁ? 私がビッチなはずないでしょ……だって、まだ私は処女なのよ……」

 そう言った後に櫻井さんは自分が何を言っているのか理解したように顔を赤くした。

 いや、処女のはずがない……。

「嘘つけ……俺は昨日……」
 
 「お前とした」そう言おうとした瞬間に櫻井さんは「待って」と右手を俺に伸ばした。

 そして、櫻井さんは何か悩むように左手で頭を抑えている。

「ねぇ……私とあなた……えっーと」

「俊」

「俊くんはその……した?」

「はい……」

 次の瞬間、櫻井さんは泣き目になりぷるぷると身体を震え出した。

 そして、櫻井さんは頭を抱えながら地面に両膝を付けた。

「私……私の初めてが……この人なんて……」

「ちょっ──」と櫻井さんに手を伸ばすと。

 こちらを睨みながら。

「ねぇ、中には出してない? しっかりゴムした?」

 なんてことを聞きやがる……あの時、お前がゴムをくれただろ?

「お前がくれたからな……」

「それは、よかった……いや、よくないわ!! 私の初めてが……」

 こいつ、ほんとに二重人格とでも言うのか……。

 疑いたい気持ちもある。

 だか、彼女のこの感じ……。

「ちょっと待て、ほんとにお前は昨日の櫻井さんじゃ……」

「ええ、そうよ。それより!! 私の左胸には……?」

 その程度か!? どうやら確信はないがほんとに二重人格のようだ。

 そんなの目に焼き付いてる……。

「……ほくろ……」

 そう言った瞬間に櫻井さんは転がりながら「ぁあー、私はほんとにしたの……あいつ……」と言う。

 さっきから「あいつあいつ」と誰のことを言ってやがる?

「さっきからあいつって?」

 ハァ……と大きなため息をつきながら櫻井さんは立ち上がる。

「ちょっと、うちに来てもらっていい?」

「ま、またするの?」

「飛んだ変態ね。違うわ!! 私のを教えてあげるわ」

 ほぉ……それは胸のほくろよりすごいことですか!?

 気づけば、櫻井さんへの怒りが無くなっていた俺でした──。


 

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