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第2話【友の為に再開】
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チュートリアルでの体験からゲームを躊躇い、数日が経った。
やはり、あの死の恐怖は簡単には拭えない。
疑似体験で死ぬ事に恐怖の薄くなったVR世界で彼処まで死の恐怖を体感ゲームはそうそう無いだろうが、あれは流石にやり過ぎな気がする。
もしかするとこの製作者はVRゲームの禁忌であるデスゲームでも体験した事があるのかも知れない。
ーーで、無ければ、あんなリアルな恐怖も痛みも体験しなかった筈だ。
そんな事を考えながら俺が仕事を終えて自宅へ帰る途中、物陰から周囲に気を配る同僚の哲(さとる)を見掛けた。
「哲?」
「ひっ!?」
声を掛けると哲はバッと俺に振り返る。
驚き方からして尋常ではないのが解る。
「な、なんだ。糀か……」
「どうしたんだ、哲?顔色が悪いぞ?」
そう言って、俺が哲に触れようとすると哲は怯えた様に俺から離れて、その場にしゃがみ込む。
「いや!もう酷い事しないで!」
「え?」
その言葉に俺は戸惑う。
新米社員だった頃の哲とは思えない挙動である。
しかもどこか女言葉を使っている様な気がする。
「しっかりしろよ、哲!
何があったんだ!」
「……俺……H.E.A.V.E.N.で乱暴されたんだ」
「え?H.E.A.V.E.N.って、あのH.E.A.V.E.N.でか?」
「H.E.A.V.E.N.って名前からして人生が終わる程のゲームだと思ったんだ。でも、実際は……」
此処まで衰弱していると心配になる。
「嫌ならやめたら良いじゃないか?」
「そうなんだけど……俺……」
なにやら、哲には哲なりのH.E.A.V.E.N.をやめられない理由があるらしい。
このままでは哲の人生が本当に終わってしまう。
その前に彼を助けなければ……。
「解った。俺がお前を助ける」
俺がそう言うと哲が顔を上げた。
「……糀」
「まだチュートリアルもクリアしてないから、時間が掛かるかも知れないけど、絶対に助けに行く。それまで堪えてくれ」
俺がそう言うと哲は鼻を啜って立ち上がる。
「ありがとう、糀。俺ーー私、待っているから」
俺は哲に頷くと彼と別れて、すぐにH.E.A.V.E.N.を再開した。
同僚をーー友人を助けたい思いで俺が再びH.E.A.V.E.N.に入ると突然、ファンファーレが鳴り響く。
《おめでとうございます》
《貴方はゲームオーバーを恐れず、再びH.E.A.V.E.N.を起動しました》
《その意志を忘れなければ、H.E.A.V.E.N.でも活躍出来るでしょう》
そこで視界がブラックアウトし、しばらくすると俺は人々で賑わう酒場に立っていた。
『チュートリアルの死を乗り越えて、やって来たか……なかなか、見所があるね?』
俺は声の方を振り返るとNPCらしき船長服を着た赤毛の女性が俺に笑い掛けて来た。
『これから簡単な質問をするよ。
それに全て答えるとあんたに適した職業(クラス)が決まる。
因みにH.E.A.V.E.N.はリセットマラソンが出来ないから質問に答える時は注意しな』
つまり、職業を選択出来るのは一度きりか……難易度が高そうだな。
『因みにあんたの名前はなんて言うんだい?』
あ、此処でアバターのネームが決まるのか……。
「……えっと」
『エットか。いい名前だね!』
は?いや、ちょっと待って!?
今の発音で入力が完了しちゃったの!?
そんな慌てる俺を見て、赤毛の船長が笑う。
『ハハッ!冗談だよ!焦ったかい!?』
……このゲームの製作者はデスゲームを体験したんじゃなくて、性根が曲がっているんだろうか?
哲の件と言い、かなり意地が悪い。
俺はそう思いながら、あれこれとネームを考え込む。
やはり、あの死の恐怖は簡単には拭えない。
疑似体験で死ぬ事に恐怖の薄くなったVR世界で彼処まで死の恐怖を体感ゲームはそうそう無いだろうが、あれは流石にやり過ぎな気がする。
もしかするとこの製作者はVRゲームの禁忌であるデスゲームでも体験した事があるのかも知れない。
ーーで、無ければ、あんなリアルな恐怖も痛みも体験しなかった筈だ。
そんな事を考えながら俺が仕事を終えて自宅へ帰る途中、物陰から周囲に気を配る同僚の哲(さとる)を見掛けた。
「哲?」
「ひっ!?」
声を掛けると哲はバッと俺に振り返る。
驚き方からして尋常ではないのが解る。
「な、なんだ。糀か……」
「どうしたんだ、哲?顔色が悪いぞ?」
そう言って、俺が哲に触れようとすると哲は怯えた様に俺から離れて、その場にしゃがみ込む。
「いや!もう酷い事しないで!」
「え?」
その言葉に俺は戸惑う。
新米社員だった頃の哲とは思えない挙動である。
しかもどこか女言葉を使っている様な気がする。
「しっかりしろよ、哲!
何があったんだ!」
「……俺……H.E.A.V.E.N.で乱暴されたんだ」
「え?H.E.A.V.E.N.って、あのH.E.A.V.E.N.でか?」
「H.E.A.V.E.N.って名前からして人生が終わる程のゲームだと思ったんだ。でも、実際は……」
此処まで衰弱していると心配になる。
「嫌ならやめたら良いじゃないか?」
「そうなんだけど……俺……」
なにやら、哲には哲なりのH.E.A.V.E.N.をやめられない理由があるらしい。
このままでは哲の人生が本当に終わってしまう。
その前に彼を助けなければ……。
「解った。俺がお前を助ける」
俺がそう言うと哲が顔を上げた。
「……糀」
「まだチュートリアルもクリアしてないから、時間が掛かるかも知れないけど、絶対に助けに行く。それまで堪えてくれ」
俺がそう言うと哲は鼻を啜って立ち上がる。
「ありがとう、糀。俺ーー私、待っているから」
俺は哲に頷くと彼と別れて、すぐにH.E.A.V.E.N.を再開した。
同僚をーー友人を助けたい思いで俺が再びH.E.A.V.E.N.に入ると突然、ファンファーレが鳴り響く。
《おめでとうございます》
《貴方はゲームオーバーを恐れず、再びH.E.A.V.E.N.を起動しました》
《その意志を忘れなければ、H.E.A.V.E.N.でも活躍出来るでしょう》
そこで視界がブラックアウトし、しばらくすると俺は人々で賑わう酒場に立っていた。
『チュートリアルの死を乗り越えて、やって来たか……なかなか、見所があるね?』
俺は声の方を振り返るとNPCらしき船長服を着た赤毛の女性が俺に笑い掛けて来た。
『これから簡単な質問をするよ。
それに全て答えるとあんたに適した職業(クラス)が決まる。
因みにH.E.A.V.E.N.はリセットマラソンが出来ないから質問に答える時は注意しな』
つまり、職業を選択出来るのは一度きりか……難易度が高そうだな。
『因みにあんたの名前はなんて言うんだい?』
あ、此処でアバターのネームが決まるのか……。
「……えっと」
『エットか。いい名前だね!』
は?いや、ちょっと待って!?
今の発音で入力が完了しちゃったの!?
そんな慌てる俺を見て、赤毛の船長が笑う。
『ハハッ!冗談だよ!焦ったかい!?』
……このゲームの製作者はデスゲームを体験したんじゃなくて、性根が曲がっているんだろうか?
哲の件と言い、かなり意地が悪い。
俺はそう思いながら、あれこれとネームを考え込む。
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