上 下
2 / 16

第2話【友の為に再開】

しおりを挟む
 チュートリアルでの体験からゲームを躊躇い、数日が経った。
 やはり、あの死の恐怖は簡単には拭えない。
 疑似体験で死ぬ事に恐怖の薄くなったVR世界で彼処まで死の恐怖を体感ゲームはそうそう無いだろうが、あれは流石にやり過ぎな気がする。

 もしかするとこの製作者はVRゲームの禁忌であるデスゲームでも体験した事があるのかも知れない。

 ーーで、無ければ、あんなリアルな恐怖も痛みも体験しなかった筈だ。

 そんな事を考えながら俺が仕事を終えて自宅へ帰る途中、物陰から周囲に気を配る同僚の哲(さとる)を見掛けた。

「哲?」
「ひっ!?」

 声を掛けると哲はバッと俺に振り返る。
 驚き方からして尋常ではないのが解る。

「な、なんだ。糀か……」
「どうしたんだ、哲?顔色が悪いぞ?」

 そう言って、俺が哲に触れようとすると哲は怯えた様に俺から離れて、その場にしゃがみ込む。

「いや!もう酷い事しないで!」
「え?」

 その言葉に俺は戸惑う。
 新米社員だった頃の哲とは思えない挙動である。
 しかもどこか女言葉を使っている様な気がする。

「しっかりしろよ、哲!
 何があったんだ!」
「……俺……H.E.A.V.E.N.で乱暴されたんだ」
「え?H.E.A.V.E.N.って、あのH.E.A.V.E.N.でか?」
「H.E.A.V.E.N.って名前からして人生が終わる程のゲームだと思ったんだ。でも、実際は……」

 此処まで衰弱していると心配になる。

「嫌ならやめたら良いじゃないか?」
「そうなんだけど……俺……」

 なにやら、哲には哲なりのH.E.A.V.E.N.をやめられない理由があるらしい。
 このままでは哲の人生が本当に終わってしまう。
 その前に彼を助けなければ……。

「解った。俺がお前を助ける」

 俺がそう言うと哲が顔を上げた。

「……糀」
「まだチュートリアルもクリアしてないから、時間が掛かるかも知れないけど、絶対に助けに行く。それまで堪えてくれ」

 俺がそう言うと哲は鼻を啜って立ち上がる。

「ありがとう、糀。俺ーー私、待っているから」

 俺は哲に頷くと彼と別れて、すぐにH.E.A.V.E.N.を再開した。
 同僚をーー友人を助けたい思いで俺が再びH.E.A.V.E.N.に入ると突然、ファンファーレが鳴り響く。

《おめでとうございます》

《貴方はゲームオーバーを恐れず、再びH.E.A.V.E.N.を起動しました》

《その意志を忘れなければ、H.E.A.V.E.N.でも活躍出来るでしょう》

 そこで視界がブラックアウトし、しばらくすると俺は人々で賑わう酒場に立っていた。

『チュートリアルの死を乗り越えて、やって来たか……なかなか、見所があるね?』

 俺は声の方を振り返るとNPCらしき船長服を着た赤毛の女性が俺に笑い掛けて来た。

『これから簡単な質問をするよ。
 それに全て答えるとあんたに適した職業(クラス)が決まる。
 因みにH.E.A.V.E.N.はリセットマラソンが出来ないから質問に答える時は注意しな』

 つまり、職業を選択出来るのは一度きりか……難易度が高そうだな。

『因みにあんたの名前はなんて言うんだい?』

 あ、此処でアバターのネームが決まるのか……。

「……えっと」
『エットか。いい名前だね!』

 は?いや、ちょっと待って!?
 今の発音で入力が完了しちゃったの!?
 そんな慌てる俺を見て、赤毛の船長が笑う。

『ハハッ!冗談だよ!焦ったかい!?』

 ……このゲームの製作者はデスゲームを体験したんじゃなくて、性根が曲がっているんだろうか?
 哲の件と言い、かなり意地が悪い。

 俺はそう思いながら、あれこれとネームを考え込む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げの一手で生き残るっ! ~チケット頼みの無理ゲー~

美袋和仁
SF
 ある日突如として現れた謎の物体により拉致された主人公の正史は、いきなりデス・ゲームへと投げ込まれる。  異空間に広がる無限回廊。そこにある無数の小さな空間で、彼は各国から拉致された人々と死闘を繰り広げなくてはならない。 「僕に戦えるわけないじゃんかーっ!」  泣き叫ぶ彼が見つけたのは不思議なチケット。それの持つ真価を見極め、逃げの一手でデス・ゲームに抗う正史。  このゲームを作ったというマスターによれば、ゲームは最後の一人になるまで終わらないという。  だが、大騒ぎになっている地球では事情が違うようで.....?  SFチックな仮想空間で、お気楽暢気な高校生が我が道を征く!  なろうとカクヨムにも投稿しております。アルファに投稿するにあたり、かなり加筆修正しました。御笑覧ください♪

試験をクリアするまで夜は明けない!!

アカアオ
SF
2060年の地球。世界中は人類の技術の進歩を促進させることに力を入れており教育の分野についての研究や新たな教育方法の実践などの様々な行いをしていた。 世界中が学生たちを全員天才に育てあげるかのような勢いで試行錯誤を繰り返す中、我が国日本ではVR教育システム「極夜の庭」を使った世界初の教育がなされていた。 それは学生たちの欠点をVR世界内で実体化させ、欠点を子供たちに自覚させることであった。 「きっと大丈夫、こんなにたくさん調べたんだから……大丈夫」 極度の心配性である秋乃奏(あきのかなで)は、自信満々で自分の世界に入り込んでしまいがちな天野理夜(あまのりや)を筆頭とする問題児たちと様々な試験に挑む。

ヴァーチャル美少女キャラにTSおっさん 世紀末なゲーム世界をタクティカルに攻略(&実況)して乗り切ります!

EPIC
SF
――Vtub〇r?ボイス〇イド?……的な美少女になってしまったTSおっさん Fall〇utな世紀末世界観のゲームに転移してしまったので、ゲームの登場人物に成りきってる系(というかなってる系)実況攻略でタクティカルに乗り切ります 特典は、最推し美少女キャラの相棒付き?――  音声合成ソフトキャラクターのゲーム実況動画が好きな、そろそろ三十路のおっさん――未知 星図。  彼はそれに影響され、自分でも音声合成ソフトで実況動画を作ろうとした。  しかし気づけば星図はそのゲームの世界に入り込み、そして最推しの音声合成ソフトキャラクターと一緒にいた。  さらにおまけに――彼自身も、何らかのヴァーチャル美少女キャラクターへとTSしていたのだ。  入り込んでしまったゲーム世界は、荒廃してしまった容赦の無い世紀末な世界観。  果たして二人の運命や如何に?  Vtuberとかボイスロイド実況動画に影響されて書き始めたお話です。

機動幻想戦機

神無月ナデシコ
SF
リストニア大陸に位置する超大国ヴァルキューレ帝国は人型強襲兵器HARBT(ハービット)の製造に成功し勢力を拡大他国の領土を侵略していった。各国はレジスタンス組織を結成し対抗するも軍事力の差に圧倒され次々と壊滅状態にされていった。 これはその戦火の中で戦う戦士達と友情と愛、そして苦悩と決断の物語である。 神無月ナデシコ新シリーズ始動、美しき戦士達が戦場を駆ける。

少女と幼女のVRMMOディストピア蹂躙 死亡すると黒幕に違法改造されてよくないらしいので、死亡は厳禁で!

わさびねぎ魔
SF
 ---時は、超☆絶なる未来!  軍事大学を退屈に過ごしつつも悠々と首席卒業した『伊吹 麗奈』  世界有数の大富豪の唯一人の娘である 〈自称:大人の女性〉『夏目 塁』  二人は何時かの夜に出逢い唯一無二の親友となる  世界には厭世が溢れている  何よりも純真で何よりも無垢なる彼女らの心に突き立てる《現実》の狂刃は、遂に彼女らに【厭世】を与えるに十分と相成りて襲い来る  これは、【厭世】を知りながら否定し《新世界》を遊び尽くす物語  不思議な生物!悪意と破綻した思想とも呼ばれぬ狂気を孕んだ脅威達!  時に豪快に!時に適当に!! 全力で"無駄"を楽しむ物語!!!  求めるは勝利と退屈凌ぎの享楽!  例えゲームであったとしても現実より愉しいのだから!    第一部  何時もの戯れに超☆絶な技術で製作された、あまりに巨大な【大富豪専用】ゲーム機が鎮座する大広間  それは並のシェルターとは比べるべくもない居住性と引き換えに圧倒的生命保護能力を有する通称は【鋼鉄の柩】と呼称される究極の戯れのその一つ  ゲームにログインした二人はとある広場にて二度目の出逢いを果たす  謎の女性《Cat's eye》とのフレンド登録や、這いずる熊の如く毛むくじゃらな怪物が突如襲撃を開始するなど続々と発生するイベントにハプニング!  血走る花弁を咲かせる蔦が人間を殺し、怖気の走る姿形へと作り替え人を襲い来る  ありとあらゆる手段でもって人類を根絶やしにせんとばかりに  運命的か奇跡的かは定かでないが巨大な蜂に追われる中途に再開を果す二人はある山奥の村落へ脚を運び......? 第二部  落ち延びた二人組はとある村落へと脚を運んでいた  そこでは異常な営みが発展していたのだが......

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

「メジャー・インフラトン」序章3/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 FIRE!FIRE!FIRE!No2. )

あおっち
SF
 とうとう、AXIS軍が、椎葉きよしたちの奮闘によって、対馬市へ追い詰められたのだ。  そして、戦いはクライマックスへ。  現舞台の北海道、定山渓温泉で、いよいよ始まった大宴会。昨年あった、対馬島嶼防衛戦の真実を知る人々。あっと、驚く展開。  この序章3/7は主人公の椎葉きよしと、共に闘う女子高生の物語なのです。ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。 いよいよジャンプ血清を守るシンジケート、オリジナル・ペンタゴンと、異星人の関係が少しづつ明らかになるのです。  次の第4部作へ続く大切な、ほのぼのストーリー。  疲れたあなたに贈る、SF物語です。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

平等社会(ユートピア)

ぼっち・ちぇりー
SF
続編

処理中です...