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「少し大きいが、レフィーナによく似合うデザインだな」

「えぇ、よくお似合いです!こちらのサイズはいかがですか」

「…ん、こっちのサイズがぴったりだな」


 渡してもらった指輪をもう一度レフィーナの左手の薬指に通せば、ぴったりと収まった。レフィーナは綺麗なデザインの指輪を見つめている。
 内心はレフィーナに感づかれていないかヒヤヒヤしながら、ヴォルフはそっと声をかけた。
 

「どうだ?気に入ったか?」

「…綺麗だな、とは思うけど…誕生日のプレゼントにはやっぱり高価ね」


 そう言って、レフィーナはすっと指輪を外した。


「そうか…残念だな」

「ありがとうございました」


 レフィーナは指輪を店員に返してから、ヴォルフの手を取って宝飾店を出る。
 指輪のサイズを知りたかっただけだが、あの指輪はレフィーナによく似合っていたので、ヴォルフは少し残念に思う。あれはあれで誕生日プレゼントとして贈っても良かったかもしれない。


「あの指輪、似合っていたのに…」

「高価な物なんかじゃなくても、ヴォルフから貰えるなら、その辺りに咲いてる一輪の花でも嬉しいわ」


 レフィーナの言葉に、ヴォルフは口元を緩めて笑った。
 

「そうか…。でも、その辺りの花では駄目だな。もっとちゃんと残る物を渡した…、ん?」

「どうしたの?」

「ちょっとこっちに行くぞ」


 立ち並ぶ店を見渡していていたヴォルフは、かぎ針とレースが描かれた看板が目に止まり、レフィーナの手を引いてその店へと入る。
 扉に付いていたベルがカランと鳴り、店の奥から狐色の髪の青年が人懐っこい笑みを浮かべながら出てきた。


「いらっしゃい!」


 ヴォルフは商品棚へと視線を向ける。棚に並んでいるハンカチやグローブなどの小物は、どれも質が良さそうだ。


「ここにあるのは全部、俺の手作りなんだ!質は保証するよ!」

「…確かに、手触りが良いものばかりね。しかも、この質でこの値段は安いわ」


 青年の言葉に、レフィーナが商品の近くにあったハンカチに触れながら呟いた。その言葉を聞いてヴォルフは握っていたレフィーナの手を放し、青年に話しかける。


「彼女の誕生日プレゼントに良いものはあるか?」

「うーん、送るならハンカチとか……髪が長いならリボンとかどうかな」


 ヴォルフはちらりとレフィーナを見る。レフィーナは少し離れた場所で、興味深そうに店内を見ていた。
 こちらに背を向けるレフィーナの亜麻色の髪が揺れるのを見て、ヴォルフは呟く。


「リボンがいいか……」

「リボンなら、こっちに色々あるよ」


 ヴォルフの言葉に反応した青年が、色々な種類のリボンが並ぶ棚まで案内してくれる。


「ゆっくり選んで!」

「あぁ、ありがとう」


 青年はヴォルフの礼ににっこりと笑うとレフィーナの方へと歩いていった。
 ヴォルフは視線を棚へと戻すと、時々リボンを手に取りながら、吟味する。

レフィーナは仕事の時は髪を結っている。リボンならばいつも身につけて貰えるだろう。


「侍女の服は黒色だから、合わせた方がいいか……。派手すぎず、上品な感じか…?」


 独り言を呟きながら、ヴォルフはレースリボンを眺める。
 ふと棚の一番端に飾られていたレースリボンが目についた。黒色のレースリボンは繊細な模様を描いている。
 惹かれるように手に取り、ふっと口元を緩めた。それから青年の方へと視線を向ける。


「…あ!決まった?」


 ヴォルフの視線を感じたのか、レフィーナと和やかに話していた青年が、声を上げる。それからこちらに歩いてきた。
 ヴォルフは青年に黒色のレースリボンを見せる。


「このままでいい」


 値段を教えてもらい、代金を青年に支払いながらヴォルフは青年にそう告げた。


「じゃあ、確かに。つけるならあそこに鏡があるよ」
 
「あぁ、借りよう」


 首を傾げているレフィーナの肩に手を置き、軽く押して青年に教えてもらった鏡の前まで連れていく。
 ヴォルフは目的の場所につくと、壁にかけられた姿見の前にレフィーナを立たせた。


「ヴォルフ?」

「少し髪を触るぞ」

「え、えぇ…」


 不思議そうにしているレフィーナにまだ説明はせず、ヴォルフは背中に流された亜麻色の髪に触れる。
 女の髪など当然結ったことなどないが、ヴォルフはなんとか不器用な手つきで髪をまとめた。仕上げに先ほど買った黒色のレースリボンをきゅっと結ぶ。


「よし、終わったぞ」

「?」

「よく、似合ってる」


 ヴォルフは棚に置いてあった二つ折りの鏡を手に取り、レフィーナの頭の後ろで開く。合わせ鏡になって後ろが見えたレフィーナが、ばっと振り返った。
 驚いた様子のレフィーナに、ヴォルフは微笑みながら口を開く。


「17歳の誕生日、おめでとう」

「このレースリボン…」

「よく似合ってる。黒なら普段からつけていられるだろう?」


 気に入ってくれたのか、レフィーナが嬉しそうにふわりと顔をほころばせた。


「ありがとう!」

「……っ」


 笑ったレフィーナが可愛らしくて、ヴォルフの頬が一瞬で熱くなる。幸いにもそんなヴォルフにレフィーナは気づいていないようで、嬉しそうに鏡を見つめていた。


「…気に入ったか?」

「えぇ!」

「そうか」


 贈った物をこんなにも喜んで貰えて、嬉しい気持ちになったヴォルフは口元を緩めて笑う。
 目的も果たしたし、こうして気に入って貰えるプレゼントも贈れた。
 不愉快な事もあったが、レフィーナの誕生日を祝えて良かったと、ヴォルフはそう思ったのだった。
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