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しおりを挟む不安そうなミリーを見ながら、アードが呑気な声を出す。
「国外追放とかじゃない?」
「そんなっ!!」
アードの言葉にミリーが悲痛な声を上げる。ヴォルフはそんな二人に少し呆れたような視線を向けた。
国外追放などこの国ではありえないというのに。
「アード。おめぇ、騎士のくせして馬鹿だろ」
「はぁ?なんで!こういう場合は国外追放でしょ!ねぇ、ヴォルフ!?」
ベルグに馬鹿にされたアードがヴォルフに同意を求める。前騎士団長の息子で、それなりに長い間騎士としては働いてきたというのに、とヴォルフは小さくため息をついた。そういえば、アードは勉強が苦手だったな、とどうでもいい事を思い出しつつ、ヴォルフはアードの言葉に首を横に振る。
「えぇ!?」
「この国と隣接する国はプリローダとヴィーシニアの二国。そのどちらとも友好関係は良好だ」
「そんな隣国に犯罪者を追放して問題でも起こされたら、国同士の問題に発展するだろ。だから、まず国外追放なんてあり得ねぇんだよ」
友好関係が築かれる前はそういったこともあったが、今では完全に無い。だから、代わりに送られる場所が国内に作られた。
アードよりベルグの方がよっぽど詳しい。騎士としてそれはどうかと思うので、ヴォルフは帰ったらアードの頭に色々と叩き込むことを決める。
「で、では…私はどこに…」
「そんなの分かりきっているだろ?国外追放なんかしなくても、国内に立派な送り先があるじゃねぇか」
「え?」
「国境にあるだろ?問題を起こした奴が送られる屋敷がな。…お馴染みのダンデルシア家だよ、あんたの行き先は」
ダンデルシア家に送るシステムは、隣国の二国と友好関係が築かれた時に出来た物だ。当時のダンデルシア家の当主が酷い癇癪持ちで、体罰を行うためによく使用人が逃げ出していた。それに目を付けた当時の王が国外追放の代わりに、使用人としてダンデルシア家に送るようになったのだ。
それ以降、ダンデルシア家はその役割を続けている。
もっとも、出来た経緯は知らない者も多く、ただ使用人に厳しい家という認識の者が大半だ。とはいえ、有名な事に変わりはなく、貴族達の中でも知らない者はいない。
ミリーも例外ではなく、ダンデルシア家と聞いて、顔を青ざめさせていた。
「お嬢サマ。あんたの行き先はダンデルシア家だ。もちろん、身分は剥奪されて使用人として働かされるぜ」
「そ、そんな…っ。ド、ドロシー様!レオン殿下!レフィーナ様!ごめんなさいっ!私っ…謝りますわっ!だから…!」
ごめんなさい、で済む段階はとっくに終わっている。今更後悔して取り繕うように謝ったところで、もう遅い。
そして、この場でミリーに同情を抱くものは一人もいなかった。
「ミリー嬢…。もう取り返しのつかない所まで来てしまっているんだよ。……それに、私は私の大切な妻を殺そうとした者を許す気はない」
レオンの言葉にミリーが絶望したような表情を浮かべた。心のどこかでレオンならば許してくれるのではないか、などと考えていたのだろう。
「まぁ、暗殺を企てて、身分剥奪とダンデルシア家送りなんて軽い方だぞ。諦めてそこで反省しながら過ごすんだな」
ベルグがそう言って軽く手を振れば、影で控えていたベルグの仲間がずっと地面に転がされていたミリーと、ミリーの従者らしき男を立ち上がらせた。
ミリーはもう抵抗する気も喚き散らす気も起きないようで、ただ顔を真っ青にさせて唇を噛み締め、涙を堪えていた。
「じゃあ、俺はこいつらをダンデルシア家に送り届けて、お役ごめんだな」
「…諜報員がお前達を見張っている。余計な事はするな」
「分かってるよ、副騎士団長サマ。俺はあんな怖い王妃サマには二度と会いたくないし、死にたくもねぇからな。ちゃんと送り届けたら、裏稼業から足を洗うさ」
釘をさせば、ベルグが肩を竦めた。
そんなベルグにレオンが疑わしい視線を送りながら、ヴォルフに話しかける。
「…ヴォルフ、本当にこの者達に任せて大丈夫なのかな」
「諜報員が見張りについてますし、アードをつけますので大丈夫です」
「はい、俺がしっかり見張っておきますよ」
「…そう」
ベルグから武器の短剣を受け取りながら、アードが胸を張った。武器は没収するし、妙な事をすれば諜報員によって命を奪われるだろう。
ヴォルフは納得したように頷いたレオンに、レナシリアから手紙を預かっていた事を思い出す。すべてが終わったら渡すように命令されている。
その手紙を取り出して、ヴォルフはレオンに差し出す。
「それと、全てが終わったら王妃殿下からこの手紙を渡せ、と言われています。今回の詳細が書かれているそうです」
「手紙…屋敷に戻ったら読むよ」
レオンはヴォルフから手紙を受け取ってポケットに閉まった。
ヴォルフはこれでレナシリアからの命令をすべて終えた事に、そっと息を吐いて胸を撫で下ろす。何時もはどんな任務でもこんな風にはならないのだが、今回は色々気を張っていたので、自分で思っていた以上に緊張していたようだ。
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