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しおりを挟むスープを飲み終わり、ヴォルフは空になった皿をベッドサイドのテーブルに置くと、薬の準備をする。まず始めに袋から取り出した薬をレフィーナに渡し、次いで水の入ったコップを手に持たせた。水を飲むのを手伝い、薬を飲み終わった頃には、二人共、顔を赤く染めていた。
すぐ近くにいるレフィーナにヴォルフがドキドキと早く動く心臓を意識していれば、レフィーナが体をベッドに沈め、ヴォルフに背を向けるように寝返りを打つ。
辛そうなレフィーナに心配そうな声色で、ヴォルフは話しかける。
「…辛いのか?…大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
そう言いながらも辛そうに呻き声をもらすレフィーナに、ヴォルフは躊躇いながらもそっと頭に手を置いた。
それから少しでも辛さが和らぐようにと、優しくレフィーナの亜麻色の髪を撫で始める。
「……ヴォルフ様は…どうして、廊下に居たんですか?」
眠たいのか少しとろんとした声のレフィーナの問いに、ヴォルフは髪を撫でる手を止めずに答える。
「今日は休みだし、お前も休みだと聞いたから、一緒に出かけないかと聞きに来たんだ」
「…あぁ…そうだったんですね…。デートの…お誘いでしたか…」
ヴォルフは眠そうなレフィーナの言葉に耳を傾けていたが、レフィーナの口から出たデート、という言葉に思わず、頭を撫でていた手を止めた。
まさかレフィーナの口からそんな単語が出てくるとは思っていなかった為、少しの間思考が停止する。
「……ヴォルフ様…?」
撫でるのを再開してほしそうに、レフィーナが催促するような声を出した。その声にヴォルフはまた、ゆるゆると撫でるのを再開する。
今までレフィーナはヴォルフの事を友人のようにしか思っていなかった。だから、例えヴォルフがデートに誘っても、今までのレフィーナならば、ただのお出かけとしか思わなかっただろう。しかし、先程のレフィーナはデートの誘いだと思った。それは、レフィーナが少しでもヴォルフを異性と認識しているからで…。
ヴォルフはレフィーナの中で、友達以外の感情が少し…ほんの少しでも出来たのではないかと、そんな風に考える。それならば、ヴォルフもまたレフィーナを異性として意識していることを知ってもらおうと、口を開く。
「…そうだ。デートに誘いに来たんだ」
レフィーナの事をもっと知りたくて。
レフィーナの側に居たくて。
そんな想いを言葉に含ませる。
「……ん…」
「…寝てるのか…?」
「…まだ…寝て、な…」
今すぐにでも眠ってしまいそうなレフィーナには、残念ながらヴォルフの想いは通じてなさそうだ。今は風邪を引いているし、仕方ないか、と少しはやる気持ちを落ち着ける。
そんなヴォルフの気など知りもしないレフィーナが寝返りを打ってヴォルフの方を向く。そして、甘えるように頭を撫でていたヴォルフの手にすり寄った。
そんなレフィーナの仕草に、ヴォルフの心臓が跳ねる。
「………っ。レフィーナ…」
「ヴォルフ様……手を…繋いで、くだ…さい…」
戸惑うヴォルフに、レフィーナがまた可愛らしい事を言うものだから、ヴォルフの心臓は先程から高鳴ってばかりだ。戸惑いもあるが、好きな女性に甘えられるのは嬉しくて、ヴォルフは要望通りにレフィーナの手を握る。
自分よりも小さな手は、ヴォルフの手にすっぽりとおさまった。
そんな所も可愛いな、なんて思っていれば、レフィーナが嬉しそうに口元を緩めて笑う。それを見たヴォルフも愛しさに、口元を綻ばせて優しい笑みを浮かべた。
レフィーナを好きだという気持ちは日を追うごとに大きくなっている。今、この時も。
気持ちが心を一杯に満たして、その想いが口からこぼれ落ちる。
今まで言えなかった言葉に、今まで以上に感じる愛しいという想いを含ませて。
「レフィーナ…好きだ。俺は…お前の事が好きだ」
他の誰でもなく、レフィーナの事が好き。妹思いで、優しくて…なにより、ヴォルフを過去から…母親の影から助け出してくれた人。…初めて好きになった女。
レフィーナの側に居たいし、レフィーナに側に居て欲しい。
囁くような声でした告白に、レフィーナは今にも閉じそうだった目を開けて、ヴォルフに視線を向ける。
「レフィーナ。俺は友人にはなりたくない。…恋人になりたいんだ」
愛しさと甘さを含んだ声で言葉を投げかければ、レフィーナが緋色の瞳を揺らした。その瞳に浮かぶ迷いを感じ取ったヴォルフは、苦笑いを浮かべる。
いきなり告白されても戸惑いの方が大きいのは仕方ないだろう。ヴォルフも、レフィーナが全く同じだけの気持ちを向けてくれているとは思っていない。それでも告白したのは、好きだという想いがあふれたから。そして、レフィーナにもっと自分を意識してほしかったからだ。
甘えてきたレフィーナの心にほんの少しでも、同じ感情があって欲しい…。
ヴォルフはそんな風に思いながら、迷いに緋色の瞳を揺らすレフィーナの頬をするりと撫でて、口を開いた。
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