23 / 97
23
しおりを挟む
ヴォルフは赤いアネモネから視線を逸らすと、店の前まで戻ることにした。
どうやらまだレフィーナは店の中のようなので、店の壁に背を預け佇む。時々通り過ぎる騎士達が真面目に仕事をしているのを見ながらレフィーナを待っていれば、店から人が出てくる気配を感じた。
「ヴォルフ様、お待たせしてすみません」
「…いや、そんなに待ってな……」
出てきたのはレフィーナだったようで、申し訳なさそうに声を掛けられる。それに返事をしながらレフィーナの方を向いたヴォルフは、思わず言葉を止めた。
レフィーナは別れる前とは違う服を着ており、その服はレフィーナによく似合っていた。
フリルがたっぷりの白いブラウスはレフィーナの美しさに少し可愛さを添えていたし、ワインレッドのスカートは緋色の瞳に良く合っている。
雰囲気の違うレフィーナは可愛くて、それを意識すると恥ずかしくなり、ヴォルフはふいと顔を背けた。
「あの、似合ってませんか…?ダットさんに選んで貰ったのですが…」
「い、いや。よく似合っている」
「そうですか、それなら良かったです…」
なんとか動揺を隠しながら返事をするものの、背けた顔を戻すことは出来なかった。そんな自分に少々何とも言えない気持ちになっていれば、周りを見回していたレフィーナが口を開く。
「そろそろ行きましょうか」
「あ、あぁ。そうだな」
頷けばレフィーナがまた腕に手を添えてくる。もちろんはぐれない為のものだが、ヴォルフは思わず肩を跳ねさせそうになり、なんとかそれを抑えると、気を逸らすように歩き出した。
並んで歩けば、昼時が近いせいか色んな場所からいい匂いが漂って来る。
「そういえば、ヴォルフ様はあのお店がダットさんのお店だって知っていたんですか?」
レフィーナの言葉にヴォルフはダットの姿を思い浮かべる。
ダットはザックの双子の兄で、ヴォルフも何度か会った事があるのだが、なかなかに濃い人物だ。なんせザックと同じ顔に化粧を施し、女性のような話し方をするのだから。
店の事は知らなかったので、ヴォルフは首を横に振った。
「いや、知らなかったが…そうなのか?」
「はい。ザック様にそっくりですね。……性格とかは全然違っていましたが」
「あぁ…中々…凄い人だろ。色んな意味で」
「まぁ、最初は驚きましたけど、途中からは気にならなくなりました」
レフィーナの言葉にヴォルフは頷く。慣れてしまえば普通にいい人だ。その辺りはザックと似ているとも思う。
「その服はダットさんに選んでもらったんだったな」
「はい。宣伝するかわりに、頂いたんです」
「そうか」
レフィーナは顔立ちが整っているし、宣伝には向いているのだろう。見る人が多いほど、着ている服も目に入る。
現に男性もだが女性もすれ違うレフィーナを見ているので、ダットの狙い通りだろう。しかし、鼻の下を伸ばしている男性には少々イラッとする。
「ヴォルフ様、そろそろお昼ですね。食事にしませんか?」
「そうだな。何か食いたいものあるか?」
問いかければ、レフィーナが考え込む。どこが良いだろうか、とぼんやり考えながら何となしに黙っているレフィーナに視線を移す。
屋台を眺めていたと思ったら、香ってくるいい匂いにひくりと小さな鼻を動かしている。それからまた別の物に気を取られて…
「ヴォルフ様は何か食べたい物ないんですか?」
「くっ…決められないのか?」
「……どれも美味しそうなのが悪いんです」
結局一つに決められなかったらしいレフィーナに思わず笑えば、少し拗ねたようにそんな風に言われた。可愛らしく拗ねるレフィーナに胸がとくりとくり、と優しくリズムを刻んで温かい気持ちに満たされる。
今だけはそんな心地よさを素直に受け入れながら、どこに行くか考えて一つの場所を頭に浮かべた。
「…じゃあ、俺がよく行く所でいいか?」
「はい」
レフィーナの返事を聞いて、ヴォルフは行きつけの店へと足を向ける。今から向かう店は城に来た頃にザックに連れてきて貰った所だ。今でも一人で行ったり、ザックと訪れたりしている。
少し歩けば目当てのこじんまりとした料理屋が見えてきた。
「ここだ」
そう言ってレフィーナを見るが特に気にした様子は無いので、店に入ることにした。
レフィーナは元公爵令嬢で、いかにも庶民な店は嫌がるかもしれない、と思ったが別にそんな事は無かったようだ。こうしていると令嬢だった気がしないのが不思議だ。
そんな事を思いながら中に入れば、昼時というのもあって、そこそこの客がいた。
「おー!ヴォルフじゃないか!よくきたな!」
すっかり顔見知りの店員に声を掛けられて、ヴォルフは軽く手を上げて応えておく。この店は席まで案内があるような店ではないので、ヴォルフは空いていた窓際のテーブルへと勝手に向かい、腰に携えていた剣を外して壁側に立てかけてから座った。
後ろから着いてきていたレフィーナは向かいの席に座る。
そうすれば顔見知りの店員がすぐにやってきた。
「お前がザックじゃなくて女性を連れて来るなんて、明日は雨じゃねぇだろうな?」
「雨なんて降るか」
「かぁー!あんな無口なガキがこんな口聞くようになるなんてな!」
そう言いながら髪をぐしゃぐしゃとかき回される。今までも何度かされていたので、もう諦めてされるままになっておいた。
どうやらまだレフィーナは店の中のようなので、店の壁に背を預け佇む。時々通り過ぎる騎士達が真面目に仕事をしているのを見ながらレフィーナを待っていれば、店から人が出てくる気配を感じた。
「ヴォルフ様、お待たせしてすみません」
「…いや、そんなに待ってな……」
出てきたのはレフィーナだったようで、申し訳なさそうに声を掛けられる。それに返事をしながらレフィーナの方を向いたヴォルフは、思わず言葉を止めた。
レフィーナは別れる前とは違う服を着ており、その服はレフィーナによく似合っていた。
フリルがたっぷりの白いブラウスはレフィーナの美しさに少し可愛さを添えていたし、ワインレッドのスカートは緋色の瞳に良く合っている。
雰囲気の違うレフィーナは可愛くて、それを意識すると恥ずかしくなり、ヴォルフはふいと顔を背けた。
「あの、似合ってませんか…?ダットさんに選んで貰ったのですが…」
「い、いや。よく似合っている」
「そうですか、それなら良かったです…」
なんとか動揺を隠しながら返事をするものの、背けた顔を戻すことは出来なかった。そんな自分に少々何とも言えない気持ちになっていれば、周りを見回していたレフィーナが口を開く。
「そろそろ行きましょうか」
「あ、あぁ。そうだな」
頷けばレフィーナがまた腕に手を添えてくる。もちろんはぐれない為のものだが、ヴォルフは思わず肩を跳ねさせそうになり、なんとかそれを抑えると、気を逸らすように歩き出した。
並んで歩けば、昼時が近いせいか色んな場所からいい匂いが漂って来る。
「そういえば、ヴォルフ様はあのお店がダットさんのお店だって知っていたんですか?」
レフィーナの言葉にヴォルフはダットの姿を思い浮かべる。
ダットはザックの双子の兄で、ヴォルフも何度か会った事があるのだが、なかなかに濃い人物だ。なんせザックと同じ顔に化粧を施し、女性のような話し方をするのだから。
店の事は知らなかったので、ヴォルフは首を横に振った。
「いや、知らなかったが…そうなのか?」
「はい。ザック様にそっくりですね。……性格とかは全然違っていましたが」
「あぁ…中々…凄い人だろ。色んな意味で」
「まぁ、最初は驚きましたけど、途中からは気にならなくなりました」
レフィーナの言葉にヴォルフは頷く。慣れてしまえば普通にいい人だ。その辺りはザックと似ているとも思う。
「その服はダットさんに選んでもらったんだったな」
「はい。宣伝するかわりに、頂いたんです」
「そうか」
レフィーナは顔立ちが整っているし、宣伝には向いているのだろう。見る人が多いほど、着ている服も目に入る。
現に男性もだが女性もすれ違うレフィーナを見ているので、ダットの狙い通りだろう。しかし、鼻の下を伸ばしている男性には少々イラッとする。
「ヴォルフ様、そろそろお昼ですね。食事にしませんか?」
「そうだな。何か食いたいものあるか?」
問いかければ、レフィーナが考え込む。どこが良いだろうか、とぼんやり考えながら何となしに黙っているレフィーナに視線を移す。
屋台を眺めていたと思ったら、香ってくるいい匂いにひくりと小さな鼻を動かしている。それからまた別の物に気を取られて…
「ヴォルフ様は何か食べたい物ないんですか?」
「くっ…決められないのか?」
「……どれも美味しそうなのが悪いんです」
結局一つに決められなかったらしいレフィーナに思わず笑えば、少し拗ねたようにそんな風に言われた。可愛らしく拗ねるレフィーナに胸がとくりとくり、と優しくリズムを刻んで温かい気持ちに満たされる。
今だけはそんな心地よさを素直に受け入れながら、どこに行くか考えて一つの場所を頭に浮かべた。
「…じゃあ、俺がよく行く所でいいか?」
「はい」
レフィーナの返事を聞いて、ヴォルフは行きつけの店へと足を向ける。今から向かう店は城に来た頃にザックに連れてきて貰った所だ。今でも一人で行ったり、ザックと訪れたりしている。
少し歩けば目当てのこじんまりとした料理屋が見えてきた。
「ここだ」
そう言ってレフィーナを見るが特に気にした様子は無いので、店に入ることにした。
レフィーナは元公爵令嬢で、いかにも庶民な店は嫌がるかもしれない、と思ったが別にそんな事は無かったようだ。こうしていると令嬢だった気がしないのが不思議だ。
そんな事を思いながら中に入れば、昼時というのもあって、そこそこの客がいた。
「おー!ヴォルフじゃないか!よくきたな!」
すっかり顔見知りの店員に声を掛けられて、ヴォルフは軽く手を上げて応えておく。この店は席まで案内があるような店ではないので、ヴォルフは空いていた窓際のテーブルへと勝手に向かい、腰に携えていた剣を外して壁側に立てかけてから座った。
後ろから着いてきていたレフィーナは向かいの席に座る。
そうすれば顔見知りの店員がすぐにやってきた。
「お前がザックじゃなくて女性を連れて来るなんて、明日は雨じゃねぇだろうな?」
「雨なんて降るか」
「かぁー!あんな無口なガキがこんな口聞くようになるなんてな!」
そう言いながら髪をぐしゃぐしゃとかき回される。今までも何度かされていたので、もう諦めてされるままになっておいた。
26
あなたにおすすめの小説
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた
夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。
そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。
婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる