悪役令嬢の役割は終えました(別視点)

月椿

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 ヴォルフは赤いアネモネから視線を逸らすと、店の前まで戻ることにした。

 どうやらまだレフィーナは店の中のようなので、店の壁に背を預け佇む。時々通り過ぎる騎士達が真面目に仕事をしているのを見ながらレフィーナを待っていれば、店から人が出てくる気配を感じた。


「ヴォルフ様、お待たせしてすみません」

「…いや、そんなに待ってな……」


 出てきたのはレフィーナだったようで、申し訳なさそうに声を掛けられる。それに返事をしながらレフィーナの方を向いたヴォルフは、思わず言葉を止めた。

 レフィーナは別れる前とは違う服を着ており、その服はレフィーナによく似合っていた。
 フリルがたっぷりの白いブラウスはレフィーナの美しさに少し可愛さを添えていたし、ワインレッドのスカートは緋色の瞳に良く合っている。
 雰囲気の違うレフィーナは可愛くて、それを意識すると恥ずかしくなり、ヴォルフはふいと顔を背けた。


「あの、似合ってませんか…?ダットさんに選んで貰ったのですが…」

「い、いや。よく似合っている」

「そうですか、それなら良かったです…」


 なんとか動揺を隠しながら返事をするものの、背けた顔を戻すことは出来なかった。そんな自分に少々何とも言えない気持ちになっていれば、周りを見回していたレフィーナが口を開く。


「そろそろ行きましょうか」

「あ、あぁ。そうだな」


 頷けばレフィーナがまた腕に手を添えてくる。もちろんはぐれない為のものだが、ヴォルフは思わず肩を跳ねさせそうになり、なんとかそれを抑えると、気を逸らすように歩き出した。

 並んで歩けば、昼時が近いせいか色んな場所からいい匂いが漂って来る。


「そういえば、ヴォルフ様はあのお店がダットさんのお店だって知っていたんですか?」


 レフィーナの言葉にヴォルフはダットの姿を思い浮かべる。
 ダットはザックの双子の兄で、ヴォルフも何度か会った事があるのだが、なかなかに濃い人物だ。なんせザックと同じ顔に化粧を施し、女性のような話し方をするのだから。
 店の事は知らなかったので、ヴォルフは首を横に振った。


「いや、知らなかったが…そうなのか?」

「はい。ザック様にそっくりですね。……性格とかは全然違っていましたが」

「あぁ…中々…凄い人だろ。色んな意味で」

「まぁ、最初は驚きましたけど、途中からは気にならなくなりました」


 レフィーナの言葉にヴォルフは頷く。慣れてしまえば普通にいい人だ。その辺りはザックと似ているとも思う。


「その服はダットさんに選んでもらったんだったな」

「はい。宣伝するかわりに、頂いたんです」

「そうか」


 レフィーナは顔立ちが整っているし、宣伝には向いているのだろう。見る人が多いほど、着ている服も目に入る。
 現に男性もだが女性もすれ違うレフィーナを見ているので、ダットの狙い通りだろう。しかし、鼻の下を伸ばしている男性には少々イラッとする。


「ヴォルフ様、そろそろお昼ですね。食事にしませんか?」

「そうだな。何か食いたいものあるか?」


 問いかければ、レフィーナが考え込む。どこが良いだろうか、とぼんやり考えながら何となしに黙っているレフィーナに視線を移す。
 屋台を眺めていたと思ったら、香ってくるいい匂いにひくりと小さな鼻を動かしている。それからまた別の物に気を取られて…


「ヴォルフ様は何か食べたい物ないんですか?」

「くっ…決められないのか?」

「……どれも美味しそうなのが悪いんです」


 結局一つに決められなかったらしいレフィーナに思わず笑えば、少し拗ねたようにそんな風に言われた。可愛らしく拗ねるレフィーナに胸がとくりとくり、と優しくリズムを刻んで温かい気持ちに満たされる。
 今だけはそんな心地よさを素直に受け入れながら、どこに行くか考えて一つの場所を頭に浮かべた。


「…じゃあ、俺がよく行く所でいいか?」

「はい」


 レフィーナの返事を聞いて、ヴォルフは行きつけの店へと足を向ける。今から向かう店は城に来た頃にザックに連れてきて貰った所だ。今でも一人で行ったり、ザックと訪れたりしている。
 
 少し歩けば目当てのこじんまりとした料理屋が見えてきた。


「ここだ」


 そう言ってレフィーナを見るが特に気にした様子は無いので、店に入ることにした。
 レフィーナは元公爵令嬢で、いかにも庶民な店は嫌がるかもしれない、と思ったが別にそんな事は無かったようだ。こうしていると令嬢だった気がしないのが不思議だ。

 そんな事を思いながら中に入れば、昼時というのもあって、そこそこの客がいた。


「おー!ヴォルフじゃないか!よくきたな!」


 すっかり顔見知りの店員に声を掛けられて、ヴォルフは軽く手を上げて応えておく。この店は席まで案内があるような店ではないので、ヴォルフは空いていた窓際のテーブルへと勝手に向かい、腰に携えていた剣を外して壁側に立てかけてから座った。
 後ろから着いてきていたレフィーナは向かいの席に座る。
 そうすれば顔見知りの店員がすぐにやってきた。


「お前がザックじゃなくて女性を連れて来るなんて、明日は雨じゃねぇだろうな?」

「雨なんて降るか」

「かぁー!あんな無口なガキがこんな口聞くようになるなんてな!」


 そう言いながら髪をぐしゃぐしゃとかき回される。今までも何度かされていたので、もう諦めてされるままになっておいた。
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