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 物心ついた時から、慎太郎は植物にしか恋愛感情を持つ事ができなかった。

「自分は他の人とは違うのかもしれない」

 そう思い始めたのは小学校の高学年――性教育が始まる頃だ。
 同級生たちは何処からか手に入れてきた成人向け雑誌を隠れて回し読みをし、そこに写る女性の裸体を見ては興奮していた。
 慎太郎もその輪に入り、共に興奮はしていた。だが、それは熱狂や背徳から来るものであって、決して性的興奮は無かった。

 しかし同じ頃、母親が寄越したスイートピーをきっかけに、慎太郎は自分の性癖に気が付いた。
 母親は情操じょうそう教育の一環として与えた物だった。だが、慎太郎はその淡い色に咲く花に心奪われた。
 身体を支えるように小さな鉢に手を添え、想いを込めながらもう一方の手で花弁や茎にそっと触れる。その瞬間、身体の芯から沸き立つ様な強い興奮を覚えた。

 それは生まれ始めての事だった。

 自分に起きている異常への対処を知らない慎太郎は、ただ欲望に飛び込むように顔を近付け、香りを嗅いだ。可憐な香りが鼻を抜けると痺れを感じる程に昂った。

 彼は自分の身体の反応を見てこれが性的興奮なのだと知った――そして自覚した。

        〇


 中学生になり周りが色恋に対して活発になり始めると、慎太郎は異性から好意を寄せられる事が少なくなかった。だが、植物にしか恋愛感情を抱けない自分が人と男女の交際をしても互いに不幸になっていく事は目に見え、交際を申し込まれても一切を断っていた。

 しかし中学三年生の梅雨の時期、そんな慎太郎にも〝彼女〟ができた。
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