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王都編23
しおりを挟む「レストちゃん、お出掛け?」
「え、えぇ。ルナシーク様と王都へ…」
「……へぇ」
低い声が聞こえて思わずグライスを見るが、ふにゃふにゃした笑みを浮かべていてレストは首を傾げる。
この無害そうな笑みを浮かべていているグライスから発せられたとは思えないのだ。
「どうかした?」
「…何でもないわ」
「そう?…そういえば、メイドさん達がお話してたの聞いたんだけど、レストちゃんってルナシーク様の求婚断ったんだってね?」
「…え…?」
「一度求婚を断った相手と出かけるなんて…僕、あまり感心しないなぁ…。ルナシーク様を想う子達も悲しむかも…」
グライスの言葉にどくりと心臓が嫌な音を立てた。そう、レストは間違いなくルナシークの求婚を断っている。
勿論、ルナシークに問題があったし裏事情があったのも知らなかったのだからレストに非はないのだが、真実を知らない者からすれば結婚する気が無いのに出かけるなど相手を弄んでるように見えるだろう。
「………っ」
「あれ?どうしたの、レストちゃん?」
俯いて唇を噛み締めるレストには、明るい声で問いかけるグライスが口元を歪ませて、嫌な笑みを浮かべていることなど気づかない。
別に求婚を断ったからといってその人を好きになったり会ってはいけない、などという事は全くないのだが、グライスの口振りにレストは何だか酷く悪いことをしている気分になった。
「…もしかして、レストちゃん…ルナシーク様の事が好きなの?」
「そ、それは…」
「あは、お顔が真っ赤だ~」
好き、という言葉に赤くなったレストの頬をツンツンとグライスがつつく。
「そっかぁ…。ごめんね、僕が変な事言ったから気にしちゃったよね…」
「…私…」
「好きならせっかくだし出掛けてきてもいいんじゃないかな?」
グライスの先ほどの言葉が頭が離れない。自分の気持ちを受け入れた事によって、ルナシークで頭がいっぱいだった。だから、ルナシークを想う女性達の事なんて考えてもいなかったのだ。
「レストちゃん、変な事言ってごめんね?」
「いいの。事実だし…」
「あぁ、落ち込まないで!そうだ!明日、お詫びに僕の薬草室を見せてあげる!珍しい薬草の花が咲いて綺麗なんだ!」
グライスはレストを元気付けるかのように肩をぽんぽんと優しく叩く。
何だか落ち込んでしまったレストはグライスの提案に頷く事も出来ずにいた。
「ね、レストちゃん。明日、お話聞いてあげるから!話すと楽になるかもしれないよ…、僕、お友達だし気楽に話せるでしょ?二人だけの秘密にしてこっそり会えば詮索もされないしね」
「えぇ…そうね…」
「ふふっ。さぁ、今日は約束なんでしょ?じゃあ、行かないとルナシーク様に恥をかかせちゃうよ?」
グライスの言葉に力なく頷くとレストはどこか沈んだ気持ちのまま、ルナシークとの待ち合わせである城門を目指して歩きだしたのだった。
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