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王都編17
しおりを挟む「よくお似合いです、レスト様!」
瞳と同じ深い緑色のドレスを身に纏い、狐色の髪をアップにして生花で彩りを添えたレストにシアラが声をあげる。化粧も丁寧にされて綺麗に整えられた姿のレストだが、残念な事に本人は疲れ果てていた。
「さぁ、レスト様、会場に向かいますよ」
今日は例の舞踏会当日だ。
夜に行われる舞踏会の為に朝は最後のレッスン、昼からは準備。レストが疲れるのも無理はなかった。しかも、今日は久しぶりにルナシークと顔を合わせる事になるので、それもなんだか落ち着かない気分にさせるのだ。
「レスト様、さぁ、楽しんで来てください。私はここまでしかご案内できないので」
「うん、ありがとう」
「今日のレスト様は可愛らしいですし、厳しいレッスンも見事やり終えたんです。心配はいりませんよ!ただ、ルナシーク様にぜひともエスコートしてもらいたかったのですが…」
王族の男性は妻か婚約者しかエスコートできないのだ。
レストのエスコートは招待されていたダンスレッスンの老紳士な先生だ。会場に入り、キラキラとしたシャンデリアに一瞬目を細めてから会場を見渡す。
そんな時に王族の到着を告げる声が聞こえ、その場がしん、と静まり返る。
「……あ…」
会場の中心にある階段から王が王妃を、ソルフェストがイーリアをそれぞれエスコートして下りてくる。そして、最後にルナシークが一人でゆったりとした動作で下りてきた。
「まぁ、ルナシーク様は相変わらず素敵ですわ」
「えぇ!うっとりしてしまいますわね」
こそこそと囁き合う貴族の令嬢達の声を聞きながらレストはじっとルナシークを見つめる。
不意にルナシークがこちらを向いて目が合うと、レストはさっと視線を反らした。
頬が熱くなって胸がドキドキとする。
「…あぁん、私、ルナシーク様と目が合いましたわ!」
「いや、私を見てたのよ!」
「自意識過剰ですわよ!」
周りにいた令嬢達の声にいくらか冷静になったレストは、深呼吸をして心臓を落ち着ける。
王達の方を見ればイーリアの紹介が終わった所のようだった。
それを合図に舞踏会が始まった。
レストは先生にエスコートされながら王達に挨拶を済ませる。結局、挨拶をする間もレストはルナシークを直視する事が出来なかった。
「レイズ様、どこだろう?」
レイズを探すが見当たらない。というか令嬢達に取り囲まれているかも知れないと、ため息をつく。レイズも隣国の王だし、顔立ちも整っている。令嬢達が放っておくわけがないのだ。
ちらりとルナシークの様子を伺うがすでに令嬢達に取り囲まれていて姿は見えない。
「…はぁ…」
何だかもやもやする気持ちを誤魔化すように軽く頭を振って、レストは当初の予定通り人の目に付かないバルコニーへと足を運ぶ。
エスコートは王達に挨拶するところまでなので今は一人だ。
レストは分厚いカーテンからバルコニーへと足を踏み入れた。
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