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しおりを挟むカルトは固まって動かないレストの代わりに、お店の扉にクローズの看板をかけてからルナシークをカウンターの奥に招き入れた。奥にはこじんまりとしたキッチンとリビングがあり、そこにあるテーブルの椅子を引いてルナシークにすすめる。
「カルト!何で奥に案内するのよ!」
「そんなこと言ったって、店で立たせておくわけにもいかないじゃん」
我にかえったレストが慌てて二人を追いかけてきた。カルトの正論にぐっ、と言葉につまる。
レストは落ち着くために深呼吸をしてから一応は客人であるルナシークの為に、お茶の準備をはじめた。
「王子様はどこに泊まるんだ?」
「ここに決まっている」
「却下!」
カンッと荒々しくルナシークの前にティーカップを置きながら、レストがすぐさま否定する。そんな様子も楽しんでいるルナシークは、腕を組んでそっぽを向いているレストの狐色の髪に指を絡ませる。
「でもねぇちゃん。村に宿なんてないぞ?」
「村長の家があるでしょ。ルナシーク様は髪を触らないで下さい」
「その村長からここに滞在しろって言われたぞ」
「…村長め」
村長は何としてもルナシークとレストの仲を深めたいらしい。レストはルナシークの手から逃れるように距離をとりながら頭を抱えた。
村長がその調子なら村人達に頼んでも断られるのが目に見えている。かといってまさか王子を野宿させるわけにもいかない。
帰ってもらうのが一番だが、そんな様子は微塵もない。
「そういえばこんな手紙を預かっていたんだったな」
ルナシークはぐるぐると考えているレストの前にポケットから取り出した手紙をヒラヒラとさせた。差出人の名前にはイーリアと書いてある。
思わず手を伸ばしたレストから遠ざけるように、手紙をまたポケットに戻す。
「ここに滞在していいなら渡してやる」
「ぐっ…」
にやりと勝ち誇ったような笑みを浮かべるルナシークをレストは悔しそうな顔で睨む。
逃げ場を失ったレストはそれはそれは深いため息をついて、ゆっくりと頷いた。
「分かりました。カルト、空き部屋に泊めるから軽く掃除をしてきて。いつもしてるからそれほど汚れてないと思うから」
「任せろねぇちゃん!ピカピカにしてくる!」
気合い十分なカルトに少し癒されたレストは、いつものようにふわふわの自分と同じ狐色の頭を撫でた。
滞在の許可を得たルナシークは約束通り手紙をレストに手渡す。
「まったく…人の手紙を人質にとらないで下さい」
レストは文句を言いながらルナシークの向かいの席に腰を下ろした。ルナシークは素知らぬ顔でレストが入れたお茶を口に運ぶ。
「…美味いな」
こじんまりとした部屋には似合わない優雅な仕草でお茶を飲んだルナシークは少し口元を緩めた。その自然な微笑にレストはなんとなく落ち着かない気持ちになって、誤魔化すようにレストもお茶を口に含む。
性格がアレじゃなければまだ良かったのに、とレストは心の中でため息をついたのだった。
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