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〇42 賢者が放った苗と人々

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 ――賢者は知りたいと思った。

 ――遠く果ての出来事を。

 ――だからそのために、行動した。
 





 世界の歴史を記録しよう。

 遠い果てに生きる賢者が、ある日そう言った。

 その賢者は、知的好奇心を満たすために、様々な世界に大樹の苗を放つ。

 その苗が、一つの世界へたどり着いた。





 たどりついた一つの苗。

 それを見つけたのは、双子の子供。

 幼い少年と少女。

 その苗は、二人の子供によって、陽の光の具合がちょうどよい場所へ植えられた。

 双子は交代で苗の具合を見て、水を与え、肥料を与え続ける。

 二人の献身によって苗はすくすくと成長。

 それは何百年も、何千年もかけて大樹へ育った。

 はじめは。

 とても弱々しい小さな芽。

 儚く消えてしまいそうな苗だった。

 それが、何百年、何千年もの時間をかけて、たくましい大樹となった。






 ある双子に植えられたその木は、長い間様々な人々に世話をされてきた。

 巨大な木の影が増えていく。

 陽を優しく遮るその影の中に村ができて、町ができ、都市ができていったからだ。

 だから大樹は、色々な時代を見てきて、色々な人々に接してきた。

 人の時代は絶えず変化する。

 人と人が笑いあい、肩を組み。

 楽しく生活している時代もあれば。

 人と人が罵り合い、憎み。

 激しく憎悪し命を奪い合う時代もある。

 人は強くて弱い。

 一面では語れない多様な存在だった。

 大樹はそんな、様々な面を見せる人々を、愛していた。

 だからいつからか、守りたいと願うようになった。

 欲にまみれた時代があって、その時代に大樹のまわりにあった他の木々が伐採されて、燃やされ孤独になっても。

 科学の力が大地を汚染し、人々がその土地から離れていっても。

 その大樹が、人への愛を忘れる事はなかった。






 激動の時代が過ぎ去った後。

 大樹は、かつての双子に出会う。

 生まれ変わった双子に。

 長い時の生が辛くはなかったか、と問う双子に大樹は返した。

 確かにそんな時もあったが。

 命を繋いでくれてくれてありがとう。

 と、そう思っていた。

 やがてその大樹に寿命がきた。

 枯れゆく大樹は、双子に見守られながら、永遠の眠りについた。

 大樹は苗となり、再び賢者の手に帰っていく。

 多様な人の世の物語を、その身にひめて。


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