25 / 39
〇25 永遠の心
しおりを挟むいつか、どこかで。
世界を守る戦いがあった。
その戦いで、勇者達は勝利する。
しかし……。
犠牲は出た。
一人の少女が心を砕いてしまった。
そして感情を失ってしまう。
その砕けた心は、様々な力を秘めたまま、世界中に飛び散っていった。
少女の仲間は、少女を元に戻すために旅に出る。
また、笑いあえる日を夢見て
これは、最後の戦いの、その後の物語。
脅威と苦しみから解放された後の世界のお話。
「強大な悪」は倒された。
人々は歓喜し、肩を組んで笑いあう。
新しい世界。
平和の訪れ。
何気ない日々を、誰もが喜んでいた。
そんな中、勇者達が凱旋し、人々に語り掛けた。
「今度は俺達を助けてほしい」
人々は奮い立つ。
今度は、こちらが恩を返す番だと。
勝利を願う事しかできなかった後悔を、無力を。
力に変えようと立ち上がった。
人々は探す。
少女の心のかけらを探す。
かけらは、とても巨大な力を持っていて、誰もが欲にくらみそうになった。
願いを叶えてくれるかけらは、所有者の夢をかなえ、富を持たせるからだ。
しかし人々はそれらを手放す。
一番大きな脅威を払ってもらったのだから、自分の前に立ちふさがる壁は自分で取り払うと。
一番大事な所で戦ってもらったのだから、自分の人生は自分で戦う、と。
少女の心は次第に集まっていった。
次第に少女は、心をとりもどしていく。
光のない瞳に、感情という名の希望を蘇らせていく。
しかし、簡単に進む事柄ばかりではない。
病に伏した家族のために。
死んでしまった友のために。
心のかけらを握りしめたままの人々もいた。
そう簡単には手放せない想いがある。
世界を救ってもらった恩を返すよりも、大切な事がある。
そういう人達も少なからずいたためだ。
勇者達は困り果てた。
だから少女は提案する。
心を砕かれてしまった少女は提案する。
「私はこのままでもかまいません」
優しさを、慈愛を、にじませながら。
「だからその人達に幸せになってもらってください」
悲しさを、寂しさを、にじませながら。
「仲間達の人生をこれ以上邪魔したくはないのです」
勇者達は旅を終える事になった。
「新しい世界に生きる人々の人生の邪魔にはなりたくないのです」
他ならぬ少女がそう望むならと。
けれど、人々が奇跡を起こす。
恩を忘れなかった人々が。
世界中の人達が少しずつ心を砕いて、少女にそのかけらをあたえはじめた。
自分を壊す行為だけれど。
寿命でもう長くはないからと。
恩を忘れたくはないからと。
そうして少女は、少しずつ、少しずつ心を取り戻していった。
旅を再開した勇者達は、再び心のかけらを集めていく。
世界中の人達の心のかけらを。
最後の心のかけらが集まった時。
巨悪を倒した後も終わらなかった、勇者達の本当の旅が終わりを告げた。
少女はもう笑いたい時に笑い。
怒りたい時に怒り、
悲しい時に悲しみ、
驚いた時に驚く事ができる。
その瞬間に人々も、本当の意味で戦いが終わったのだと悟った。
「あの巨悪との戦いで、この世界の人達にたくさん助けられました。平和になった世界では、無力を嘆いて私達に協力してくれた人もいるけれど。あの旅の、あの戦いの中で何も力になれなかったという事はないんです。待っていてくれる場所がある、無事を祈ってくれる人達がいる。それだけで私達は勇気づけられて、無限の力で戦う事ができたんですから」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
きいちゃんの魔法のカギ
好永アカネ
児童書・童話
きいちゃんはカギを持っています。
きいちゃんのカギはなんでも開けることができる魔法のカギです。
きいちゃんは魔法のカギを使って今日もたくさんのものを開けます。
(この作品はマグネット!、アルファポリス、ノベルバ、エブリスタ、noteで公開しています)
壊れたオルゴール ~三つの伝説~
藍条森也
児童書・童話
※伝説に憧れただけのただの少年が、仲間と共に世界の危機に立ち向かい、世界をかえる物語。
※2024年10月14日20:00より、
第二部第九話開始。
※第二部九話あらすじ
「天詠みの島に向かう」
マークスの幽霊船の迎えを受けて、そう決意するロウワン。
世界は自分が守ると決意するプリンス。亡道の司を斬る力を手に入れるため、パンゲア領にこもるという野伏とレディ・アホウタ。野性の仲間たちに協力を求めるため、世界を巡るというビーブ。
それぞれに行動する仲間たちにあとを任せ、メリッサとふたり、マークスの幽霊船に乗って天詠みの島ほと向かうロウワン。
そのなかに表れる伝説の海の怪物。
はじまりの種族ゼッヴォーカーの導師との出会い。
メリッサの決意と、天命の巫女。
そして、ロウワンが手に入れる『最後の力』とは……。
※注) 本作はプロローグにあたる第一部からはじまり、エピローグとなる第三部へとつづき、そこから本編とも言うべき第二部がはじまります。これは、私が以前、なにかで読んだ大河物語の定義『三代続く物語を二代目の視点から描いた物語』に沿う形としたためです。
全体の主人公となるのは第一部冒頭に登場する海賊見習いの少年。この少年が第一部で千年前の戦いを目撃し、次いで、第三部で展開される千年後の決着を見届ける。それから、少年自身の物語である第二部が展開されるわけです。
つまり、読者の方としてはすべての決着を見届けた上で『どうして、そうなったのか』を知る形となります。
また、本作には見慣れない名称、表現が多く出てきます。当初は普通に『魔王』や『聖女』といった表現を使っていたのですが、書いているうちに自分なりの世界を展開したくなったためです。クトゥルフ神話のようにまったく新しい世界を構築したくなったのです。そのため、読みづらかったり、馴染みにくい部分もあるかと思います。その点は私も気にしているのですが、どうせろくに読まれていない身。だったら、逆に怖いものなしでなんでもできる! と言うわけで、この形となりました。疑問及び質問等ございましたらコメントにて尋ねていただければ可能な限りお答えします。
※『カクヨム』、『アルファポリス』、『ノベルアップ+』にて公開。
「不吉な子」と罵られたので娘を連れて家を出ましたが、どうやら「幸運を呼ぶ子」だったようです。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
マリッサの額にはうっすらと痣がある。
その痣のせいで姑に嫌われ、生まれた娘にも同じ痣があったことで「気味が悪い!不吉な子に違いない」と言われてしまう。
自分のことは我慢できるが娘を傷つけるのは許せない。そう思ったマリッサは離婚して家を出て、新たな出会いを得て幸せになるが……
婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました
山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。
でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。
そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。
長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。
脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、
「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」
「なりすましヒロインの娘」
と同じ世界です。
このお話は小説家になろうにも投稿しています
妖精さん達と暮らそう 改訂版
東郷 珠
児童書・童話
私にしか見えない妖精さん。
色んな妖精さんが、女の子を助けます。
女の子は、妖精さんと毎日楽しく生活します。
妖精さんと暮らす女の子の日常。
温かく優しいひと時を描く、ほのぼのストーリーをお楽しみ下さい。
天神様の御用人 ~心霊スポット連絡帳~
水鳴諒
児童書・童話
【完結】人形供養をしている深珠神社から、邪悪な魂がこもる人形が逃げ出して、心霊スポットの核になっている。天神様にそれらの人形を回収して欲しいと頼まれた中学一年生のスミレは、天神様の御用人として、神社の息子の龍樹や、血の繋がらない一つ年上の兄の和成と共に、一時間以内に出ないと具合が悪くなる心霊スポット巡りをして人形を回収することになる。※第2回きずな児童書大賞でサバイバル・ホラー賞を頂戴しました。これも応援して下さった皆様のおかげです、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる