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〇14 暑すぎる場所
しおりを挟むその人間は、建物の中で方向を見失っていた。
真っ黒な煙と、真っ赤な炎ばかりで、一向に青々とした空の下へ出られない。
建物から脱出するための、出口が分からない。
よたよたと歩いてみたけれど、焼け落ちた資材が通せんぼしていた。
真っ赤になっていて、とても手ではどかせない。
道がふさがれている。ここは通れない。
引き返そうと思った。
その瞬間、目の前の道が炎に包まれて、真っ赤に燃えていった。
自分の未来を見ている気持ちになって、絶望しそうになった。
このまま何もしなければそうなってしまう。
当然だろう、ここは火事になった建物の中なのだから。
消防士でもない自分が、長い事いたらこんがり焼けてしまう。
知識もないし、装備もない。
今、こうして無事でいる事が奇跡に等しい。
ああ、熱い。
そして、暑い。
火の粉をかぶれば熱いし、そうでなくても熱気が空だから水分をもっていってしまう。
火がない区画に移動しても、暑さがやわらがない。
熱気があとからあとから、押し寄せてくる。
もはや、ここまでか。
そう思った。
そして、自分の愚かさを呪う。
建物の防火設備をおろそかにしてしまった。
どうせ火事になるなんて事、ないと思っていた。
だからこうなったのだ。
なんて馬鹿だったのだろう。
あまく見過ぎていた。
客はすべて避難させたが、最後に確認のため建物に入って、煙で方向が分からなくなってしまった。
自分が商売している店、建物の中だと言うのに。
仕方がない。
いくつもある店舗のうちの一つで、何度かしか来た事がなかったのだから。
もうけてきてからは、ろくに核店舗を確認してこなかった。
煙をすいこんで、倒れてしまう。
ごほごほと咳が出た。
息が苦しい。
意識がかすんできて、とうとうあの世の光景が目に見えた気がした。
数年前になくなった祖母が声をかけてきたような気もする。
ああ、どうか罪を受け入れてこれからはまじめにするから。
だから助けてほしい。
それとも、人の命を危険にさらす人間に、そんな寛容な慈悲は与えられないだろうか。
だが、「生存者発見! 大丈夫ですか!?」と声がかかって、体をゆすられる。
俺は助かったらしい。
消防士に発見されて、建物の外へ連れ出された。
煙のない視界が、ひどく新鮮だった。
たんかに載せられ、救急車に運ばれる間に見えた空がひどく綺麗で。意味も分からず心にひびいた。
そういえば、親父がいってたな。
幼い頃に職場見学をした時、親父が誇らしげにしていた。
高層ビルの窓の向こう、街並みの中にあるいくつかのビルを指さしながら。
「利益を得る事も大事だけど、お客さんを大事にしてこその商売だぞ」
父は「父さんみたいになるなら、覚えておくんだ」と言って笑う。
熱い人だった。
もう死んでしまったけれど。
商売に関して、熱い心を持っていた。
どうして忘れていたのだろう。
俺は、救急車の中で生き延びた喜びと、間違えてしまった悲しみと共に、静かに涙を流した。
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