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01 七百年の眠りR4

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 人間がいくら滅びたってかまわない。

 けれど愛しいあの人の生活は守りたい。

 そう思った私は、世界を守るために眠りについた。

 聖女として、魔物から人を守る結界を作り出すために。





 私は聖女。

 とても強い力を秘めている。

 ほかの聖女よりも、何倍も強い力を。

 だから、私がその役目になったのだろう。

 七百年、眠り続けて、人間の世界を守るという役目を。

 正直、ほかの人間なんてどうでもよかった。

 いくら死んだところで心が痛くなることはない。

 親に捨てられ、孤児として貧しい中生きて、奴隷のように働いてきた。

 出会った人間たちはみな、クズだった。

 しかし、愛した人だけは私にやさしくしてくれた。

 だから、彼の生活は守りたかった。

 私は、彼のために眠りについた。






 そうして七百年眠りについた私だが、そんな私を見つめる存在がいた。


「今回の聖女はとてもよく頑張ってくれました。孤児で悲惨な境遇だったのが幸いだったのでしょうね」

 完全に眠りにつく前に、まだ感覚が働いていたのだろうか。

 私の耳が人の声を拾う。

「なに、簡単なことさ。恋人役として甘い言葉をささやくのは慣れているものだからね」


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