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第一幕 終わる世界
01 序章 全ての終わりと始まり
しおりを挟む世界名 マギクス セントアーク遺跡 譜暦672年 『+++』
この世界において名の知らぬ者などいない存在、大魔導士サクラス・ネイン。
二十前後の歳のその女性は、いつもは星をたたえたかのように煌めかせている瞳を曇らせ、苦痛に表情を歪ませながら足を進めていた。
そんな女性の容姿は、よくできた人形のように整っている。
薄紅色の長い髪に、雪の様に白い肌。瞳は大粒の宝石のように煌めいて、髪色より僅かに色濃い紅色。そして身に着けている服は元の色は純白だっただろうドレスだ。
しかし間近でよく見れば、手足や体にはいくつもの細かい傷があり、衣服もところどころ煤で汚れていたり、破れていたりしているのが分かるだろう。
彼女が進むのはセントアークと名のつく遺跡の内部。
この世界の北の果て、雪と氷に閉ざされた大陸……リフリース凍土のさらに北の空に存在する建物の中。
そこは、浄化能力者の旅の最終地点であり、世界救世の重要地点……。
そして、サクラス・ネインが重要な役目を果たす場所でもあった。
サクラス……サクラは遺跡の硬い床を踏みしめて黙々と歩いていく。
ここに来るまでにサクラの仲間は何人も倒れていた。
彼女の友であるアイナやリク、花姫、シンカーやロゼなども同様。クレーディアや兵士達の大部分は遺跡にすら辿り着けていない。
サクラの歩みは遅い。彼女は時が経つにつれて、疲労に体が蝕ばれていっているようだった。
歩く事すらも苦痛に感じる状態にもかかわらず、それでもサクラはただひたすら歩み続ける。一歩ずつ。ゆっくりと。
そうして時間をかけて辿りついたのは遺跡の最上部だ。
その場所は空に開けていて展望台になっていた。
最上階の縁には柵などなく、足を踏み外せば重力に引かれて落ちるのみだろう。
床には巨大な魔法陣が刻まれていて、七色に代わる光を帯びて自らの存在を示す様に輝いている。
刻まれた魔法陣の内へと踏み入れ中央へと歩けば、その部分の床から七色に輝く光の粒子が、粒となって舞い散っていった。
見上げれば現在の時刻を示す様に深い闇色の空が広がっており、無数に輝く星々がこちらを見下ろしている。
広大な闇の中に浮かぶ光に沿うように、魔法陣から七色の粒が舞い上がる。
「綺麗……」
思わずと言ったように、彼女の口から言葉がこぼれた。
しばしサクラは、これまでの事もこれから成すべき事も全て忘れたように、その光景に見惚れる。
彼女はそうして、つかの間の鑑賞を行った後、視線を下げ、表情を引き締めた。
彼女は目を閉じて集中し始める。
この世界は、無限に繰り返す滅亡の危機に何度も晒されている。
サクラはここで、その連鎖を断ち切らねばならなかった。
彼女は祈りを捧げるかように両手を胸の前で組んだ。
そうすればすぐに、サクラの体は淡い紅色の光を放つようになる。
光は次第に強くなり、旋風を巻き起こすかのように女性を中心に渦を巻き始める。
その動きは、やがては展望台を光で埋め尽くす程になり、溢れんばかりのまばゆさで暗闇を照らし出した。
もはや、光の中に身一つでいるような状態になってしまったその場所。
魔法陣の中心で、サクラは最後の言葉を……願いを口にした。
「心に白いツバサを持つ者達……、この世界をお願いね」
そして、光が一層強く輝きを放つと同時に、流れ出したそれらは一点に集まり、夜空へと向かって光の柱を作ってみせる。
そして、光が収束し消え去った後、遺跡の最上部に人の姿はなくなっていた。
夜空を駆けて、星々に見守られながら長い旅を経た光は、やがて一つの異世界へとたどり着く。
文明が発達し、科学技術の栄える、巨大建造物の立ち並ぶ都市が、いくつも存在する世界へと。
そしてその中の、ある一つの学び舎の大きな一本の桜の木へ、辿り着いた。
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