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第四章 邪神ミュートレス01
第48話 この攻略対象、ラスボス感が半端ないです
しおりを挟むウナトゥーラ所有敷地内 離れ内部
こちらの身の上情報をまとめながら私達が避難したのは、離れにある建物の中だった。
普段はあまり使われていない場所なのだが、ちょっとした宴を開く時や、人が集まる時の為に用意した建物だった。
その離れに避難したお父様達は、難しい顔をしながらお母様と話し合っている。自分の屋敷に邪神がいた件について頭を痛くしているようだ。
離れの内部にいる者達の顔を確かめながら見回していくが、やはり少なかった。
屋敷にはまだ取り残された者達がいるだろう。
心配でしょうがなかったが、今ここを出て行こうとすれば止められるに決まっていた。
だがこの筋書きが、まだ大まかに一週目をなぞっているのならおそらくは大丈夫のはずだ。
邪神は他の者など見向きもせずに、まっすぐにこちらに向かってくるはずなのだから。
「お嬢、大丈夫?」
「お嬢様……」
心配するアリオとトールの声に「大丈夫」だと言いながらその時を待っていれば、やはり向こうからやって来た。
あらかじめ入り口近くに陣取っていたので、他の人達が建物の奥に下がっていれば、もしもの場合でも彼等に危害は加えられないだろう。
本音を言えば他の人の安全の為に離れから出たかったが、やはり周囲の者からきつく止められてしまったのでしょうがない。
「……来たわね」
玄関にあった大時計が、時刻を知らせる鐘が鳴る。
ちょうど夕食にぴったりの時間だ。
大体このタイミングで、前回も邪神はやってきた。
戦闘音が聞こえて来て、少しした後に離れの扉が勢いよく開かれる。
お兄様たちは黒猫に振り切られたのだろうか。
姿はまだ見えなかった。
だが、生きているだろう。
彼らはそう簡単にやられたりはしない。
直接見た事はないが一週目も、こちらが死ぬまでは大丈夫だったのだ。
私は二人の実力を信頼していた。
黒猫はおそらく二人に手をかけずに、振り切ってここまできた。
殺してからこちらを追う事も出来ただろうが、邪神はそうしなかったのだ。
きっとその方が確実だったにも拘らずに。
そこに状況を打開するヒントがある。
玄関の前に立つ影は一つ。
影自身は小さなものだ。
神話にあるあの邪神が猫になっていた、……など普通は分からないだろう。
しかし今の姿には片鱗がある。
まがまがしい黒色のオーラを体に纏わせた猫の姿は、やはりどこからどう見ても普通の動物には見えなかった。
「シャーッ!」
威嚇するような動作を見せ、こちらに近づいてくる。
「お嬢様!」
「お嬢!」
トールやアリオが私の前に出たが、心配は無用だった。
「アリシャ!」
「アリシャ殿!」
お兄様とウルベス様が、駆けつけてきたのが黒猫の向こうに見えた。
彼等もこちらの方を心配そうにみている。
「扉を閉めて、中へ入れ!」
お兄様がそう言うのだが、私はそれを拒否した。
私はその場を動かずに大きく息を吸って、人生でそうそう出した事のない大声を上げ、周囲の者達へ呼びかける。
「いいえ、皆その場を動かないで!」
私は正面にいる黒猫……邪神ミュートレスへと向き直った。
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