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第四章 邪神ミュートレス01
第44話 最後の攻略対象に襲われています
しおりを挟む「ありがとうございます、アリシャ様。貴方が私の主人で本当に良かった」
「他ならぬトールの為だもの、当然よ。でもそう言ってくれると、頑張ったかいがあるわね」
笑みをこぼしながら、こちらに礼を言った使用人の顔を見つめる。
そこにはもう、少し前の様な負の感情の色が見えなかった。
トールの暴走は収まった様だ。
狭かった彼の世界は、きっとこれから少しずつ広くなっていくだろう。
彼の中の自分の場所が少なくなってしまう事に、思う所がないわけではないが、それではトールの為にならない。
互いに新しい一歩を踏み出す為にも、これで良かったはずだ。
だが、そんな風に仲なおりしたのを見計ったかのように、物置の窓の外に黒猫の影がうつった。
口には小さな瓶の様なものがくわえられている。
「……」
そして猫はその窓ガラスに、勢いよく己の体を叩きつけた。衝撃でガラスが割れる。それを見た猫は、口にくわえていた何かを室内に投げつけてきた。
「トール!」
「え?」
トールが振り返るが、彼が現状を認識して行動するよりも、相手の行動の方が圧倒的に早かった。
室内の床に瓶が落ちて割れる。
中には液体が入っていた。
油の匂いがする。
そんな油に向けて、どこからともなく火が発生、一気に燃え広がった。
「っ! 下がっていてください!」
トールが慌ててその火を消そうとするが、整理されてしまった物置にはちょうどいい物が残っていなかった。
反対に私は扉を開けようとするが、しかし鍵がかかっていて開かない。
「お嬢様、出入り口は!」
「開かないわ!」
「そんな!」
このイベントは、本来起きるはずだったイベントで、このイベントに関係してトールの疑心は小さくなっていくのだったがやはり流れを変えたせいで、発生するのが遅れたようだった。
火はどんどん物置の中で燃え広がっていく。
このままでは、私達が丸焦げになってしまうのも時間の問題だろう。
いくら「痛みを感じない」体質だといっても、不快な感覚や煙による息苦しさなどは消せない。
生きたまま焼かれる事などまっぴらごめんだった。
だが、心配は無用だった。
窓の外から部屋の中の火に向かって土が投げ入れられたからだ。
それによって燃え広がろうとしていた火が少し弱まる。
「おーい、大丈夫か!」
次いでかけられたのは屋敷に勤める他の使用人の声だ。
ちょど通りかかった者が、すぐに火事に気がついたようだ。
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