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第三章 トール・ゼルティアス
第37話 色んな意味でイベントがやってきました
しおりを挟むふいに頭がふらついた。
トールのイベントに備えて気を張っていた為か、少し疲労がたまってしまった様だ。
「お嬢様、大丈夫ですか? 最近お疲れのように見えますが」
「そうかしら、別にいつもと変わらないわよ」
午前の時間、家庭教師に勉強を見てもらった後、昼食の前に気晴らしに中庭を散歩しようと廊下を歩いていると、ついてきていたトールに心配されてしまった。
「いいえ、少しだけお肌の血色が悪いように見えます。睡眠の時間はちゃんととられていますか?」
「心配性ね」
本当のところは言えないので、私はそう誤魔化すしかない。
いつものように過保護なトールの言葉を受け流しながら、下へと向かうために階段を下りる。
トールは腑に落ちない様子でこちらを見ていたが、私からは本当に何も言えないのだ。
これがお兄様やアリオならば、もう少し踏み込んだ相談ができただろうが、彼ではまだ駄目だ。
ウルベス様と同じようにトールは少々、頭の固い所がある。
ゲームの事はともかく、これから起こるかもしれない事について話しても、きっと今は信じてくれないだろう。
それどころか、正気を疑われかねない。
だが、そんな風に考え込んでいた最中。
どんっ。
いきなり衝撃が来た。
誰かが私の背中を強く押した感覚があったのだ。
「――っ!」
「お嬢様」
トールの叫び声を聞きながらも、予想していた私は受け身を取って階段を下まで転がり落ちるのを防いだ。
こういう時に痛くないのはありがたい。
すぐさま階段の上を見るが、犯人の姿は見えなかった。
どこかにぶつけたのか、腕から血が流れていたがそれは微々たる量だ。
「だ、大丈夫ですか! お怪我は!?」
駆けよって来たトールに対して、私は努めて冷静に答える。
「平気よ。貴方も知ってるでしょう? 私は痛みを感じないんだから。足を滑らせちゃったみたいね。心配をかけてごめんなさい」
誰かに押された事は明白だったが、一応口をつぐんでおいた。
トールのルートでは、好感度数値の高低に関わらず、選択を間違えた際に一発でバッドエンドになるルートがいくつかある。
これから私は、何度か屋敷内で危害を加えられることになるのだが、それら全てに遭遇してしまうか、またはその出来事を直にトールに話すと、ハッピーエンドルートに行けなくなってしまうのだ。
私ではなくてヒロインが活躍するゲームの場合でも、トールはそのヒロインの屋敷で働く事になり、そこで今みたいな事がおこるので、場所が変わっても運命は変わらなかったようだ。
それは一周目の時も同じだったので、ほぼ発生する事が確定したイベントなのだろう。
「しかし、先ほど背後に人の気配を感じたような……。誰かに押されませんでしたか?」
「気のせいよ。とりあえず、医務室に行って手当てをしましょう」
「分かりました」
疑い深く何事かを考えるトールの手をひいて、強引に医務室へと向かっていく。
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