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第三章 トール・ゼルティアス
第34話 主従の関係がややこしいです
しおりを挟むトールの部屋にあった似顔絵がどうして物置に移動してたのか、私達はその原因を探っていく。
「はぁ、似顔絵ですかぁ。私は存じませんが……」
屋敷の使用人達に聞き込みをしながら、私はそもそもの原因になった品物について思いをはせた。
「でもトール、あれをあげてから結構経つけど、あの似顔絵まだ持っていたのね」
「はい、他ならぬお嬢様に頂いた大切な品ですからね」
トールが大事にしている似顔絵。
それは彼がこの屋敷にやってきて一年が経った時に、私が描いて贈った品物だ。
彼は昔、疫病の影響で今はなくなっている町の中で、それなりに裕福な家に住んでいた。
しかしトールは、今見て分かる通りに、幼い事に家族やその土地の者の多くを亡くしてしまっている。
その時彼は、住む場所と生きる方法を失ってしまったのだが、運よく私の両親に拾われてこの屋敷で働く事になったのだ。
人からお世話される方だった彼は、初めの内は失敗だらけだった。
厨房に立たせればお皿は割るし、清掃を任せれば水をぶちまけて余計に汚すしで、それはそれはひどい有り様だった。
けれど、そんな彼も一年も経てばコツを掴んできたようで、他の者よりうまく色々な作業をこなせるようになっていたのだ。
私は年が近かった事もあり、そんな彼とすぐに親しくなった。
そして、トールが新しい生活になじんだ頃。
私は、彼にこの先も屋敷にいて欲しいと思いながら一生懸命似顔絵を描いて、自分の部屋で小さな歓迎会を開いたのだった。
トールはその時の事を思い出していたのか、微笑みながら私に向けて感謝の言葉を言う。
「あの時はありがとうございました。あの時の事があったから、私はここで今までやってこれたんです。当時は、仕事に慣れたとはいえ、まだまだ失敗もありましたからね。お嬢様が似顔絵をくださり、私を必要としてくださったから今の私がいるんです」
「そうだったの。でもやっぱりトールがやってこれたのは、他ならぬ貴方が頑張ったからよ」
「もったいないお言葉です。ありがとうございます、お嬢様。お嬢様がもしお困りになられた時は、これからも全力で力にならせていただきます」
「そこまで重く考えなくても……」
柔らかな表情で微笑んだトールは、少しだけ頬を染めて照れくさそうにする。
トールは、誉め言葉をもらう事すら勿体ないと思っている節がある。彼のその態度は一般から見れば謙虚だといえなくはないのだが、距離があるように感じられて好きではなかった。
「私、トールの事は家族みたいなものだと思ってるわ。もう一人のお兄様みたいに、だから……」
しかし私がその事を言おうとすると、いつも彼に遮られてしまう。
「良いんですよ、お嬢様、私は今の立場で十分満足していますから。それに……、私がこれ以上我が儘になってしまいますと、貴方が望んでいらっしゃるような形以上の関係を求めてしまいかねませんし」
「私が望んでいる関係以上?」
「秘密です」
言葉の真意を問えば、トールは唇に人差し指を立てて口を閉ざしてしまう。
その言葉の意味はゲームで分かっていた。
自らの主人である主人公に好意を寄せている、という意味で発したという事を。
けれど、私はそれに対して一度目と同じくためらってしまって中々踏み込む事が出来ない。
身近にいる分、今の関係が壊れてしまったらと恐怖してしまうのは、私も同じだったのだ。
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