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第三章 トール・ゼルティアス
第33話 新しいイベントのようです
しおりを挟むこの画用紙のイベントは前回は起きなかったものだ。
予想できなかった事態に困惑したのだが、私がやる事は決まっている。
後に待つ悲劇の結末を回避する為に、最善だと思う行動をとるしかない。
隣には落ち込んだ様子のトールが立っていた。
心ここにあらずといったその様子は、まるで魂が抜けてしまったかのような有り様で、つい心配になってしまう。
私は彼に声をかけた。
「大丈夫? トール」
「はっ、すみません、お嬢様。お嬢様からいただいていたものを知らない間に紛失してしまうとは、情けない限りです」
「良いのよ、見つかったなら。それに、トールはちゃんと大事にしてくれたんでしょう?」
「ええ、それはもう。そのはずだったんですが……」
とにかく、事情を調べなければならない。
トールは攻略対象の一人だ。
本来なら雨の中で「使用人仲間の探し物をする」という別のイベントが起きて、トールの話が始まっていくのだが、問題が起きてしまったのなら柔軟に対処するしかないだろう。
たかが紛失物、と放っておいてとんでもない出来事に発展させたくはない。
むしろ逆に、良い機会だと思うべきだ。
シナリオの行方やらなにやら関係なしに、いつもお世話になっている彼に何かしてあげたいという思いがあったのだから。
「お掃除している人達は、どうして物置にあったのか理由が分からないって言ってたわ。だから、聞くなら他の使用人達よね、一人ずつ地道に当たっていきましょう」
「はい、そうですね。でもよろしいのでしょうか」
こちらの提案に一度は頷いたトールだが、自分の用事につきあわせてしまう事に罪悪感を感じている様だった。
彼は、最初は一人でやるつもりだったのだ。
私は指で軽くトールの額を弾いてみせる。
「水臭い事、言わない。私とトールの仲でしょう? いつもお世話になってるんだから、これくらいさせてくれないと、私の方が罪悪感で潰れちゃいそうになるわ。難しく考えないで、気楽に一緒に散歩している風に考えればいいのよ」
「屋敷をお散歩ですか……」
腑に落ちないといった風の使用人。
トールは自分の失敗は自分で何とかしたいと考える人間だ。
極力人の助けを借りたがらないし、子供の頃はともかく、成長した今の彼には何でも自分一人でこなせるだけの器用さがある。
責任感の強い彼のそういうところは美点であるのだが、私は少し寂しく感じていた。
だから、私はトールを納得させるために、少しだけおどけた口調で、今思いついた言い訳を言葉にした。
「たまには自分の家を散歩してみるのだって良いでしょう? 幸いな事に私は貴族で、この屋敷はそれなりの広さがあるんだもの。自分の家の状況を把握するのも立派なお仕事。違うかしら?」
「……確かにその通りです。やれやれ、まったく……。お嬢様には敵いませんね」
屁理屈みたいな言葉だが、聞いたトールは苦笑を漏らした。
諦めた様子の彼は、私が同行する事を了承してくれたようだった。
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