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第一章 ウルベス・ジディアラーツ

第17話 成仏したので円満解決です

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 そして数分もしない内にその時が来た。
 気配がそれと分かる程、はっきり近づいてくる。

 ウルべス様は、怨霊を鎮める為の道具を取り出した。

 それは彼が持つ楽器、ゲームでは好感度チェックの恒例道具だったフルートだ。

 小さい頃にもらったらしい物。父の手作りだと教えてもらったその笛は、彼が屋敷に尋ねて来ても、一度も演奏してくれなかった物だ。

「音楽を奏でて怨霊を導くんですわね」
「ああ、怨念に取りつかれている魂には、言葉で語りかけるより音で語りかけた方が通じやすい」
「割とロマンチックな方法ですわね」
「君は一体どんな方法を、想像していたんだ?」

 ゲームのこのシーンに入る前は……、外国映画のエクソシストみたいに、十字架とか聖水とか用意して、何か長ったらしい呪文っぽいのを唱えるかと思っていた……などと言ったら、さすがに引かれるだろうか。

 前の人生では映画鑑賞が趣味だったので、そういうものもよく見たのだ。
 おかげで女子にあるまじきグロ耐性もついた。痛みの加護とセットでこの体質はとてもお得である。

 と、そんな事を言い合っているうちに、霧の向こうから怨霊が姿を現した。

 黒紫色の禍々しい光の球が浮いている。

「下がっていてくれ」

 私が下がると、ウルべス様は演奏しはじめた。
 悲しげな旋律が周囲に満ちる。

 怒り狂うように、身に纏う炎を揺らめかせていた怨霊は、笛の音が聞こえてからは徐々に大人しくなていった。

 やがてその姿を小さくさせて、一曲分の演奏が終わる事には、完全に姿を消してしまっていた。

 周囲の靄も晴れていた。

「お嬢様ー」

 遠くから使用人のトールが走ってやって来る。

 事実をありのまま話すと、後で父親から彼が叱られてしまうだろう。

 場合によってはクビという事になるかもしれない。
 だが、自然の霧が急に発生したせいで少しの間見失ってしまっただけなら、まだ庇い様があった。

「ウルベス様、申し訳ありませんがこの事は……」
「ああ、分かっている。私も人に話す事ではないと思っているしな」

 この場で起きた真相の目撃者にそういえば、そんな答えが返ってきた。

「君との秘密も悪くない」
「ありがとうございます」
「っ!」

 迷ったけれど、この世界では好意を表すのと同時に礼儀でもあるし、と私はウルベス様のフルートを持っていた手の甲に口づけをした。

 現実世界だったら、好きでもない人間にこんな事されたら、「何勘違いしてんのコイツ」という事になるし、私も恥ずかしいのだが、この行動が正しいという事は、ゲームですでに判明している。

 それに勇気を出してくれた礼を手っ取り早く示したかったのだ。

 わずかに頬を染めたウルベス様が、私の視線から逃れる様に顔を背けた珍しい様子は、駆けつけてきたトールの喧しさによってじっくり観察する暇がなかった。

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