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〇36 信じられない力
しおりを挟むデートして町を歩いていた時、その不幸な出来事が起きた。
事故で制御不能になった車がこっちにつっこんできて、近くにあった太い電灯の柱にぶつかった。
その影響で柱がぐらりと傾いて、倒れてきた。
僕は少し離れていたから、彼女にかけよれなかった。
あの時ほど、近くにいなかったことを後悔した事はないよ。
結果、つきあっている大事な彼女が、重い柱の下敷きになってしまった。
それを見た時、できるかどうか考えるよりも前に、体が動いていたんだ。
「今、助ける。大丈夫、絶対助けるからっ!」
とにかく必死だった。
彼女を助けなければ、とそれしか考えていなかった。
声をかけて、励まし続けながら、僕は手を動かす。
柱を手で支えて、精いっぱい持ち上げようと歯をくいしばった。
後から聞いた柱の重さは信じられなかったよ。
でも、できた。
持ち上げる事が出来た。
柱をどかして、下敷きになった彼女を助ける事ができたのだ。
事故を見ていた周りの人が、彼女の体を移動させてくれたから、僕はすぐに手を離してしまったけどね。
僕、実はあんまり体が強くなくて、重たい物を持つなんてそんなにした事なかったんだよな。
でも、事故が起きた時は緊急時だっから、体のリミッターみたいなのが外れたのかな。
人間は危機的状況に面した時、火事場の馬鹿力っていうのが出せるみたい。
確かに、あの時は信じられないくらい力が出ていたな。
きっと彼女を助けたい一心だったからだ。
愛の力がなした奇跡だよ。
なんて言ったら、退院した彼女は「その言い方は、恥ずかしいよ」と照れていたけど。
そして「もうあんな奇跡は起きないね」と彼女はいったけど、そんな事はない。
だって僕は彼女が好きだから。
君の危機なら何度だって、信じられないくらいの力を出せるはずだ。
もちろん危機なんて、ないに越したことはないけど。
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