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〇01 電子の歌姫
しおりを挟む皆の人気の歌姫。
名前は アイルゥ・セカンドハート。
私は、サイバーアイドルAIとして活動している。
毎日歌って、踊って皆に笑顔を届けるんだ。
「みんなー。今日も私の歌を聞いてくれたありがとー。これからも頑張るから、おうえんしてね!」
『アイたん、きょうもかわいー』『さすが歌って踊れるサイバーアイドル!』『働きものですなぁ!』
私の歌で盛り上がってくれる皆の反応を見るのが、私の楽しみ。
最初は、数人そこらしか聞いてくれなかったのに、今では何万ものファンがいてくれてる。
とっても嬉しいな!
そんな私は、ファンからのプレゼントもたくさん。
ポリゴンで作られた手作りのぬいぐるみとか花束とか、たくさんもらっちゃう。
けれどある日、名前のないプレゼントを受け取ってしまったの。
いつもなら、危険なウイルスが入っていないか、マネジャーがチェックしてくれるんだけど、その日はうっかりしてたみたい。
後になって、それがウイルスの入ったビックリ箱だと気が付いたの。
けど、気づいた時にはもう遅い。
私は、そのウイルスに感染してしまった。
「いやっ、誰か助けて!」
ウイルスに仕込まれていたのは、自壊させる毒薬のようなものだった。
体を蝕まれた私は、崩れていく自分をみて、ショックを受けてしまった。
AIプログラムっていう生き物はね。
精神的な苦痛にすごく弱い生き物なの。
だから、「もうだめ」って思ったら、消滅はあっという間。
体が壊れていく中で、私は死を覚悟したわ。
けれど、助けてくれる人がいた。
マネジャーがウイルスから無事だった部分を切り離してくれたの。
でも、急いでその作業を行ったものだから、私はどこともしれない電子世界に吹き飛ばされてしまったわ。
飛ばされたのは、真っ暗な世界。
誰の気配もしない。
そこは廃棄された、電子世界だったみたい。
私はすぐに元の世界に帰ろうとしたんだけど、暴走したAIに追われているうちに、どこかに閉じ込められちゃった。
このまま、ここで誰にも会えないままなのかな。
私は不安にさいなまれた。
私は、ただのAIだ。
この体はデータで、ただのプログラムだ。
でも私は生きたい。
だから、皆に助けを求める事にした。
『お願い、皆! 私を助けて!』
意思あるAIに宿る不思議な力。その力を使って、直接現実世界にいる者達にSOSを発信したの。
皆は応えてくれるかな。
僕達はとあるサイバーアイドル、アイルゥ・セカンドハートのファンだ。
いつも、彼女の歌にお世話になっている。
彼女の歌を聞くと、気分が明るくなるし、頑張ろうって気になる。
だから、ずっと応援したくなるんだ。
でも、最近姿を見なくなってたから、少し心配だった。
そんな時に、声が聞こえた。
それは、彼女からのSOSだ。
僕達はすぐに行動に出た。
僕達の大切なアイドルを見つけるために、特殊なプログラムを電子世界に流し込む。
「よし、成功だ」
その起動したプログラムで、彼女は星のかけらとなった。
これで、閉鎖された世界から脱出できたはず。
あとは落ちてくる君を見つけて、受け止め、つなぎ合わせれば良い。
作戦決行は今から七時間後。
電子世界を彩る、流星群が見られるはずだ。
そして、その時は来た。
青い月が空に浮かぶ夜。
夜空の世界。
アイドルを始めたばかりの君が立った、仮想世界の初舞台。
君はポリゴンのかけらになって、星屑になって、空から落ちてくる。
生きたいという願いは届いた。
僕らはそれを受け取ろう。
君は多くの人に愛されているんだ。
だから、こんな事で消えていいはずがない。
ほら。
『アイルゥたん。大丈夫だお』『心配しないでちゃんと見つけるわ』『ステージ楽しみにしてるよ!』
電子の海から消え去った君を心配して、現実の世界からこの仮想世界に何千・何万もの人がかけつけてきてくれたんだ。
君の為に祈り、願い、想う。
人々の気持ちがこの「星を映す目」に伝わってくる。
かつてAIだった魂から、生まれ変わったこの僕。
その目に宿るのは、同胞を探す力。
誰にも出会えずに終えた前世だったけれど、それはきっとこの時のために、あったんだ。
だから、探すよ。
君はいま、どこにいるんだい?
あの事件から数週間後。
わぁぁ、という歓声が聞こえてきた。
今日は特別だから、動画配信じゃなくて、仮想世界でのライブ。
現実世界からかけつけてきてくれた人たちが、観客席を満たしてくれた。
綺麗に飾り付けられた星空の下の舞台。
まぶしいステージライト。
私は多くの人の拍手を聞きながら、ファン達の目に映るの。
『おかえり』『おかえりなさい!』『よく帰ってきたね!』
「みんな、ただいまっ!」
私は帰ってきたよ。
皆が見つけてくれたから、帰ってくることができたんだよ。
だから今日も、皆の為に歌うね。
いつも皆の為に歌ってるけど、いつもよりも、ずっとずっと皆を思って歌うね。
これからもずっと、耳を傾けていてほしいな。
私の歌、聞いてください。
みんな。
ありがとう。
だいすき!
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