上 下
1 / 1

01 名前のない怪物の名前

しおりを挟む



 その怪物には、名前がない。

 誰かが名前を付けてくれるのを待っていた。

 その怪物は、どうして名前がないのか分からない。

 もしかしたら以前は名前があったかもしれないが、その記憶に心当たりはない。

 怪物は名前が欲しかった。

 いつも体が不安定で、心が頼りなくて、気を抜くと消えてしまいそうになるからだ。

 でも、名前があれば消えないと思った。

 だから名前が必要だった。

 怪物は待ち続けた。

 自分に名前を与えてくれる人が現れるのを。

 ずっと、ずっと待ち続けた。

 百年。

 二百年。

 三百年たっても。

 そうして死の間際になった時。

 ようやく誰かがその怪物に名前を与えた。

 怪物は喜んだ。

 屍という名前を、与えられて喜んだ。

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...