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〇86 笑われてしまった
しおりを挟む 遠慮がちにガラス戸がノックされる。顔を向けると、逆光の中で手を振る人影が見えた。ソファから立ち上がり傍に寄れば、バスケットを手にしたリューイが
「まだ少し早いけれど、庭を歩いてから、お昼にしようと思って」
約束どおりに訪ねてきた。フェリスは、庭に出るのだからと与えられたドレスの中で一番シンプルなものを選び、髪をひとつに編んで用意をしていたが、本当にリューイがくるのかどうかを疑っていたので、顔をほころばせた。
「何か、私が持っていくものは、あるかしら」
「草花を愛でる心さえあれば、大丈夫」
さあ、とリューイが手を差し伸べてフェリスが手を添える。ガラス戸を越えて草の上に降り立つと、あるかなしかの風に緑の香りが含まれてフェリスを包んだ。思わず深く息を吸いこんだフェリスの姿に、リューイの目がまぶしそうに細められる。
「おいで……フェリス」
指を絡めて手を引かれ、柔らかな草の上を進んでいく。日に照らされた緑がまぶしいほどに輝いていた。開放感に心が浮き立ち、足取りは軽くなる。
見事に選定された庭の低木には白い花が咲き、はちみつのように甘い香りを漂わせている。見たことも無い花に顔を近づけ、レースを集めたドレスのような姿に吐息を漏らした。
「きれい」
うっとりとつぶやいたフェリスの横から手が伸びて、花を一輪ほろりと枝から奪うと彼女の髪に挿した。え、と顔を上げたフェリスの頬を、花を挿した手で撫でてリューイがにっこりと笑う。
ぽわ、とフェリスの頬が赤く染まった。
「行こう」
手を取られて再び歩きはじめる。高い庭木の傍を抜けると、噴水が見えた。
「わぁ……」
スアル王国には、噴水は無かった。城内の庭に添えつけられている池に小さな滝があり、水が落ちる姿は見たことがあるフェリスだったが、水が空に向かって吹き出すところを見るのは初めてで、こぼれるほどに目を開く。言葉を失うほどに驚き、動きを止めてしまったフェリスの姿にリューイは控えめな自慢をにじませた。
噴水を凝視したまま、フェリスは夢の中に居るような足取りで進んでいく。噴き上がった水が上げるしぶきが顔にかかるほど近づき足を止め、呆然と眺める。空に向かう水がこぼれ、きらきらと日の光を含んで舞う姿は現実とは思われず、フェリスは両手を伸ばして弾ける水に触れようとした。
「危ないッ」
「まだ少し早いけれど、庭を歩いてから、お昼にしようと思って」
約束どおりに訪ねてきた。フェリスは、庭に出るのだからと与えられたドレスの中で一番シンプルなものを選び、髪をひとつに編んで用意をしていたが、本当にリューイがくるのかどうかを疑っていたので、顔をほころばせた。
「何か、私が持っていくものは、あるかしら」
「草花を愛でる心さえあれば、大丈夫」
さあ、とリューイが手を差し伸べてフェリスが手を添える。ガラス戸を越えて草の上に降り立つと、あるかなしかの風に緑の香りが含まれてフェリスを包んだ。思わず深く息を吸いこんだフェリスの姿に、リューイの目がまぶしそうに細められる。
「おいで……フェリス」
指を絡めて手を引かれ、柔らかな草の上を進んでいく。日に照らされた緑がまぶしいほどに輝いていた。開放感に心が浮き立ち、足取りは軽くなる。
見事に選定された庭の低木には白い花が咲き、はちみつのように甘い香りを漂わせている。見たことも無い花に顔を近づけ、レースを集めたドレスのような姿に吐息を漏らした。
「きれい」
うっとりとつぶやいたフェリスの横から手が伸びて、花を一輪ほろりと枝から奪うと彼女の髪に挿した。え、と顔を上げたフェリスの頬を、花を挿した手で撫でてリューイがにっこりと笑う。
ぽわ、とフェリスの頬が赤く染まった。
「行こう」
手を取られて再び歩きはじめる。高い庭木の傍を抜けると、噴水が見えた。
「わぁ……」
スアル王国には、噴水は無かった。城内の庭に添えつけられている池に小さな滝があり、水が落ちる姿は見たことがあるフェリスだったが、水が空に向かって吹き出すところを見るのは初めてで、こぼれるほどに目を開く。言葉を失うほどに驚き、動きを止めてしまったフェリスの姿にリューイは控えめな自慢をにじませた。
噴水を凝視したまま、フェリスは夢の中に居るような足取りで進んでいく。噴き上がった水が上げるしぶきが顔にかかるほど近づき足を止め、呆然と眺める。空に向かう水がこぼれ、きらきらと日の光を含んで舞う姿は現実とは思われず、フェリスは両手を伸ばして弾ける水に触れようとした。
「危ないッ」
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