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〇40 モノクロ王子は、悪役令嬢の断罪で輝く

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 その少女はやっと自分の愛を表現する方法を見つけた。
 しかしそれは、悪役になる事でしかできない事だった。

 少女が愛をつらぬけばつらぬくほど、その愛は実らなくなるだろう。
 それでも少女は進む。悪の道の上で茨を踏みしめながら。





 私には気になる人がいる。
 その人は王子様だ。
 その人を見つめているだけで、幸せな気持ちに慣れた。
 けれど私は、その王子様を見つめていると、いつも違和感を感じてしまう。

 王子様が、いつもつまらなさそうな顔をしていたからかもしれない。

 それに。
 王子様の周囲の光景は、いつもモノクロに見えたのが気になった。





 お父様が国の要人だと言う事で、私は幼い時によく王宮へ足を運んでいた。

 小さい頃から、様々な者達と知り合い縁を作っておく事が大事だという事で、お母様と社交会場へよく顔をだしていたのだ。

 だから私の幼少時代は、様々な人達との思い出で彩られている。

 成人として認められている十五の歳になるまで、ずいぶんと多くの人と触れ合ってきたものだ。

 けれどその中、私の記憶の中では、いつも一人の色あせた少年がいた。

 あの王子様。

 私の目に映る景色はいつも色とりどり、豪華な王宮の室内や、綺麗な服を着た貴族や要人達ばかりなのに、その少年のまわりだけ色がついていないように感じたのだ。

 国の王子様だというのに、どうしてだろう。

 誰もが憧れる生活を、誰もが羨む立場を持っているのに、どうしてそんな風に見えたのだろう。
 私には分からなかった。





 大きくなって学校に通う様になって、その理由が分かった。

 王子様の周りには多くの人が溢れているけれど、それはうわべだけの付き合い。

 心を許せるような、本当に仲の良い友達はいなかったのだ。

 偽りだらけの世界に意味を見出せなくなった、とつまらなさそうにする王子様の瞳がそう言っているようだった。

 そんな王子様に話しかける事ができたら、私の人生は何か変わっていただろうか。

 後になっていくら考えてみても分からない。その時何か行動していたら、私の淡い恋心は報われていたのだろうか。

 今さらだ。

 今になって思い返しても意味がない。

 現実として、彼を助けたのは私ではなかったし、彼をそのモノクロの世界から救い出したのは、私ではない人だった。

 ある日、王子様の周りにやってくるようになったのは、一人の女。平民の女性だ。

 私の通う学校は、貴族や王族、国の要人しか通えないが、特別に成績の良いものは平民でも通う事ができたのだった。

 その平民の女性は、王子様の存在が気になるようで。

 何度もちょっかいを出した。

 どうしてそんなにつまらなさそうな顔をしているのか、あきらめたような目をしているのか。と、質問しては、王子を困らせていた。

 平民の女性は、貴族社会のルールにうといらしい。

 だから、時々突拍子もない事をしてしまう。

 身分を気にせずだれかれ構わず話しかけたり、相手を侮辱するような作法を知らずにおこなってしまったりなど。

 それで他の者達から反感をかってしまう。

 それを見た王子様は、彼女を擁護をするはめになった。

 目の前で、いきすぎた行為や差別的な事が行われているなら、立場ゆえに咎めないわけにはいかないのだろう。

 他人が起こした面倒事にまきこまれているようにしか見えなかったのに、王子様はどことなく楽しそうにしていた。

 私はわずかな嫉妬心を覚えた。

 私にはできない事ばかりなのに、何も知らない彼女がどうしてそんなに簡単にできるのか。

 どうしてそんなに気安く王子様と接する事ができるのか。

 何も知らないから、のんきに失礼な行動をとる事が出来るのだろう。

 彼女を見つめる時は、知らず表情が険しくなってしまう。

 だから、そんな気持ちにつけこまれたのだ。

 平民の女性を虐める集団がいて、その者達に利用された。

 気が付いたら、私はその集団が起こした嫌がらせの主犯格にされてしまった。

 私の目撃証言がでっちあげられて、偽物の黒幕になってしまった。

 その結果、私は王子様に断罪され、学園を去らなければならなくなってしまった。

 淡い恋心を抱いていた相手である王子様に責められたあの瞬間の事は、一生忘れられない。

 濡れ衣であるという私の言葉は、聞いてもらえなかった。






 私が学園から去ってからも嫌がらせは続いたようだ。

 王子様はまた忙しくなったが、遠くから眺めた彼の周囲はもはやモノクロではなくなっていた。

 彼はなぜか、以前より生き生きしていた。

 もしそれが本当ならば、誰かが悪にならなければ幸せになれない人がいる、のだろう。

 王子様は、愛する人を守る事で、輝く事のできる人間だったのだ。

 ならば、私は悪役のまま、その役目に徹しよう。

 嫌がらせを続けている者達と接触をはかる事にした。

 ずっとこの恋心をどうやって表現すれば、どうやって伝えればいいのか分からないでいたけれど、この方法なら無理なく行えるから。

 だから、私は王子様の思う通りの悪役をこれからも演じる事にした。

 最高の結末ではない。

 けれど、私は愛の為に行動できて、好きな人のためにもなれる。

 だから、いつか断罪の最後に、命を落とす事になったとしても、わたしはきっと満足だろう。


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