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〇08 王子様、まだ告白してないので死なないでください 02.06
しおりを挟むいきなりですが。
私の愛する人は王子様です。
です、が!
戦場で毎日暴れまわっているやんちゃ坊主です。
けっこういい年してるんですけどね。
楽しそうに、戦場をかけまわってますよ。
国の顔、重要人物である存在、王子が。
王子なら、普通大人しくお城の中で、屈強な体の護衛達に囲まれているのが当然でしょう。
しかし、王子はいま戦場にいる。
ど真ん中に、いる。
大勢の敵を前にして、堂々と立っている。
俺を狙えと言わんばかりの仁王立ちで立っている。
その王子が敵に中指立てて、背後を振り返る。
「野郎ども! さっさとついてこねーと、手柄がぜんぶ俺の門になっちまうぞ!」
剣を持って振り回す王子は、敵の軍勢に囲まれてもまったく危機に陥らないし、かすり傷も負わない。
それどころか、一瞬で屍の山を築いてしまう。
とても強かった。
私は、こめかみをおさえながら他の兵士達に命令を下した。
特務隊の隊長でよかった、とこんな時は心から思う。
こんな時、あの王子の面倒を細かく見れるから。
「王子だけを先行させるな。あれでも、曲がりなりにも王子だ。その命をしっかりとお守りしろ!!」
王子の背中はもう遙か彼方。
部下達はもう絶対に追いつけないだろうとは思いつつも、立場的にそう言わざるをえなかった。
まったく。
大丈夫だと思うけど、死なないでくださいよ。
まだ告白してないんですから。
数時間後、見えなくなるぐらいまで先に行ってしまった王子は、敵の大将の首を持って帰還した。
その体は、めちゃくちゃ真っ赤に染まっていた。
しかしこれが初めてではないので、他の兵士達はなれたようす。
敵の大将を受け取って、王子に綺麗な布切れやらお水やら、なんやらを与えていく。
王子は体をふきふき。
私はくちのはしをぴくぴく。
ついでに額の青筋も同様な感じだ。
「王子!! あれほど言ったではありませんか。部下を、兵士を置いて一人で先に進まないでくださいと! もしあなたの体に何かあったら、どうするんですか!」
「俺強いし、面倒くさい事考えるの苦手なんだよな。王座でふんぞり返っているくらいなら、体動かした方が人一倍働けるぜ」
「そうかもしれませんが自重してください。命を落とす事になったら、国はどうなるんですか。国民達が大変な思いをするのですよ! それに王様やお妃様だって心配してしまいます!」
「うるせーなぁ。民よりまず俺の心配してくれよ」
「してますよ。してるから言ってるんじゃないですか」
言い合いは平行線で、両者譲らず。
しだいに疲れてきて、話がうやむやになってしまうのが、いつもの流れだ。
王子は、兵士達に労われながら体を清めるために、天幕の奥に引っ込んでいく。
その際。
「ったく、お前が強い奴が好きだっていったから、頑張って体鍛えたのによ」
こんな事をいってきた。
「いつの事ですか。それは木剣片手にごっこ遊びをしていた頃の事でしょう」
王子の背中を見てため息をついた。
なんとかこの人に大人しくしてもらう方法はないんだろうか。
今は王子が無双しているが、遠い国ではすぐれた飛び道具が開発されたと聞く。
何かあってからでは遅いのだ。
数週間後、その日の戦場にはどこか不穏な空気が満ちていた。
だから、私はいつもより念入りに王子に注意をしたのだが、相手はやはり聞いてくれなかったようだ。
王子はいつものように活躍して、戦場であばれまわる。
わたしの心配は杞憂だったのかもしれない。
そう思いかけた。
しかし、状況が変わった。
敵が細い槍のようなものを飛ばす、新兵器を使用し始めた。
空から降り注ぐ小型の槍は、瞬く間に味方の兵士の体に風穴をあけていく。
戦場は負傷者でいっぱいになった
すぐに手当てをしなければ。
敵を攻めるどころではなくなってしまった。
退却の指示を出しながら私は、王子の身を心配していた。
戦場の中を探し回ると、離れた所に小さな槍を体の各所からはやした王子が見つかった。
一目でわかる、かなり重症だ。
王子はこれまでか、と飯田なら膝をついていた。
「何をいってるんですか! 諦めるなんて、らしくない」
私は王子をひきずるようにしてその場を離脱していく。
空が暗くなったのに気が付いて頭をあげると、空中に何百・何千のやりが浮かんでいるのがみえた。
まさにそれが落下してこようとしている。
けれど、王子は茫然としたままだ。
「あきらめないでください!」
「あきらめたくもなる。俺は強くなんかない。弱かった。見ろ! 部下をこんなに死なせちまった!」
周囲を見回せば、あえて今まで視界にいれなかった亡骸たちが目に入った。
本当は王子が優しい事は分かっていた。
部下を死なせないために、戦を早く終わらせるために、一人で先行してしまうという事を。
「私がほれた王子は、強かった私に何度も木剣で叩かれてもまったくめげなかった人ですよ。こんな所で諦めてどうするですか。強いから惚れたんじゃありません」
「!」
王子ははっとした顔で、私を見た。
そして、「すまん、許せ!」と言って倒れていた亡骸を背負って固定する。
おそらく盾にするつもりなのだろう。
そして王子は、私を抱き上げて、「俺に捕まっていろ」といって戦場を駆け抜け始めた。
「うおおおおお!」
これまでに見たこともない速さで王子は戦場から陣地へと戻っていく。
空からはいくつもの槍が降り注いだけれど、戦友の亡骸が王子の身を守ってくれた。
一時は死にそうな思いをしたが、幸いにも生き延びる事が出来た。
空から降り注いだ小さな槍はいくつか王子や私の体にもささってしまったが、致命傷になるほどではなかったのが幸いだ。
手当を受けて、ベッドの上で数日過ごした事、驚異的な回復力を見せた王子が、見舞いの花束を持ってきた。
「お前はあきらめない俺が好きだったんだな。気づかなかった。悪い。結婚してくれ!」
違った。
見舞いじゃなくて、求婚の花束だった。
そういえば、どさくさ紛れに告白をしてしまった事を思い出す。
嘘だといって訂正しようかと思ったが、これまでにない真剣な顔をみて思い直した。
「ええ、そうです貴方の事が好きなんです、だから今まであれこれうるさく言っていたんですよ」
「やはりそうか。もう無茶はしない。だから、お前はもう戦場には出てこないでくれ。本当は兵士の皆も出したくないけど、それじゃ国を守れないからな」
これからの王子は、私が注意しなくても大丈夫だと思う。
暴走して先行しすぎない、と約束してくれたから、それほど危ない目にはあわないとおもう。
ずっと、彼が心配で戦場に立っていたが、その役目はもう終わりらしい。
彼が戦場で活躍するようになってから、国の要人達が言ってきていたのだ。
子供の頃から仲の良かった私の言葉なら、聞いてくれるかもしれない。
だから、同じ戦場に立って、王子の行動を制止してくれと。
結果は、これまでに見ての通りだったが。
まさか、ただの思い違いが原因で王子が戦場で暴れていたとは。
強い人が好きという言葉の意味を、彼が間違えて覚えていたとは。
「分かりました。戦場にはもう出ません、その代わり、無茶はしないでくださいね」
「ああ! もちろんだ。もう強さを見せる必要はなくなったし、お前とあたたかい家庭を築くまでは死ねないからな!」
私はほっとした気持ちで、肩の荷が降りた気分をあじわっていた
新しい兵器が出た事だし、今後は王子が戦場に出る機会は減っていくだろう。
代わりに国の将来が心配になったが、それはもう個人で悩める範疇ではないので、皆で考えていくしかない。
最初から投げている。
しかし、
「俺は諦めない。諦めないのが強みの男だ。今はだめでも、いつかはあの空飛ぶ槍をこの肉体で克服してみせる! 仲間の無念を晴らすために打ち勝ってみせるぞ!」
「それは絶対に無理でしょうね。いつかも、遠い未来も無茶するのは禁止です!」
自分の強さに今までそれなりの自信を持っていた王子の事だから。
もう少し戦場に出て彼を見張っていたほうがいいかもしれない、とそう思えてしまった。
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