ザ・ライト文芸(女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

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〇21 クリスマスはイルミネーションに感情が滲んでいるよう

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 学校帰りに町中を歩いていくと、つくづく思うんです。

 季節の行事って、ちょっと不思議な力があるなって。





 クリスマスになると、イルミネーションで町中が宝石箱になったみたいになる。

 昼間に見ると、配線だらけでちょっと無骨な所が多いけど、夜になったら様変わり。

 ロマンチックなムードを演出してくれる。

 雰囲気って、大事。

 いつもと違うって思うだけで、なんとなくうきうきしたり、どきどきしてくる。

 行事って、当たり前の日常が少しだけ、違って見えてくる魔法なんだよ。

 身近な世界だけど、その世界からちょっとずれちゃったような感じを気軽に楽しめちゃう。

 だから、なのかな。

 いつもとはちょっと違う事をやってみたい、って思う人が少しだけ多くなるのかもしれないね。

「○○君と○○ちゃん、つきあう事にしたんだって」

 学校内の噂の中で、誰かと誰かが恋人同士になったって話が増えてきた。

 みんな、一人より二人の方が楽しいって思っているのかな。

 それとも雰囲気につられて、いつもと違う自分を楽しみたいって思ってるのかな。

 どっちもそうなのかもしれない。

 もしかしたらこの空気を利用して、ずっと秘めていた気持ちを告白するチャンスだと思ったのかも。

 とにかくクリスマスになると、その雰囲気が皆を少しだけ幸せにしてくれる。

 だけど一人ぼっちでも、楽しみたいって心があれば大丈夫。

 寂しい夜の闇に、あかりを灯して心を照らし出してくれるんだ。

 でも言葉にしてそういう事いうと、「なんかそのセリフ、負け組みたいだね」とか言われちゃって、ちょっとむっとしちゃう。

 そうなのかな?

 私はぜんぜんアリだと思うけどな。

 一人で町を歩いてても楽しかったのに。

 あの時感じた楽しい気持ちを否定されたみたいで、ちょっとしょんぼり。

 もちろん皆で楽しむと、色んな楽しみが増えて、なんだかとっても楽しいって感じがするの、すごく良いと思う。

 でも私は、一人でだって十分楽しめると思うの。





 学校帰り、町を歩いていると男の人と女の人で一緒に歩いている人達が多くなってきた。

 皆、楽しそう。

 しあわせそう。

 どことなくうきうきした空気っていうのが、薄く広く町中に広がっているかんじ。

 イルミネーションの明かりの中に感情が滲んでいってるみたい。

 こんなに綺麗な景色の中で、町の中を歩く人をみて「あの人は勝ち」とか「あの人は負け」とか考えたくないな。

 うーん、考えてたら何だか、もやもやしてきちゃった。

 これじゃあ、町の中は相変わらず宝石みたいにキラキラしてるのに、なんだかもったいないって思っちゃう。

 そんな事かんがえてたら、お店のショーウィンドがぴかっ。

 豪華なクリスマスツリーが「こんばんわお嬢さん」って話しかけてきた。

 お店の人ががんばって飾り付けたみたい。

 ピカピカのクリスマスツリーは、たくさんのオーナメントを身にまとって、頑張って立ってる。

 少し離れた所からは、おいしそうな匂いが漂ってくる。

 クリスマスチキンのお店。

 でも漂ってくるのはあったかいスープのにおい。

 ほわほわの湯気が、お店の裏手から出ていってる。

 見てるだけであったかくなってくるな。

 ガラスの向こうのお店の中には、楽しそうな人たち。

 家に帰って、家族で食べるのかな。

 ビニール袋を手に下げたスーツ姿の男性が、「もうすぐ帰るよ」ってどこかの誰かに電話してる。

 誰の顔を思い浮かべているんだろう。

 分かる。きっと好きな人の顔だ。

 すると、頬につめたい感触。

 びっくりしながら空を見上げたら、ふわふわの小さな雪がダンスしてる。

 天使の羽みたいだなって手を差し出してみれば、ひらりひらり。

 冷たくなってくるのに、羽が一つずつ集まってくると、なんだか嬉しい。





 これなら私は、さっきまでの気分を忘れて、足取り軽く家に帰る事ができそう。

 道行く人達はあいかわらずで、楽しそうで、どことなく浮かれていて。

 そして、町の中もずっと宝石箱みたいなまま。

 きっとこんな特別な雰囲気を楽しめないのはもったいないから。

 だから私も、皆みたいに、楽しい気分になってるよ。



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