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〇10 鏡の世界

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 鏡の中にはもう一つ別の世界があるんだよ。

 いつだったか私に向けて、クラスの中にいる物静かな女の子が言ってた事がある。

 あんまり静かだから、みんなその子の存在を時々わすれちゃってて、たまに発言するとびっくりする子。

 だから、ずっと覚えてたのかな。

 で、なんでそんな事を言ったかっていると、目の前に大きな鏡があるからなんだ。

 家族と一緒に、美術館に行ったんだ。

 それが今日。

 鏡の展覧会を見てるんだけど、一番最後の区画にはとてつもなく大きな鏡があったんだよね。

 部屋の中がぜんぶうつるような鏡。

 だから、びっくりしてついじっくり観察しちゃった。

 鏡なんて、普段あんまりみないけど、ここまで大きいと珍しくなっちゃう。

 いつもは、鏡そのもの自体より、そこにうつっているものの方みてるんだけどね。

 あらためてじっくり観察してみると、見れば見るほど不思議だなって思う。

 そこにあるはずがないのに、あるように見えるから。

 鏡の世界にある。

 でも、鏡の裏側にはない。

 とっても不思議。

 手を伸ばしてみた。

 すると、するっととおりぬけてしまった。

 それはとても、おかしな事だけど。

 なんだか頭がぼうっとして、まあいいかって思ってしまった。

 するする。

 伸ばした手がどんどん、鏡の中に入っていく。

 このまま入っていったら、どこに行くんだろう。

 鏡の中の世界ってあるのかな。

 好奇心につられるまま、腕を鏡の向こうにつきだしていくけれど、お母さんとお父さんが私を呼ぶ声がした。

「先に行っちゃってたのね」
「勝手に歩いて行ったらだめじゃないか」

 両親はすぐ後ろにいたようだ。
 気が付かなかった。

 私は、慌てて振りかえって「ごめんなさい」と言った。

「もう帰るわよ」
「ここで、展示区画は終わりみたいだな」

 私はお母さんとお父さんと手をつなぎながら、展示会場から出ていった。

 出口で係員の人が他の人と何か話しをしていた。

 手になにか小さなものを持ってる。

「おかしいですね、出た人間と入った人間の数がこんなにあわないなんて」

 後から分かった事だけど。

 その日、数人の人間が行方不明になったようだった。

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