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〇80 ドライネーム

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――神様は、その少年を見て渇き世界と引き合わせた。




 とある少年。

 アステルはゲーム好きの少年だ。

 三度のご飯より、は大げさだがそう言ってもいいくらいには好きだった。

 たくさんのサイトでゲームのクリアレビューを書いていた。

 遊ぶのは、有名なゲームからコアなゲームも。

 色々なものをやるため、多くのファンに知られている存在だった。

「何か面白いゲームないかな」

 だからアステルが、その変わったゲームと出会ったのも、必然だったのかもしれない。

 いつも通りの訪れたゲームショップ。

 そこで、アステルは興味深いゲームに出会った。

「面白そうなゲーム発見、なになに? 荒廃した世界で冒険?」

 それは、枯れゆくばかりの世界を舞台にしたRPGファンタジーゲーム。

 砂漠の景色がパッケージに描かれているのが特徴だった。

「安いし、買っていこうかな」

 その価格は五百円。

 学生のお小遣いでも購入できる値段だ。

 アルバイトをしているアステルは、普通のゲームも買えるが、安いに越したことはなかった。

 そのゲームは、フィールドにもの悲しい廃墟が多い特徴がある。そんな世界観が目立つ商品だった。

 主人公がいなかったら、近い未来消滅していただろう村や町を舞台にしている。






 アステルは、荒廃していく世界で冒険する、そのゲームに夢中になった。

 その世界は、だんだんと水の恵みが得られなくなっていく世界。

 人々は水の少ない生活の為に、苦難の時を過ごしていた。

 井戸はいくつも枯れていて、川や湖も干上がりかかえていた。

 雨は何日も降らない日が多い。

「今日も雨がふらない」

「川の底が見えてしまっているよ」

「海があれば。近場にあった泉もかれてしまった」

 拠点としている村のNPC達はいつもそんな事を言っていた。

 そのためゲームの中の人々は、祈りの巫女という存在にすがるしかなかった。

 祈りの巫女は、雨ごいを行うための存在だ。

 村はずれの神殿で、祈祷を用いて天へ祈りを捧げている。

 アステルが訪れた時も祈っていた。

「雨よ、天よ。どうか私達に水の恵みをください」

 中学生程の年代の少女だった。

 神殿の祭壇を前にして、真剣な表情で祈りの言葉を口にしていた。

 彼女が祈る事で、天は水の恵みをもたらすはずだった。

 しかし、巫女が祈っても、一向に状況は改善しなかった。

「やっぱり、雨が降らないわ。このままじゃ、皆の生活がまわらなくなってしまう」

 雨は降らず、世界は枯れるばかり。

 一か月ほどもそれが続くと、人々は、次第に余裕をなくしていった。

 そして、巫女に辛くあたるようになっていった。

「役目を果たせない巫女なんて、巫女失格だ」

「きちんとはたらけよ」

「なんでちゃんとやってくれないんだ」

 そのため巫女は、人々の手によって茨の檻にいれられ、外に出られなくなってしまう。

 それでは余計に事態が悪化するばかりだというのに。

 余裕のなさは、人々から正常な判断力を奪ってしまったのだ。

「なんだか世界が物騒になってきたな。一人の女の子によってたかって責めるなんて。気持ちはわかるけど、見てられないよ」

 そんな世界を冒険するでアステルは、巫女の祈りが力を発揮しない原因を調査する事になった。







 さっそく行動していくアステルは、色々な土地にいって、雨ごいの儀式を調べた。

 様々な巫女に合って、儀式のやり方や効果を聞いていく。

 そして、分かったのは。

「触媒が問題だったのか」

 雨ごいを行う代々の巫女は良質な触媒を用いて、雨を呼ぶ魔法を行使していた。

 しかし、枯れつきていく世界では、その触媒はとれない。

「悪質な触媒しか、のこってないんだ。この土地には」

 必要になるその触媒は、みずみずしい草花だったからだ。

 だからアステルは旅をして、遠くのまだ枯れていない地から草花をもってくる事にした。

「お兄さんこんにちは、たびびとさん?」

「遠くからきた人なんだって?」

「何の目的でこちらまで?」

 それはその土地の人々に聞いては、あちこちでより質のいいものを探す日々だった。







「やっと見つけた、この触媒があればどうにかなるかも」

 そして、それをとうとう発見した。

「この土地は、とても肥沃だ。それにまだ雨が降っていて、水が豊かだ。ここならきっと」

 アステルは、アイテムの品質が変わらない保存バッグを使用して、それを運ぶ事にした。

 ゲームの設定で最初から持っているものだ。

 他の人はもっていないため、なぜなのか思っていたが、こういった役割の為かと納得する。

 はるばる遠方の地へ向かったアステルは、拠点の村へと戻る。

 肥沃な大地から土ごと運んできた触媒。

 枯れた土地にとって、貴重になるそれは、見事に触媒の役目をはたした。

 人々に旅の事を告げて、祈りの少女を開放し、祭壇へ。

 祈りの少女はアステルにお礼を言った。

「アステルさん、ありがとうございます。これで雨を降らす事ができます」

 そして、巫女が行った雨ごいの魔法は成功。

 その結果祈りの巫女は、人々と仲直りする事ができるようになった。

「今までごめんね」

「余裕がなくてむしゃくしゃしていたとは言え、酷い事を言ってしまった」

「なんであんなことをやっちまったんだろう。悪かったよ」

 雨をふらす曇り空に歓喜する人々。

 人々は今までの事を巫女にあやまって、彼等は仲直りする事が出来た。

 その光景を眺めたアステルは、そのゲームをやってよかったと心の底から思った。

 ゲームはエンディングになり。

 そのまま、終わるかに思えた。

 しかし、なぜか情報誌やネット情報にもない続きがあった。






 水の恵みを取り戻した世界。
 
 しかし、それは一時的な恵みにすぎない。

 その世界の人々は、再び世界が枯れていくかもしれない、と不安に思っていた。

 そして、枯れていく世界の中で余裕をなくし、心が鬼の様になってしまう事を恐れていた。

「アステル様、どうか引き続いてお知恵をおかしください」

「奇跡をもたらしてくださったアステル様なら、さらなる奇跡を呼び起こせるかもしれません」

「我等をお導き下さい」

「えっと、困ったな、こんな事になるとは思わなかったんだけど」

 アステルは、困った人達を見て、放っておけなくなっていた。

 その世界の状況をなんとかしたいと思うようになっていた。

 しかし、その世界はゲーム。

 それ以上何か手を加える事などできない。

 アステルは、どうしようもなかった。

 けれど、二度目の奇跡が起きたのだった。

 その様をどこかで見ていた神様が、アステルに微笑んだ瞬間だった。







 枯れゆく世界の中の一人、神の力を有する巫女。

 祈りの巫女の願いが、アステルをその世界へ呼び寄せたのだった。

「この世界にいる神様、どうか奇跡を。今までの十分に感謝しています。しかし私達はまだ足掻いて生きなければなりません。どうか私達のような、非力な人間をお導き下さい」

 光がはじけ、世界が繋がり、奇跡が形を成す。

 その時、世界は再構築され。

 データだった者達の塊には、確かに存在感がやどっていた。

「えっ、これって異世界転移とかそういう?」

 アステルは、巫女の祈りによって顕現したその世界に転移していたのだった。







 異世界に転移してしまったアステルは戸惑い、巫女もデータだった世界の真実を知ってショックを受けた。

 しかし、彼等はその真実を乗り越えて、世界の存続をはかる事にした。

「正直ぜんぶわりきれたわけじゃないけど、ここに生きてる人達を見捨てるなんてしたくない」
「アステルさん、巻き込んでしまった罪は必ず償います。ですからどうか今は、力と知恵をおかしください」

 彼等は、枯れ行く世界をどうにかするために、様々な手を打った。

 その世界の各地を歩き回り、地質や天候を調査し、歴史をひもとき、

 そして、潤いを奪う古代の機械を見つけ、壊し、

 降り注ぐ水の恵みを逃さぬよう町や村の形を作りかえた。

 そして、途絶え絶滅した緑の芽を復活させ、緑の少ない土地へ芽吹かせ、様々な命を育んでいった。

 アステル達の尽力により、世界はゆっくりとゆっくりと息を吹き返していった。

 生ける奇跡と化したアステルと巫女はやがて、時の流れから切り離されてしまったため、長い間その世界で過ごす事になった。

 しかし、彼に後悔はなかった。

「この世界に出会えてよかった。こんなにも人から求められる事は今までなかったから。役に立ててこっちの方が救われたよ」

「本当に後悔はないのですか。貴方は巫女である私もこの世界の人達も責めないけれど」

「少しもわだかまりがないと言ったらうそになるけど、大切な感情の方が今は大きいから」






 アステルと巫女はその世界とともに、長い時を過ごした。

 そして愛する世界が十分に回復するのを見届けて、彼等はの世界を去っていったのだった。



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