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〇72 記憶に残らない出来事

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 俺達のやった事はこの世界の誰の記憶にも残らない。

 けれど、やった意味はあるんだ。

 俺達は最後の戦いを終えた後、その場所で儀式を行う準備をしていた。

 俺達は命をかけて、世界を滅茶苦茶にした破壊神を倒した直後なのだが、まだもう一仕事が残っている。

 へとへとでも、体に活を入れて作業した。

「この儀式が終われば過去が書き換わって、破壊神が生まれなかった世界になる……ようやくここまでこれた」

 俺はこれまでの出来事を思い起こしていた。

 最初に破壊神が破壊した町から生き延びて、様々な仲間と出会って。

 世界をよくするための方法を少しずつ探してきた。

 そして、破壊神を倒す方法を見つけ出し、過去を変える補法も見つけ出せた。

 もちろん無傷でとは言わない。

 まったく困難がなかったわけではない。

 今までたくさんの仲間が散っていった。

 犠牲になった人達は数えきれないほどだ。

 それでも、それは無意味にはならなかった。

 俺はその儀式の準備が終わるのを見た。

 戦いの一番の功労者だからといって、今まで休ませてもらっていたけれど、最後くらいは俺がやらないとな。

 仲間達が互いに感慨深そうに話をしている。

「本当にやるのね」
「あったりまえだろ、ここまできたんだ。やらねぇなんて選択肢はねぇよ」
「そういう意味ではないと思うぞ、感慨深く思っているのだろう」
「なんだよ、よくわかんねーな。わっかりづれーんだよ。人間の言葉はよ」
「おいおい、そりゃお前が頭がぱぁなだけだろ? お前が獣人だからって問題じゃねぇ気がするぜ、ひゃはは!」

 軽口をたたく皆はは、充実感に満ちた顔をしている。

 どんな時でも困難を乗り越えながらここまできた者達だ。達成感は格別なのだろる。

 俺は彼等の元に歩み寄った。

「マスター」
「おっ大将」
「若様」
「怒れ野郎」

 彼等が俺の事を呼ぶ。

 そこには全幅の信頼が寄せられていた。

 けれど、そこに少しの不安もある。

 彼等に出会えてよかった。

 彼等がいたからこそ、俺はここまでこれたのだから。

 彼等と歩んだ幸福な思い出は消えてしまうけれど、

 それだけでなく俺達が理不尽な破壊に抗った希望ある出来事も消えてしまうけれど、

 それと引き換えに平穏な日々が戻ると言うのなら。

「皆、やるぞ。なに、恐れる事はないさ。俺達ほど強い絆があるなら、きっと新たな世界でもまた出会えるはず」

 安心させるように彼等に微笑みかけて、この世界をなくすために、俺は最後の仕事にとりかかった。

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