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〇16 カゾとクーヘル

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 小さな村にすむカゾは、妖精を捕まえるのが得意な少年だ。

 妖精は高く売れるから、お金のないカゾにとっては良い仕事だった。

 綺麗な羽を持って、飛び回る妖精は、貴族の目を楽しませる鑑賞用の生物だった。

 だから、その日もカゾは、妖精を捕まえようと考えていた。

 カゾは孤児で、身よりがない。
 だから、世話をしてくれる人間がいない。
 生きていくために、自分でお金を得る必要があった。

 カゾはその日、妖精を捕まえるための、網や籠もしっかり用意していた。

 森にいって、妖精が潜んでいるとされる葉っぱの裏や、石の裏、木の穴の中を探していった。

 カゾはそこで、一匹の妖精を見つけた。

 けれど、カゾは傷だらけの妖精を見て、ためらってしまった。

 その妖精は、今まで捕まえた妖精とはひどく違う状態で、今にも死にそうだった。

 カゾは、可哀そうに思って、妖精を手当てする事にした。

 人間と妖精の体の構造は違う。

 だから、薬を投与するのも包帯をまくのもだいぶ苦労する事になた。

 しかし、カゾは全てをやりとげた。

 回復した妖精は、カゾになつくようになった。

 目の前で飛び回ってダンスしたり、頭の上に着地して一緒に過ごしたりした。

 その妖精は、カゾの事を敵だとは思っていないようだった。

 他の妖精はたいてい人間を見たら、逃げ出す。

 しかし、その妖精は物を知らなかったのか、それともカゾの事を例外だと思ったのかもしれない。

 次第に、カゾと妖精は仲良くなっていった。

 カゾはその妖精に、クーヘルとなずけた。

 しかしカゾはお金がない。

 妖精に治療のためにダイブ出費した。。なけなしの貯金はすっからかんだった。

 だからカゾは、他の妖精を捕まえようと思った。

 けれど、できなかった。

 他の妖精にも情がわいていたからだ。

 食べ物も変えない日が続いた。

 お金のないカゾはすぐに飢えていった。

 飢えると力が出なくなるので、満足に動けなくなる。

 そうなると、死は時間の問題だった。

 そんなある日、カゾの状況を知ったクーヘルが、食べ物を探しに出かけていく事にした。

 クーヘルは、カゾに内緒で家をでた。

 しかし、妖精はお金儲けのための貴重な道具であったため、多くの者達から追いかけまわされた。

 クーヘルはすぐに捕まってしまった。

 売り飛ばされたクーヘルは、大きなお金と共に、どこか見知らぬ土地へ運ばれる事になった。

 カゾは、クーヘルがいなくなった部屋に気が付いて、慌てた。

 おなかがすいて、動けないと思っていたのが嘘のように力がわいてきていた。

 カゾは信じていなかったがその時だけは、それが裕福な者達が言う神の奇跡という奴かもしれない、とおもった。

 しかし、起こった奇跡は一つだけだった。

 カゾは一生懸命、付近を探したけれどクーヘルを見つける事ができなかった。

 クーヘルはそのまま帰らない。

 いつまでたっても。

 カゾは泣いて、泣いて、泣き喚いた。

 カゾは家族が欲しかった。

 だから、名前のない孤児であった自分に、カゾという名前をつけたのだった。

 カゾはクーヘルと家族になりたかったのだ。

 けれど、クーヘルは決して帰らない。

 いつまでたっても。

 ずっと。

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