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〇80 いつか世界を壊せるように 愛されたはずのヒロインの破滅的な願い

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 その少女は願う。

 闇組織の牢獄で。

 光の刺さない闇の世界で。

 暗殺の道具として育てられながら。

 いつか世界を壊せるように。

 世界の全てを壊せるように。

 と。

 少女のとりまく世界は悲惨で、過酷で、目も当てられない。

 救いなど存在しない世界だった。

 誰かを犠牲にしなければ生きてはいけない。

 誰かを踏み台にしなければ、その時点で自分が命を落としてしまう。

 そんな世界だった。

 だから少女は、願った。

 いつか世界が壊れるように。

 苦しみしかない世界が壊れるように。

 苦しむだけの世界がなくなるように。

 その少女の願いは叶う。

 悪の組織で育てられた少女は、同じ境遇にいた、同じ年頃の少年少女の命を犠牲にして生き残った末に、邪神の力で世界を制する。

 しかし少女が望んだのは、悪の組織とは違う終着点。

 世界制覇などではない。

 少女はその力で世界を滅ぼし、人間達も、人間達が築いたものもすべて滅ぼしていった。

 そんな少女が、最後に残った自分の命をも滅ぼそうとした時、その少女の前に一人の人間が、異世界からの転生者があらわれた。





「僕は悪役令嬢を愛している。だから悪いけど、愛する彼女が破滅してしまわないように、ヒロインであったはずの君と運命を入れ替えさせてもらった」

 少女は本来ならば、闇の世界から助かるはずだった。

 ヒロインとして多くの男性から愛され、守られるはずだった。

 その後の人生で栄光が約束されていたはずだった。

 しかしそうなったのは、悪役であったはずの人間の方。

 一人の人間の手によって、ヒロインの運命は捻じ曲げられ、悲惨な人生に書き換えられてしまった。

 少女は激高したが、転生者が宿したチート能力によって、返り討ちに遭って命を落とした。

 邪神を宿した人間が討伐された後、転生者のチート能力によって隠れ潜み、生き残っていた者達があらわれる。

 転生者と、悪役令嬢と、一部の人間達が。

 彼等は、力を合わせて世界を再び作り直していった。





「いつか世界を壊せるように」

 悪役と運命を入れ替えられてしまったヒロインの願いは、叶わなかった。



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