78 / 90
〇78 異世界に転生した悪役令嬢はとっとと国から追放されたい
しおりを挟むきらびやかな装飾があちこちに施されている舞踏会の会場。
そこで、キラキラした雰囲気をまとった人物。
国の王子は私に向かって何か言っていた。
「――だから、――であり、――なのだ!」
その発言の内容はどうでもいい。
どうせ何を言うかなんて分かっている。
なので右から左へ聞き流していた。
王子は大声で喋っているから、私達は注目の的だ。
先ほどまで踊っていた周りの人達がこちらを見ている。
でも、それもどうでもいい。
喋り続ける王子の背中には、可憐な少女がいた。
小柄で小動物的な雰囲気がある。
見ているだけで庇護欲がそそられるような人物だ。
少女はこちらをちらりと伺うが、決して私と視線を合わせる事はなかった。
当然よね。
貴方は、私に濡れ衣きせてるんだもの。
私は学園モノの乙女ゲームの世界に転生していた。
立場は悪役令嬢だ。
攻略対象や主人公達に断罪されて、表舞台から姿を消すキャラ。
その乙女ゲームには三つのルートがあるが、悪役令嬢たどりつく未来はどのルートでも同じだった。
だから、破滅しないように大人しくしていたのだが。
それでは、いくつかのイベントが発生しない。
主人公と攻略対象との仲が深まらないのだ。
例えば。
悪役令嬢に嫌がらせされた主人公が泥水をかぶり、着替えてるうちに登校時間が遅くなる。
そこで攻略対象と下校するイベントが始まる、とか。
悪役令嬢に階段からつきおとされて、足首に怪我をする。その後、保健室にいくと保険医とイベントが始まる、とか。
けれど、私には知った事ではないので、特に行動に移さなかった。
好き好んでそんなやばい行動したくない。
それに。
前世で乙女ゲームはやっていたけれど、それは人付き合いのためだった。
学生だった私がクラスの女子のグループからはぶられないように、するためだったから。
だから、原作に関する思い入れなんてないし、人の恋の行方なんてどうでもよかったのだ。
けれど、そのままでいいとは思わない人物がいたらしい。
それは主人公だ。
主人公も転生者だったらしい。
乙女ゲームの世界に転生したんだから、攻略対象と情熱的な恋愛がしたい。
とでも思ったのだろうか。
主人公は、本来起こるはずだった悪役イベントを、自らの手で起こしていた。
自分で泥水をかぶったり、階段から転げ落ちるとか正気の沙汰じゃないわよね。
でも、主人公はやってしまった。
自作自演の事件を。
主人公は、本来悪役になるはずだった私を無理やり、嫌がらせの犯人に仕立て上げた。
とんだ濡れ衣だ。
それで、冒頭の出来事に戻る。
王子はまだ何か言っている。
「と言う事で――、許せない――。彼女に嫌がらせを――!」
早く終わらないだろうか。
国の王子の反感を買ってしまったんだから、どうせ国から追放されるか、身分を落とされるかのどちらかだろう。
ゲーム通りなら追放一択だが。
まさか、死刑になんて事はなるまい。
この国では一定の地位にある人物は何をやっても死罪にならないという、犯罪被害を受けた者から見たら真っ赤になるようなルールがあるのだから。
私の地位、というか家の格はそこそこなので、どう転んでも死罪にはならない。
腐った世の中の仕組みに助けられるとは、なかなか複雑である。
「というわけで、お前は国から追放させてもらおう」
考え事をしていたら、やっと長セリフが終わったようだ。
私は「分かりました」と言い、さよならの挨拶をして、すんなりとその場から去っていく。
腐った国の中にいる、さらに腐った人間とは関わりたくない。その一心である。
周りにいた人間や当事者たちが驚くがどうでもよかった。
追放された時の事は前々から考えていた。
悪役になろうとはみじんも思わなかったが、運命の強制力なども考えて、こんな事もあろうかと色々準備しておいたのだ。なので、困る事はそれほどない。
家族や友人には申し訳ないと思うが、
王子の背後にいる主人公が「えっ? そんなあっさり認めていいの?」という顔でびっくりした顔をしているが、交わす言葉などひとこともない。
腐った国とさよならしたいという意思もあるが。
私は「2」のシナリオを知っているから。
私が前世でやった、乙女ゲームには続編があった。
その続編では、「1」のヒロインが死亡してしまうのだ。
発売当初はかなり非難されたシナリオだった。
国も未曽有の危機にさらされるとかだった。
だが幸いにも、そのおかげで国は綺麗な国へと生まれ変わり、「2」の主人公や攻略対象達と共に立て直されるのだ。
なので、牢屋に入れられずに追放されて良かった。
家族には、その時期にあわせて、それとなく国外脱出するように仕向けておこう。
ふるまいを見るに、主人公は「1」しか知らないようだったが、そんな事は私の知った事ではなかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる