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〇78 異世界に転生した悪役令嬢はとっとと国から追放されたい

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 きらびやかな装飾があちこちに施されている舞踏会の会場。

 そこで、キラキラした雰囲気をまとった人物。

 国の王子は私に向かって何か言っていた。

「――だから、――であり、――なのだ!」

 その発言の内容はどうでもいい。

 どうせ何を言うかなんて分かっている。

 なので右から左へ聞き流していた。

 王子は大声で喋っているから、私達は注目の的だ。

 先ほどまで踊っていた周りの人達がこちらを見ている。

 でも、それもどうでもいい。

 喋り続ける王子の背中には、可憐な少女がいた。

 小柄で小動物的な雰囲気がある。

 見ているだけで庇護欲がそそられるような人物だ。

 少女はこちらをちらりと伺うが、決して私と視線を合わせる事はなかった。

 当然よね。

 貴方は、私に濡れ衣きせてるんだもの。





 私は学園モノの乙女ゲームの世界に転生していた。

 立場は悪役令嬢だ。

 攻略対象や主人公達に断罪されて、表舞台から姿を消すキャラ。

 その乙女ゲームには三つのルートがあるが、悪役令嬢たどりつく未来はどのルートでも同じだった。

 だから、破滅しないように大人しくしていたのだが。

 それでは、いくつかのイベントが発生しない。

 主人公と攻略対象との仲が深まらないのだ。

 例えば。

 悪役令嬢に嫌がらせされた主人公が泥水をかぶり、着替えてるうちに登校時間が遅くなる。
 そこで攻略対象と下校するイベントが始まる、とか。

 悪役令嬢に階段からつきおとされて、足首に怪我をする。その後、保健室にいくと保険医とイベントが始まる、とか。

 けれど、私には知った事ではないので、特に行動に移さなかった。

 好き好んでそんなやばい行動したくない。

 それに。

 前世で乙女ゲームはやっていたけれど、それは人付き合いのためだった。

 学生だった私がクラスの女子のグループからはぶられないように、するためだったから。

 だから、原作に関する思い入れなんてないし、人の恋の行方なんてどうでもよかったのだ。

 けれど、そのままでいいとは思わない人物がいたらしい。

 それは主人公だ。

 主人公も転生者だったらしい。

 乙女ゲームの世界に転生したんだから、攻略対象と情熱的な恋愛がしたい。

 とでも思ったのだろうか。

 主人公は、本来起こるはずだった悪役イベントを、自らの手で起こしていた。

 自分で泥水をかぶったり、階段から転げ落ちるとか正気の沙汰じゃないわよね。

 でも、主人公はやってしまった。

 自作自演の事件を。

 主人公は、本来悪役になるはずだった私を無理やり、嫌がらせの犯人に仕立て上げた。

 とんだ濡れ衣だ。





 それで、冒頭の出来事に戻る。

 王子はまだ何か言っている。

「と言う事で――、許せない――。彼女に嫌がらせを――!」

 早く終わらないだろうか。

 国の王子の反感を買ってしまったんだから、どうせ国から追放されるか、身分を落とされるかのどちらかだろう。

 ゲーム通りなら追放一択だが。

 まさか、死刑になんて事はなるまい。

 この国では一定の地位にある人物は何をやっても死罪にならないという、犯罪被害を受けた者から見たら真っ赤になるようなルールがあるのだから。

 私の地位、というか家の格はそこそこなので、どう転んでも死罪にはならない。

 腐った世の中の仕組みに助けられるとは、なかなか複雑である。

「というわけで、お前は国から追放させてもらおう」

 考え事をしていたら、やっと長セリフが終わったようだ。

 私は「分かりました」と言い、さよならの挨拶をして、すんなりとその場から去っていく。

 腐った国の中にいる、さらに腐った人間とは関わりたくない。その一心である。

 周りにいた人間や当事者たちが驚くがどうでもよかった。

 追放された時の事は前々から考えていた。

 悪役になろうとはみじんも思わなかったが、運命の強制力なども考えて、こんな事もあろうかと色々準備しておいたのだ。なので、困る事はそれほどない。

 家族や友人には申し訳ないと思うが、

 王子の背後にいる主人公が「えっ? そんなあっさり認めていいの?」という顔でびっくりした顔をしているが、交わす言葉などひとこともない。

 腐った国とさよならしたいという意思もあるが。
 私は「2」のシナリオを知っているから。






 私が前世でやった、乙女ゲームには続編があった。
 その続編では、「1」のヒロインが死亡してしまうのだ。

 発売当初はかなり非難されたシナリオだった。
 国も未曽有の危機にさらされるとかだった。

 だが幸いにも、そのおかげで国は綺麗な国へと生まれ変わり、「2」の主人公や攻略対象達と共に立て直されるのだ。

 なので、牢屋に入れられずに追放されて良かった。

 家族には、その時期にあわせて、それとなく国外脱出するように仕向けておこう。

 ふるまいを見るに、主人公は「1」しか知らないようだったが、そんな事は私の知った事ではなかった。



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